大開口からサクラを楽しむ面積以上の広さと親密空間のある家

大開口からサクラを楽しむ面積以上の広さと
親密空間のある家

敷地は12坪

エリアを絞っていたためなかなか土地が見つからず、たずねて回った不動産屋が100軒以上。それでも思うような物件に出会えなかったため、ずっと気になっていた青空駐車場の持ち主の家にまで赴き思い切って直接掛け合ってみたという。

そしてなんとか入手できたのは、車2台を置くだけのスペースしかなかったという、広さ12坪の敷地だった。計画はこの場所に自宅兼事務所を建てようというもの。ここから藤井夫妻のチャレンジが始まった。


出窓が外観デザインを特徴づけている藤井邸。3階の出窓の下部には緑が置かれている。

出窓が外観デザインを特徴づけている藤井邸。3階の出窓の下部には緑が置かれている。

構造的な意味のある補修のみで、他は打設したままで手を加えていない。階段がそのまま延びてキッチンの棚になっている。

構造的な意味のある補修のみで、他は打設したままで手を加えていない。階段がそのまま延びてキッチンの棚になっている。


寸法を抑えに抑えて

最大の課題は面積の小ささをどのように克服するか、だった。藤井さんの建築事務所でともに働く奥さんは「とにかく床を縦に積んでいって何平米の家を建てることができるかに集中してプランをスタディしました」と話す。サクラの木のある南側の景色をどうやって切り取るかも気にかけながらの作業だった。
だいたいのプランが見えてきた段階からは、住宅で通常必要とされるサイズを崩して、「家ではない寸法」で検討を重ねていったという。「高さも幅も、わたしたちが通常の設計ではやらない寸法まで抑えに抑えて、お風呂やトイレがやっと入るといったレベルまでやりました」(奥さん)


キッチンの天板は実験的にムクの木を使用。グレー1色の空間の雰囲気をこの木の色が和らげている。

キッチンの天板は実験的にムクの木を使用。グレー1色の空間の雰囲気をこの木の色が和らげている。

出窓をつくる

藤井邸の大きな特徴のひとつである出窓の案が出てきたのもプランがほぼ固まったあたり。バルコニーをつくる案を経て出てきたものだという。「バルコニーにすれば空間が広く見えるし公園からも中が見られることもない。これでいこうかと思ったんですが、この部分がまっすぐになってしまうんですね」
「この部分」というのは、3階のリビングダイニングの南側で、目の前の壁などに対して斜めになっている部分。この部分を取ってしまうと、部屋というよりは廊下のような空間になってしまう。そこで、出窓をつくって全部を内部化する案を考えたという。「出窓にしようということになり、最初はふつうに1カ所だけポコっと出したんです。でも、出窓部分は床面積に入らないこともあって、検討を続けるうちに現状のような案に落ち着きました」(奥さん)


寝室前のスペースから見下ろす。3階のリビングダイニングの南側部分は3面がガラスの開口になっている。吹き抜け部分の高さは4.5m。

寝室前のスペースから見下ろす。3階のリビングダイニングの南側部分は3面がガラスの開口になっている。吹き抜け部分の高さは4.5m。

2階のリビングダイニングからキッチン方向を見る。上部のラワン合板はグレーに塗っている。

2階のリビングダイニングからキッチン方向を見る。上部のラワン合板はグレーに塗っている。

2階の奥に浴室とトイレ、どちらもサイズを抑えに抑えた。

2階の奥に浴室とトイレ、どちらもサイズを抑えに抑えた。


「断面方向の検討をする中で、出窓の高さを決め、さらに、出窓をベンチやテーブルに使うアイデアも出てきました」と話すのは藤井さん。

面積のほかに予算も厳しめだったため、藤井邸ではRC造を選択した。S造の場合だと、断熱材を入れて内外を仕上げないといけない。しかしRCにして、断熱なしにすれば仕上げる必要もなく、家具も躯体と一体化して施工すれば大工工事も少なくすることができる。

要するに工事の種類を可能な限り抑えて予算の削減を図ったわけだが、窓廻りも木造やS造に比べ、ディテール的にも難しくなく、かつ広がりも得ることができるというメリットがあったという。


裏手に首都高が走っているため、寝室は防音のために開けるよりも閉じる方向で考えた。しかし、引き戸を開けるとこのように開放感を味わうことができる。

裏手に首都高が走っているため、寝室は防音のために開けるよりも閉じる方向で考えた。しかし、引き戸を開けるとこのように開放感を味わうことができる。

寝室前から見る。

寝室前から見る。
 

テラスは物干しに活用している。

テラスは物干しに活用している。

寝室の壁にはピーコンの穴を利用して夫妻のバッグがかけられている。

寝室の壁にはピーコンの穴を利用して夫妻のバッグがかけられている。


ユニークな仕上げ

藤井邸の大きな特徴のもうひとつはコンクリートの仕上げだ。実際には一部補修をしただけで仕上げてはいないのだが、奥さんが「打ち放しではなくてやりっ放し」というその表面の質感がとてもユニークなのだ。

「きれいなのはイヤだった」「ツルツルなのはイヤだった」と夫妻で口をそろえて話すコンクリートは、内部でも岩のようなデコボコがかなり目に入ってくる。

「青みがかったグレーみたいになってしまうと、たぶんビルのような強さが出てきてしまう。その“ビル感”というか主張の強さをうまく打ち消せる感じって何だろうと考えた時に、ザラっとしていて風化しているぐらいがいいんじゃないかとなって普通型枠で施工をしました」(奥さん) 


2階の事務所スペースも3面が連続したガラス窓になっている。

2階の事務所スペースも3面が連続したガラス窓になっている。

打ち合わせスペースの上部の斜めの部分には、本や配管などを収めたスペースになっている。

打ち合わせスペースの上部の斜めの部分には、本や配管などを収めたスペースになっている。

住宅部分へと通じるドアを開けて見る。

住宅部分へと通じるドアを開けて見る。

テーブルとして使用されている出窓部分をこのように開けて外気を採り入れることが可能。

テーブルとして使用されている出窓部分をこのように開けて外気を採り入れることが可能。

1階打ち合わせスペースのトイレは、スペースだけでなくトイレ自体も極小サイズ。

1階打ち合わせスペースのトイレは、スペースだけでなくトイレ自体も極小サイズ。

事務所スペースから打ち合わせスペースを見る。

事務所スペースから打ち合わせスペースを見る。


しかし、現状のようなデコボコな表面にするつもりはなかったという。「たまたま打設したのが夏で、4回とも35度以上の日で、コンクリートを打ってもすぐ固まってしまう。形状が複雑なうえにコンクリートがうまく流れなくて大変でした」。打設時の暑さはコテで押さえる前に固まってしまうほどだったという。階段のエッジなどがところどころ欠けているのもそのせいだ。

補修は構造的に意味を持つ部分のみにとどめて、構造と関係ないところはあえてそのままにした。そのせいで“ビル感”、強い感じは減っているような気がするというが、デコボコだけでなく、使用型枠の違いや雨の濡れ具合などにより場所によって色合いも全然違うものとなった。


コンパクトなスペースでの階段のデザインには苦労したという。これは踏み面を三角形にして面積を増やし歩きやすくしている。

コンパクトなスペースでの階段のデザインには苦労したという。これは踏み面を三角形にして面積を増やし歩きやすくしている。

3階のベンチ部分から、2階出窓の上に置いた緑に水をやる奥さん。奥さん曰く「新しい壁面緑化」。

3階のベンチ部分から、2階出窓の上に置いた緑に水をやる奥さん。奥さん曰く「新しい壁面緑化」。

オリジナルのテーブルはベンチのコーナの角度に合わせてデザイン。サクラの季節用に脚の短いヴァージョンもつくった。

オリジナルのテーブルはベンチのコーナの角度に合わせてデザイン。サクラの季節用に脚の短いヴァージョンもつくった。


南側にはサクラの木が立つ。春先や秋口などには屋上に出てランチを食べることも多いという。野菜を植えていて、夏にはナス、トマト、ピーマン、オクラ、レタスを育てたという。

南側にはサクラの木が立つ。春先や秋口などには屋上に出てランチを食べることも多いという。野菜を植えていて、夏にはナス、トマト、ピーマン、オクラ、レタスを育てたという。


サクラの季節には……

しかしコンクリートのボコボコ感と色のばらつき、これが良かったのではないだろうか。この空間で壁・天井がフラットで色が揃っていると冷たいというか落ちつかないだろう。実は、この家では身体にフィットした心地の良い親密さのようなものが感じられるのだが、それは空間のコンパクトさだけでなく、このコンクリートの質感と色にも大きく影響されているのだ。

実際「中に入ったときに皆さんにこれで良かったんじゃないとおっしゃっていただくことが多い」そうだ。サクラの季節に、この空間で、3階に置かれているテーブルとセットでつくられた座卓のようなテーブルで低い位置から満開のサクラを見上げて楽しむのは格別だろうなと思った。


サクラの季節に南側の公園から見る(下の写真とも、藤井伸介建築設計室提供)。

サクラの季節に南側の公園から見る(下の写真とも、藤井伸介建築設計室提供)。

3階のリビングダイニングから満開のサクラを見る。

3階のリビングダイニングから満開のサクラを見る。


藤井邸
設計 藤井伸介建築設計室
所在地 神奈川県横浜市
構造 RC造
規模 地上3階
延床面積 75.07 m2