Architecture

理想的な形で実現した3世帯住宅空間の増減もカスタマイズも
可能な快適空間で暮らす

理想的な形で実現した3世帯住宅  空間の増減もカスタマイズも 可能な快適空間で暮らす
建築家の鈴木淳史さんの自邸は、母、姉夫婦との3世帯住宅。姉夫婦から、皆で一緒に暮らすのはどうかという提案があったことがこの住宅を建てるきっかけとなった。

その頃、鈴木さんはちょうど結婚を予定していたが、新婚夫婦とお母様との2世帯住宅を建てるのには踏み出せないでいたところだったという。「でも、姉夫婦から話があって、3世帯の生活を考えるのは面白いかなと。それと、3世帯だったら人間関係もうまく回るんじゃないかなと思ったんですね」と鈴木さん。


形と仕上げの違うボリュームが寄せ集まって出来たような鈴木邸は3世帯住宅。
形と仕上げの違うボリュームが寄せ集まって出来たような鈴木邸は3世帯住宅。

小さなボリュームをつなげる

鈴木邸は色も素材も異なる小さな家を寄せ集めてできたような外観が大きな特徴となっているが、こうしたデザインとするひとつの契機となったのは2011年の震災だったという。「計画している時に震災があって、がちっと決められたものをつくるというのに自然と疑いを持つようになって、もうちょっと簡単で弱いものとして建物をつくれないかなと」

そこから、住んでいる人が自分の発想で手を加えていける建築をつくりたいと思い、ある程度自分の手でカスタマイズしていけるボリューム感のちっちゃい家をつなげていこうということになったという。


3.8mと高めの天井が気持ちの良い姉夫婦のキッチンとダイニング。左に中庭。
3.8mと高めの天井が気持ちの良い姉夫婦のキッチンとダイニング。左に中庭。
ダイニングテーブルの上で猫のモスがくつろぐ。
ダイニングテーブルの上で猫のモスがくつろぐ。
正面と右の壁の上部がガラスになっているが、浴室との間の右の壁上部は外との関係性を遮断しないためにそうしたという。
正面と右の壁の上部がガラスになっているが、浴室との間の右の壁上部は外との関係性を遮断しないためにそうしたという。
リビングから寝室を見る。天井が斜めになっているのは斜線制限のため。
リビングから寝室を見る。天井が斜めになっているのは斜線制限のため。


ただ、小さな家をつなげてはいるが、鈴木邸は単体でもそれぞれ構造的に成り立つようにつくられている。そのため、将来的に、ある世帯の部分だけとか、あるいは2階だけを取るということも可能だという。

「将来、家族形態は間違いなく変わっていきます。そうした時に人数が増えのるか減るのか分かりませんが、それに応じて建物の大きさとかも変化してくというのが理想的だと思ったんですね。住む家族の形に合わせて家の形も変えていけるというのが、将来を見据えて家を考えた時にはひとつの案としてありえるんじゃないのかなと」


姉夫婦のリビング。天井まで開いた開口が気持ちが良い。
姉夫婦のリビング。天井まで開いた開口が気持ちが良い。
ダイニングから寝室を見る。壁が黒いのは、外壁と同じ仕上げとしているため。
ダイニングから寝室を見る。壁が黒いのは、外壁と同じ仕上げとしているため。


ゼロからライフスタイルを考える

小さい家のそれぞれをデザインしていく際には、今まで各自が培ってきたライフスタイルや家についての考え方を一回ゼロにしてからつくっていきましょうという話を全員にしたという。

「いい家に住みたい、いい環境で暮らしたいという時に、気持ちのいいソファがあって、きれいなテーブルがあって、大きいキッチンがあってというような空間のイメージとライフスタイルが浮かんでしまうと思うんですが、その家、本当に自分にとって合っているものなの?そういうところに本当に住みたいの?ということですね」

そこで、最初は中身として何を置くかというのは想定せずにそれぞれの家の配置だけを決めていったという。「まずはそれぞれのボリュームをつくってあげて、それから各人の意見を聞きながら、ここに洗面を置きましょう、ここにキッチンを置きましょうというふうに決めていきましたね」


左の大きなボリュームが鈴木夫妻のスペース。右上が姉夫婦のDK、その下が玄関スペース。
左の大きなボリュームが鈴木夫妻のスペース。右上が姉夫婦のDK、その下が玄関スペース。
姉夫婦のダイニングから中庭を見下ろす。
姉夫婦のダイニングから中庭を見下ろす。
 
共通の玄関スペース。ここから右に行くと鈴木夫妻のスペースで、左が他2世帯のスペース。
共通の玄関スペース。ここから右に行くと鈴木夫妻のスペースで、左が他2世帯のスペース。


とことんシンプルに

鈴木さん夫婦が生活するボリュームも同様の考え方によって設計が進められたが、ここではさらに“とことんシンプルに”というコンセプトを設けたという。

「結婚したのがちょうど家が出来る数カ月前で、今後どういう生活スタイルで暮らしていくかがまだそれほど決まっていなかったんですね。なので、どういうスタイルでも生活できるようにしたいということで、始めはできるだけつくり込まないようにしようと」。そのため、当初は1階奥にあるトイレも扉がなくカーテンだけの仕切りにする計画だったという。


中庭に向いた大開口。「中庭に雨が降ってるのを見るのが好きですし、雪のときも良かったですよ」と有希さん。
中庭に向いた大開口。「中庭に雨が降ってるのを見るのが好きですし、雪のときも良かったですよ」と有希さん。
左の開口は右より一回り小さめ。またさらに小さくつくられた親世帯の窓からは右の隣家まで見ることができる。
左の開口は右より一回り小さめ。またさらに小さくつくられた親世帯の窓からは右の隣家まで見ることができる。
階段下のトイレの奥の壁は耐力壁から外しているため、将来的に隣のボリュームとつなげることができるようになっている。
階段下のトイレの奥の壁は耐力壁から外しているため、将来的に隣のボリュームとつなげることができるようになっている。
天井高は5m。上に飛び出たボリュームは、姉夫婦のキッチンの一部。テーブルは以前の家の梁をリサイクルしてつくったもの。
天井高は5m。上に飛び出たボリュームは、姉夫婦のキッチンの一部。テーブルは以前の家の梁をリサイクルしてつくったもの。


鈴木夫妻が暮らす空間は、天井高が5mと住宅としては異例な大きさをもつが、このようなつくりにした理由のひとつに、鈴木さんには、この場所を部屋というよりは半外部的な空間としてつくっておきたいという思いがあったという。気積の大きな部屋をつくるこのアイデアには奥さんの有希(ゆうき)さんも大賛成だった。

有希さんは、2人で軽井沢の千住博美術館を訪れた時に、仕切りのない空間を地形に沿って歩く体験をして、初めて建築空間の気持ちの良さに感動したという。そして、その時に鈴木さんが言った「空気の体積量が多いところというのは人がすごくくつろげる場所でもある」という言葉が印象に強く残っていて、この大空間でも大丈夫ではないかと思ったという。 

「ここはお風呂とトイレに仕切りのないのだけが問題で、トイレの方はさすがに付けてもらいましたけど、お風呂の方も壁を付けようと思えば付けられるし、と思って…」


寝室から1階を見下ろす。この空間は「空気がいっぱいあって開放感があるのがすごく気持ちいい」と有希さん。鈴木さんはこの空間でお酒を飲むとおいしいという。
寝室から1階を見下ろす。この空間は「空気がいっぱいあって開放感があるのがすごく気持ちいい」と有希さん。鈴木さんはこの空間でお酒を飲むとおいしいという。
鈴木さんは座布団のあるあたりでごろごろして本を読んだりするのが好きという。「小さな窓とトップライトを開けると風が抜けて気持ちいいです」。
鈴木さんは座布団のあるあたりでごろごろして本を読んだりするのが好きという。「小さな窓とトップライトを開けると風が抜けて気持ちいいです」。
階段下の桐ダンスは鈴木さんの祖母の持ち物を再利用。
階段下の桐ダンスは鈴木さんの祖母の持ち物を再利用。
2階寝室にもトップライトが付けられている。
2階寝室にもトップライトが付けられている。


竣工から1年ちょっと。「大丈夫なの?3世帯って」。周りからこう言われることが多かったという有希さん。「この家のつくりもあって、ほどよい距離感を保ちつつお互いを気に掛けるようなコミュニティが義母と義姉との女性3人でふつうに出来上がっている」という。

鈴木さんは、つねにどこをどう変えていこうかと考えながら住んでいるの楽しいという。「それができる家になっているというのも面白いと思ってますね。なので電ノコとかいろいろそろえ始めています」

まずは鈴木さん自ら“各人がそれぞれカスタマイズできる小さな家”というコンセプトを実践をしていくつもりのようだ。


鈴木邸
設計 鈴木淳史建築設計事務所
所在地 東京都練馬区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 234.96 m2