Architecture
空間を無駄なく使い切れる家大胆なプランが特別な
快適さをもたらす
この家のプランは、敷地の奥に向かって左側に寄せて建物を置き、空いた右のスペースにその建物部分からボックス状のスペースを突き出すという思い切ったもの。平野さんは、建築家の岸本さんからこの提案を受けたとき、まったく考えてもなかったアイデアに驚いたが、同時に、気持ちよく住めそうだとも思ったという。
この食事の間も含め、突き出たスペースから自分たちだけの外空間を楽しむことができるのも気に入ったポイントだった。「目黒の建て込んだ住宅地なのにこういうふうに外が見えるというのも素晴らしいなと思いました。あと、わたしは畳がすごく好きなので、畳の間があるのがとてもうれしかったですね」
無駄なく使い切れる空間
初めて見た時に驚いたとはいえ、このプランには、実は平野さんが伝えた要望がずいぶん反映している。無駄な空間が嫌いという平野さん。「柱の陰になるようなスペースがあるのも嫌ですが、リビングが20畳あっても、無駄に広くてまったく使えないと思うので、そういうことはお伝えしました」
無駄な空間がない、ということは、フルに空間を使えるということ。横に突き出た部分は、天井高がどれも抑えられコンパクトなつくりになっていてそうした印象が特に強いが、絶妙のスケールコントロールが行われてるため、天井の高い場所から移動すると親密さと落ち着きのある空間へと劇的に切り替わる。
3つのスペース
横に突き出たスペースは「とにかく快適で、家の中にいても外にいるみたいな感覚になる」という。ソファの置かれたスペースと食事の間は、外壁と内壁の素材が連続し、かつ、床と天井が同系色でまとめられているので「まったく別空間に来たような感じで、気分も変えられる」そうだ。
突き出ているのは3カ所だが、それぞれにはっきりと異なる役割が割り振られている。一番奥のソファの置かれたスペースではソファに座ってゆったりと過ごす。「風に揺れる竹を見てると気持ちいいし、ここでワインを飲むとおいしいですね」。そして、ダイニングのスペースは「椅子にしっかりと座れる感じがいい」と平野さん。
「離れみたいな感じで使えるのでいい」という平野さんは、この場所でお茶も立てたいと思っているそうだ。宙に浮いたスペースで入れるお茶はまた一味違ったものになるのだろう。
そこまで階段に思い入れのある平野さんにとってもちろんこの階段状空間は移動するためだけのものではなく、快適さをも提供しているという。そしてさらには、座るという機能も果たす。「朝ごはんとかキッチンの近くにちょこっと座って食べたりもしてます」。どこまでも空間を使い切れる家なのである。
設計 岸本和彦/acaa建築研究所
所在地 東京都目黒区
構造 木造
規模 2階建て
延床面積71.74m2