Architecture

都会で自然に囲まれた暮らし3.7×18mの家を、
建築的仕掛けで超快適に住まう

都会の真ん中で自然に囲まれた暮らし  3.7×18mの家を、 建築的仕掛けで超快適に住まう
E邸が立つのは山の手線の駅から歩いて10分ほどの住宅地。奥さんが「すごく細長くて猫の額のようなスペース」と表現する敷地には、不動産会社によって家の参考プランが用意されていた。

その参考プランは、前に駐車スペース、後ろに裏庭があり真ん中に2階建ての家が配置された、奥さん曰く、「東京都内で一軒家が持てて、さらに駐車場も庭も持てますよっていう」素人でも考えつくようなごく当たり前のものだった。


3階奥のダイニングペース。建物が建て込んだ場所ながら緑に囲まれて暮らす。ガラス窓を開けると外部と一体化。街の真ん中で実現した開放感のある住まいだ。
3階奥のダイニングペース。建物が建て込んだ場所ながら緑に囲まれて暮らす。ガラス窓を開けると外部と一体化。街の真ん中で実現した開放感のある住まいだ。

建築家に、この敷地で「何か面白いものが考えられますか?」と投げかけてみたところ、建築家は現地を確認して、この敷地は面白い、と思ったという。

彼がまず注目したのは隣地の奥の角にある立派なコブシの木。江戸時代の木で樹齢270年だった。さらにそのまた隣に公園もあって環境的にとてもよいと思ったそうだ。

右隣の敷地に立つマンションが裏側をこちらに向けているのもよかった。「3階建てもいけるということだったので、これは面白いなと思って購入を決めました」と奥さん。


視界と風が抜けるように冷蔵庫と冷凍庫はカウンターの下に収納している。
視界と風が抜けるように冷蔵庫と冷凍庫はカウンターの下に収納している。RC壁と反対側の面には、1 階が6 本、2 階が5 本、3 階が4 本、無垢のスチール柱がそれぞれ入っている。
北側斜線にかかるため、奥のスペースは天井を手前(道路側)よりも低くして、その分横幅を60cm広くした。
北側斜線にかかるため、奥のスペースは天井を手前(道路側)よりも低くして、その分横幅を60cm広くした。
2階の階段部分。スチールの螺旋階段は、3階の壁・天井を打設する前に、上から円く開いた床を通して入れて設置した。
2階の階段部分。スチールの螺旋階段は、3階の壁・天井を打設する前に、上から円く開いた床を通して入れて設置した。


特徴ある断面形状

設計では、周囲を高い建物に囲まれているため、内部に光をなるべく採り入れるということと、圧迫感をいかになくして風が通るような空間ができるかがメインのテーマになった。

また、建物が建て込んでいるためプライバシーの問題もあった。マンションとは反対側の隣地に立つ建物はこの家の側へと向いた開口があったため、そちら側の面を1階と3階はRCの壁に、2階は擦りガラスにすることにした。

そのために、道側から家の断面を見ると、RCの壁・床が1 枚の板を折り曲げたように1 階から3 階へと続いているのが分かる。この断面形はどこまでも続く植物をイメージしたものでもあったが、上記のメインテーマを解決する上で辿りついたデザインでもあった。 


2階の応接間のスペース。秋には家の前に植えたモミジの紅葉を楽しめる。
2階の応接間のスペース。秋には家の前に植えたモミジの紅葉を楽しめる。
2階。1階と同様にカーテンでスペースを仕切る。奥が寝室。
2階。1階と同様にカーテンでスペースを仕切る。1階・2階共に、このほかバスルームの間仕切りとして、木の引き戸がある。
1階の玄関前スペース。奥さんは螺旋階段が「オブジェのようで美しく、感動的」という。
1階の玄関前スペース。奥さんは螺旋階段が「オブジェのようで美しく、感動的」という。


天井に高低差をつけた3階

2階建ての参考プランを見た時に、建築家は「もったいないからマックスに使ったほうがいい」と思ったという。しかし、単に1層高くしただけでは、北側斜線の影響で3階の天井・屋根が三角の形状になってしまうため、それを避けながら3階のダイニングスペースを広くする工夫もした。

それは3階の天井に道路側と奥側とで高低差を付けるというものだった。北側斜線にかからないように天井を低くすれば、その分スペースを多く取れるところに目を付けた。「ダイニングスペースは広めに使いたかったので天井を低くして、道路の方はラウンジスペースだから狭くてもいいのでちょっと高くしたんです。これはアイデアとして感動しました」と奥さん。 


1階の階段近くから奥を見る。間口3.7mに対し、奥行き方向は18mある。
1階の階段近くから奥を見る。間口3.7mに対し、奥行き方向は18mある。
1階のゲスト用の水回りスペース。FRPを吹き付けただけの壁が感じのいい質感を出している。
1階のゲスト用の水回りスペース。FRPを吹き付けただけの壁が感じのいい質感を出している。
1階奥のスペースでの奥さんと息子さん。裏には竹を植えた。このスペースは夏に涼むのにいいという。
1階奥のスペースでの奥さんと息子さん。裏には竹を植えた。このスペースは夏に涼むのにいいという。
1階の書斎スペース。
1階の書斎スペース。


カーテンで仕切る

敷地が細長い形状をしているための工夫もある。細長いスペースに廊下をつくれば部屋が狭くなるうえに廊下のスペースももったいない。そこで建築家から出てきたのがカーテンで仕切るというアイデアだった。

このアイデアもまた奥さんにとって驚きであり、本当に大丈夫だろうかとも思った。しかし、カーテンにある程度の厚みがあれば仕切ることもできるし、防音の機能も果たせるという建築家の説明を受けて納得したという。そして、テキスタイルデザイナー・コーディネイターの安東陽子さんに相談して、カクテルドレスの生地を二重にしてかつ縫い合わせて使うことに。これで、必要な時だけ仕切って、あとはオープンに使える仕切りが出来上がった。


1階。玄関方向を見る。
1階。玄関方向を見る。
 
RCの板が壁になり床になって続くような構成になっていることがよくわかる。
RCの板が壁になり床になって続くような構成になっていることがよくわかる。
カーテンはカクテルドレスを二重にしてつくったもの。スペースごとに色を変えている。
カーテンはカクテルドレスを二重にしてつくったもの。スペースごとに色を変えている。
アプローチ部分もモミジのほかに、ヤマブキなどを植えた。
アプローチ部分もモミジのほかに、ヤマブキなどを植えた。


2年後が楽しみ

奥さんは、周囲に緑が多く特に3階にいる時にはここが都会の真ん中だということ忘れてしまうという。以前はふつうのマンション暮らしだったので、週末になるとどこかに出かけて息抜きをすることが多かったが、ここに越してからは、家にいるほうが断然落ち着くので、家で過ごすことが多くなったという。

「季節によっている場所が違ってくる。これは自然に近い生き方だと思う」とも。そして当然、こうした環境で育てば息子さんもマンション暮らしの子どもたちとは自然との距離感、接し方も違ってくるだろう。2年後ぐらいに、彼がどのようにこの家を使っているかが楽しみという。


「ここは鳥とか蝶々とかがけっこうやって来るので、そういう意味でも自然と毎日触れ合えるので、子どもにとってもすごくいいですね」と奥さん。テーブルは人を多く呼べるように3mのものを特注。
「ここは鳥とか蝶々とかがけっこうやって来るので、そういう意味でも自然と毎日触れ合えるので、子どもにとってもすごくいいですね」と奥さん。テーブルは人を多く呼べるように3mのものを特注。

E邸
設計 フロリアン ブッシュ建築設計事務所
所在地 東京都新宿区
構造 RC造+鉄骨造
規模 地上3階
延床面積 153m2