Architecture
都会で自然に囲まれた暮らし3.7×18mの家を、
建築的仕掛けで超快適に住まう
その参考プランは、前に駐車スペース、後ろに裏庭があり真ん中に2階建ての家が配置された、奥さん曰く、「東京都内で一軒家が持てて、さらに駐車場も庭も持てますよっていう」素人でも考えつくようなごく当たり前のものだった。
彼がまず注目したのは隣地の奥の角にある立派なコブシの木。江戸時代の木で樹齢270年だった。さらにそのまた隣に公園もあって環境的にとてもよいと思ったそうだ。
右隣の敷地に立つマンションが裏側をこちらに向けているのもよかった。「3階建てもいけるということだったので、これは面白いなと思って購入を決めました」と奥さん。
特徴ある断面形状
設計では、周囲を高い建物に囲まれているため、内部に光をなるべく採り入れるということと、圧迫感をいかになくして風が通るような空間ができるかがメインのテーマになった。
また、建物が建て込んでいるためプライバシーの問題もあった。マンションとは反対側の隣地に立つ建物はこの家の側へと向いた開口があったため、そちら側の面を1階と3階はRCの壁に、2階は擦りガラスにすることにした。
そのために、道側から家の断面を見ると、RCの壁・床が1 枚の板を折り曲げたように1 階から3 階へと続いているのが分かる。この断面形はどこまでも続く植物をイメージしたものでもあったが、上記のメインテーマを解決する上で辿りついたデザインでもあった。
天井に高低差をつけた3階
2階建ての参考プランを見た時に、建築家は「もったいないからマックスに使ったほうがいい」と思ったという。しかし、単に1層高くしただけでは、北側斜線の影響で3階の天井・屋根が三角の形状になってしまうため、それを避けながら3階のダイニングスペースを広くする工夫もした。
それは3階の天井に道路側と奥側とで高低差を付けるというものだった。北側斜線にかからないように天井を低くすれば、その分スペースを多く取れるところに目を付けた。「ダイニングスペースは広めに使いたかったので天井を低くして、道路の方はラウンジスペースだから狭くてもいいのでちょっと高くしたんです。これはアイデアとして感動しました」と奥さん。
カーテンで仕切る
敷地が細長い形状をしているための工夫もある。細長いスペースに廊下をつくれば部屋が狭くなるうえに廊下のスペースももったいない。そこで建築家から出てきたのがカーテンで仕切るというアイデアだった。
このアイデアもまた奥さんにとって驚きであり、本当に大丈夫だろうかとも思った。しかし、カーテンにある程度の厚みがあれば仕切ることもできるし、防音の機能も果たせるという建築家の説明を受けて納得したという。そして、テキスタイルデザイナー・コーディネイターの安東陽子さんに相談して、カクテルドレスの生地を二重にしてかつ縫い合わせて使うことに。これで、必要な時だけ仕切って、あとはオープンに使える仕切りが出来上がった。
2年後が楽しみ
奥さんは、周囲に緑が多く特に3階にいる時にはここが都会の真ん中だということ忘れてしまうという。以前はふつうのマンション暮らしだったので、週末になるとどこかに出かけて息抜きをすることが多かったが、ここに越してからは、家にいるほうが断然落ち着くので、家で過ごすことが多くなったという。
「季節によっている場所が違ってくる。これは自然に近い生き方だと思う」とも。そして当然、こうした環境で育てば息子さんもマンション暮らしの子どもたちとは自然との距離感、接し方も違ってくるだろう。2年後ぐらいに、彼がどのようにこの家を使っているかが楽しみという。