Architecture

一体感を感じながら暮らす風道、四角い螺旋階段…
小さな家にアイデアを詰めて

一体感を感じながら暮らす  風道、四角い螺旋階段… 小さな家にアイデアを詰めて
本泉(ほんずみ)邸は約50m2の敷地に立つ2階建ての家。建築面積は約30m2。本泉さん夫婦はこのコンパクトな場所に「家族が一体感をもって住める明るい家」をテーマに家づくりにのぞんだ。

「家族がそれぞれの部屋に閉じこもる感じではなくて、みんなの行動というか息遣いが感じられるような空間にしたかったんですね。それと、狭い部屋をぎゅうぎゅうに詰め込んでいる家をたくさん見て息苦しい印象があったので、そういうのはやめようと」


リビングからダイニングキッチンを見る。ダイニングキッチンの上は吹き抜けになっている。2階には間仕切り壁もないため、開放感の溢れる空間になっている。
リビングからダイニングキッチンを見る。ダイニングキッチンの上は吹き抜けになっている。2階には間仕切り壁もないため、開放感の溢れる空間になっている。
ダイニングキッチンからリビングを見る。リビングも2層分吹き抜けになっている。
ダイニングキッチンからリビングを見る。リビングも2層分吹き抜けになっている。

“ジャックと豆の木”みたいな階段

狭小敷地に立つ家は急で狭い階段が多いが、それも避けたいと思った。「なので、階段を大きくつくってほしい。座ってお茶を飲んでも悪くないような階段がいいな」。そんなことも建築家に伝えた。

こうした要望から、まず、1階の寝室や収納、水回り以外は、全体が大きなワンルームのようになるようにつくり、その中心を吹き抜けにして螺旋階段を設けることに。この「“ジャックと豆の木”みたいに上に限りなく延びていくような感じの階段」は、建築家の田中さんが、この広さだと部屋が重なって階段を行き来する時間が多くなるため、階段のあり方が重要になると考えてデザインしたもの。


螺旋階段は屋上まで続く。
螺旋階段は屋上まで続く。
スキップフロアにフィットする四角い螺旋階段。
スキップフロアにフィットする四角い螺旋階段。


低コストを実現した仕掛け

熱環境にもこだわった。3階建てに住んでいる人たちから「上と下の気温差があって困った」という話を聞いていた奥さんは、ランニングコストのあまりかからない方法でそれを避けることができないかと思っていたという。

エアコンやヒーターを使えばランニングコストだけでなくイニシャルコストもかかる。そこで、もう少しアナログというか原始的な感じのもので、お金のかからない解消の仕方がないか田中さんに相談した。


吹き抜け部分に浮かぶ梁は、耐風要素であるとともに将来の増床にも対応する。
吹き抜け部分に浮かぶ梁は、耐風要素であるとともに将来の増床にも対応する。
壁はすべて建築家も含め自分たちで塗った。
壁はすべて建築家も含め自分たちで塗った。参加型家づくりの実践。
ダイニングとキッチンを兼ねたテーブルは家族の一体感を感じる上でも抜群の効果を発揮。
ダイニングとキッチンを兼ねたテーブルは家族の一体感を感じる上でも抜群の効果を発揮。


そこで考えられたのが、階段に沿って1階から屋上まで走る“風道”だ。幅1.8m、奥行きが約20cmのこの風道は、筒状の室内環境を活かしてつくられた装置で、コストを低めに抑えられるうえ照明器具や配管なども収めたすぐれものだ。

夏は階段室にためた熱気を風道内の強制排気ファンで外に出し、逆に冬は階段室の暖かい空気をパイプファンで吸って一番下から吐くという仕組みという。

「この風道が思った以上に活躍してくれて、一軒家でまさかエアコン一機だけでは暮らせないだろうなと思っていたんですけど、まったく問題ないですね」と奥さん。


寝室と収納の戸にも風道と同じポリプロピレンのハニカム材が使われている。
寝室と収納の戸、風道に、ポリプロピレンのハニカム材を使用。
浴室から見る。1階は玄関を大きく開けたため日中はとても明く電気をつける必要がないという。
浴室から見る。1階は玄関を大きく開けたため日中はとても明く電気をつける必要がないという。
1階から階段室を見上げる。
1階から階段室を見上げる。
1階。奥が風道で、照明のほかに配管なども仕込まれている。右が浴室。
1階。奥が風道で、照明のほかに配管なども仕込まれている。右が浴室。
 


壁で空間を仕切らないつくりは一体感のある暮らしを望んだ本泉さん夫婦のリクエストであったが、これが開放感を生み出しコスト面で有利になるだけでなく、将来の増床にも対応しやすいという利点にもつながっている。

敷地面積と予算は厳し目ではあったものの、こだわりを貫いて建築家とともに家づくりにのぞんだ本泉さん夫婦。「狭くて困ったということも、一軒家ということで困ったこともまったくなくて、すごく快適に暮らしています」という奥さんの言葉からは、空間への満足感とともにこだわりを通して得た成果への充実感も伝わってきた。 


上テラスに並んだ一家4人。近くに鬱蒼とした森もあって子育てにとてもいい環境。
上テラスに並んだ一家4人。近くに鬱蒼とした森もあって子育てにとてもいい環境。
大きく開けた玄関が十分な光を1階に取り込む。隣地との間に芝生を植えたのは建築家のアイデアに呼応した奥さんの発案。
大きく開けた玄関が十分な光を1階に取り込む。隣地との間に芝生を植えたのは建築家のアイデアに呼応した奥さんの発案。
隣地との間にあった塀を壊して開放的にした。街の環境保全という視点から建築家から出たアイデア。
隣地との間にあった塀を壊して開放的にした。街の環境保全という視点から建築家から出たアイデア。


本泉邸
設計 田中昭成ケンチク事務所+POI+なわけんジム+Lapin建築設備工房
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 2階建て(3階に増床可能)
延床面積 55.8m2