Architecture

落ち着きのある家色と素材のコンビネーション、
そして開放感が心地よさのもと

住み続けてきたかのような落ち着きのある家  色と素材のコンビネーション、 そして開放感が心地よさのもと
渋谷区の閑静な住宅街に立つ奥山邸。先代が60年ほど前に購入した土地で新居をつくることにしたきっかけのひとつは、タイミングを考えてのことだったという。

「今じゃないと新しい家に越したりとかいろんなことができないんじゃないかと。それと、快適な生活を手に入れるチャンスだとも思って」と話すのは奥さん。


中庭に面した開口の木製フレームが落ち着いた心地よさを演出する。左の木はフェイジョワ。
中庭に面した開口の木製フレームが落ち着いた心地よさを演出する。左の木はフェイジョア。
リビング脇に設けられた中庭空間。それほど広くはないが奥山邸の心地よさをつくり出しているポイントのひとつ。
リビング脇に設けられた中庭空間。それほど広くはないが奥山邸の心地よさをつくり出しているポイントのひとつ。
壁にかかるのは、奥さんが好きなローリング・ストーンズのコンサート・ツアーのポスター。
壁にかかるのは、奥さんが好きなローリング・ストーンズのコンサート・ツアーのポスター。
左の照明は、3階に住む息子さんの奥さんがこの空間に合うからと貸してくれたもの。
左の照明は、3階に住む息子さんの奥さんがこの空間に合うからと貸してくれたもの。


夏も冬も心地よく

家づくりでのこだわりはいくつかあったが、まずは暑さ、寒さへの対策を建築家にお願いしたという。

「前の家は30年経っていたので冬は寒くて夏は暑かったんですね。特に夏の暑いのががまんできなかったのでとにかく南側から陽が直接射さないということ、そして、冬は床暖房で快適に過ごせる。それが第一の希望でした」と奥さん。


右の食器棚は結婚時から使っているもの。これに合わせて左の収納を製作した。天井は少し質感のあるベージュのクロス貼り。
右の食器棚は結婚時から使っているもの。これに合わせて左の収納を製作した。天井は少し質感のあるベージュのクロス貼り。
このため通りに面した南側には窓を設けないつくりに。外からは閉鎖的なつくりに見えるが、中庭や玄関前のスペースなどに面して開口を取っているため風通しも良く快適という。

さらに、真下のダイニングに光を落としているトップライトを開ければ室内の熱気も外へと抜けて暑さも軽減される。実際越してから初めて迎えた今年の夏はとても快適に過ごすことができたという。


フランソワ=マリー・バニエ作のミック・ジャガーのポスターのかかる吹き抜け部分。ポスターは前の家の玄関に飾っていたものという。照明は以前からもっていたものを壁から吊りだすようなかたちにして使用している。
フランソワ=マリー・バニエ作のミック・ジャガーのポスターのかかる吹き抜け部分。ポスターは前の家の玄関に飾っていたものという。照明は以前からもっていたものを壁から吊りだすようなかたちにして使用している。

色と素材にこだわる

奥山邸を訪れてみてまず気が付くのは、いくつかの壁面に色が塗られていることで、まず玄関入ってすぐの壁面がレッド系の色。前の家で棚などに使われていた色が気に入っていたためそれに近い色にしたという。1階の廊下と階段の壁のグリーンは奥さんの希望でグリーンに塗ることに。

加えて天井が温か味のあるベージュと、使っている色はやや多めだが、いずれも落ち着いた感じの色合いで、かつ、階段や床との色のコンビネーションもよく、上品な空気感を室内にもたらしている。


奥さんの祖母が使っていたという箪笥とジャワ製の鏡とがモダンな空間によく合う。
奥さんの祖母が使っていたという箪笥とジャワ製の鏡とがモダンな空間によく合う。
ダイニング上は吹き抜け。2階に見えるのは奥さんの部屋で奥山さんの部屋と吹き抜けを介して対面するつくりになっている。
ダイニング上は吹き抜け。2階に見えるのは奥さんの部屋で奥山さんの部屋と吹き抜けを介して対面するつくりになっている。


床材には一般的なフローリングよりも素材感のある材が選ばれているが、1階と3階では明るさを変えているという。元の材は同じだが1階は3階ほどには陽射しが入らないため明るめの仕上げにした。

設計を手がけた建築家の都留さんは「前から持たれている家具類を心地よく、また大事に使われていたので、それらに合わせて色や素材の配置を考えた」という。


白と黒の市松模様が玄関脇の廊下からキッチンへと続く。グリーンの壁との組み合わせは奥さんが希望されたもの。
白と黒の市松模様が玄関脇の廊下からキッチンへと続く。グリーンの壁との組み合わせは奥さんが希望されたもの。
玄関前の空間に植えられたヤマモモの木。
玄関前の空間に植えられたヤマモモの木。
3階へと上る階段。濃いめの色合いが壁のグリーンとしっくりと合っている。
3階へと上る階段。濃いめの色合いが壁のグリーンとしっくりと合っている。
左の玄関から入ると正面にレッド系の色の塗られた壁が目に入る。左を向くとグリーンの壁と市松模様の床が見える。
左の玄関から入ると正面にレッド系の色の塗られた壁が目に入る。左を向くとグリーンの壁と市松模様の床が見える。


リゾートのような開放感と心地よさ

3階は息子さん夫婦の空間で、こちらにもこだわりの品々が置かれている。息子さんの奥さんが集めたもので、ミッドセンチュリーのものが多いという。キッチン脇の壁にかかるのはアンディ・ウォーホルが描いたキャンベル・スープのポスター。このウォーホルの初期の作品が映えるように壁は鮮やかめのブルーに塗った。

この3階の特徴は何と言っても都会の住宅地とは思えない開放性だが、これがリゾート空間のような心地の良さをつくり出している。このプランは、屋上テラスのポテンシャルを最大限生かそうとして考えられたものという。


3階の息子さん夫婦の空間。白い空間に鮮やかな青の壁面が映える。
3階の息子さん夫婦の空間。白い空間に鮮やかな青の壁面が映える。
2階の奥山さんの部屋は防音仕様。夜中でも気兼ねなく音を出せるのがいいという。床に立てられているのは愛用のクラリネット。
2階の奥山さんの部屋は防音仕様。夜中でも気兼ねなく音を出せるのがいいという。床に立てられているのは愛用のクラリネット。


3階空間に面してくつられたテラス空間。タイルは室内の床からの連続感を考慮して同様な形・大きさのものに。右側に見えるのは1階ダイニング上のトップライト。
3階空間に面してくつられたテラス空間。タイルは室内の床からの連続感を考慮して同様な形・大きさのものに。右側に見えるのは1階ダイニング上のトップライト。

息子さんの奥さんがコレクションしたアンティークトイなどが楽しげな雰囲気をつくり出している。
息子さんの奥さんがコレクションしたアンティークトイなどが楽しげな雰囲気をつくり出している。
リゾートのような開放感のある空間にポップな色合いがフィットしている。
リゾートのような開放感のある空間にポップな色合いがフィットしている。


3階ほどの開放感はないが、1階のリビングのソファに座っていると、右側が中庭に開き左側が吹き抜けを介して玄関までスーッと抜けている感じがとても気持ちがいいという。

「小さい中庭だけど、開放感があってちょっとコルビュジエの家みたいですね。それと、すごく落ち着きます」と奥さん。奥山さんは「まだ住み始めてから半年ほどですが、ずっと前からここに暮らしているような落ち着き感と心地よさがありますね」

好きな家具やコレクションを活かしつつ、色と素材にこだわってつくったこの家には、また、身体にやさしい心遣いも行き届く。お二人の満足は深いようだ。


お二人ともにお気に入りの場所という、リビングのソファにて。
お二人ともにお気に入りの場所という、リビングのソファにて。
奥山邸
奥山邸
設計 都留理子建築設計スタジオ
所在地 東京都渋谷区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 177.48m2