Architecture
町家を出発点につくり上げた家細長いスペースに
物語を織り込んで
その中庭に沿って立つ家も細長く奥へと延びているが、町家をイメージしたものだという。「私が京都の町家にあこがれていて、元はお隣と合せてひとつの土地として売りに出ていたんですが、それを縦に割ってもらって縦長の家をつくれるような敷地にしてもらったんです」と奥さん。
設計に際しては、ご夫婦ともにアンティークの家具や壺が好きなため、そうしたものに合う家にしてほしいという要望なども含めて、建築家にはまず、イメージしている空間の雰囲気や質感などを伝えるようにしたという。
灯籠と坪庭と畳の間
そして、その次のステップでは、灯籠や石を置きたいとか、丸窓もほしいなど具体的なアイテムの話に移っていったという。
その中でも、お2人から最初に要望の出た灯籠は、建築家の岸本さんがこの家の設計に際して重要なキーワードのひとつとしてとらえたものだったという。日が強く差し込むことのない中庭と和のイメージにマッチする落葉樹に灯籠とがピタッと一致して、和風建築には似ても似つかない曲がったプランの中で細長い日陰の中庭がうまく実現できるだろうと確信をもてたという。
敷地の中を折れ曲がるプランは、細長さを活かすために空間を路地的につくるという建築家の考えから生まれた。そして、この路地的なつくりは、中庭から玄関を入り1階奥の寝室の手前まで、そして玄関から階段を通って2階のスペースまで続く敷き瓦によって可視化されている。
「一般的な町家では坪庭はだいたいひとつで、部屋がその坪庭を囲むという形なので、庭はひとつだろうと思っていたんですが、出てきたプランには庭がふたつあったのでこれはすごく面白いと思いましたね」。ふたつめの庭(坪庭)は玄関前に広がる庭とは家を挟んで反対側に寝室に隣接してつくられた。
2階の畳の間もほしかったものという。「町家のような日本の昔の家をイメージしていたので、小上がり的に畳になっているというのは私の感覚ととてもよくマッチしていました」と奥さん。
細長さを活かして
畳の間のある2階から5段ほど階段を上るとDKの空間が現れる。キッチンからダイニングまでひとつながりになった細長いテーブルが大きな特徴だ。
敷地の細長さを良さとして活かしたという我妻邸。このテーブルは長いものは長く使うのがいちばんいいという建築家の考えから他の家に見られないような長さになった。奥へと続くようにつくることによって、さらにその先の空間へとぐっと引き込む、そんな効果も狙ったものという。
我妻さんが気に入っているのは、具体的な場所、空間ではないという。「物語のようにしてこの家が出来ているんですよ。アプローチの敷き瓦に乗った瞬間からお話が始まるみたいな感じ。部屋の機能がよく考えられてつくられているにとどまらず、物語が感じられるのがこの家のいいところだと思いますね」
細長い敷地の細長い家に織り込まれた物語。そしてここから今度は、我妻家4人の物語が新たにつくられていく。
設計 acaa
所在地 神奈川県茅ヶ崎市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 109.11m2