Architecture
狭いゆえの工夫を重ねて小さい家で
広く豊かに住む
建築面積は10坪
目の前の公園を貫く軸線の正面に建つ入江邸。大きな緑色の屋根が人目を引くこの家の建築面積は10坪と小さい。
「とにかく25坪と土地が小さくて、しかも建蔽率が40%だったので10坪の家しか建てられない。そこでふつうのお家がイメージできなくて、小さな家を建てたことのある建築家さんに設計をお願いしました」(奥さんの千奈津さん)
小さいがゆえの工夫
建築面積が10坪の2階建ての家でふつうにつくってはどうしても窮屈に感じてしまう。そこでこの“小さなかわいい家” には、小さいながらも快適に住まうためのさまざまな工夫が詰め込まれた。
元の地盤より1m近く高いところにつくられた1 階部分は、4方に開口が取られているが、そのうちの3つはフルハイトの大開口だ。道路側の開口からは、目の前の軸線を通して公園の最奥部まで視線が気持ちよく抜けていく。
大きな開口を設けて開放感を生むだけでなく、家の左右につくられたテラスが、室内が外にまで延長しているかのような感覚を生んでこの家を実際以上に広く感じさせる。
多様な空間を体験
1、2階ともにこの家の4隅にはそれぞれ2畳ほどのボックスが置かれている。1 階の4つのボックスは書斎、階段室、トイレ+パントリー、納戸として使用されているが、トイレと納戸以外は完全に仕切られていない。つまり、日常の活動スペースで完全に閉じられるスペースはない。
書斎は入江さんのリクエストによってつくられたもの。今は千奈津さんが使用することが多くなっているというこのスペースは、1階の基調をなす白壁に対して暗い色に塗られていて対照的だ。中にいるとこもった感覚になるが、しかし一歩外に出ると開放的な空間になるということでも、内と外では対照的な空間となるようなつくりになっている。小さいながらも多様な空間体験ができるわけだ。
主に夜を過ごすというこの2階は、3方が大開口の開放的な1階とは対照的なつくりで、大きな屋根につくられた開口と内側の開口をずらすことによって周囲を囲われた安心感が生まれ、「プライベートなスペースという感じ」がすごくするという。
全部が好き
竣工してから5年をこの家で過ごした千奈津さんは、ベストシーズンは春という。「窓を全開にしてテラスでブラブラ過ごすこともできるし、中にいても全部開けていると外にいるような気分になるんですね。秋もまた気持ちがいいですけれど」
1日の中では、開放感を満喫できる昼間も好きだが、夜間も魅力的という。「オレンジ色のちょっとやわらかい明かりなんですが、夜2階に上がって寝る前にそのオレンジ色のちょっとあたたかい感じのする明かりにくるまれて過ごす時間も好きですね」
「この家の全部を気に入っていてダメなところがないんです」。こう話す千奈津さんの屈託のない笑顔に本物の満足がうかがえた。
設計 駒田建築設計事務所
所在地 東京都杉並区
構造 木造、一部RC 造
規模 地下1 階地上2 階
延床面積 77.46m2