Architecture
建築家の自邸は5世帯住宅 代々受け継ぐ土地に、
両親と4兄妹の家を建てる
4兄妹が均等に土地を利用
束野由佳さんが生まれ育った目白の家を建て替えし、親世帯と4兄妹の5世帯住宅を作ることになった。
「父は次世代に土地を譲る際、小さく分割したくないと考えていました。そして4兄妹で平等に住んで欲しいとよく話をしていました。
その願いを叶えながら建て替えを進めたのですが、4世帯で住宅ローンを作るしくみはどの銀行にもありませんでした。そこで4兄妹で法人を設立し、事業ローンを組むことにしました。このローンの話がまとまるまでに2〜3年かかりました。ハードな船出でした(笑)」
設計は建築家の夫、木下昌大さん(『キノアーキテクツ』)。
「たとえばコーポラティブハウスの設計の場合、ライフスタイルや予算が近しい方が集まりますが、4兄妹は家族構成、家の使い方や趣味、予算などが様々です。長兄+妻を含む3姉妹+それぞれの家族+両親、総勢10数名の希望を叶えながらひとつの形にしていくのが大変でした」
4兄妹平等にというお父様の考えを尊重し、4世帯を南北の短冊状に均等に配置。2世帯が地下+1階・2階+ロフト、もう2世帯は1階・2階+ロフトにした。地下と1階をRC造にし、耐震性を確保。上階は木造に。
「土地が旗竿地だったこと、南側が中学校のグラウンドに面して開けていたこと、残したいアカマツの位置などの条件から、今の形に決まりました」
木下家は4世帯のうちの1戸に、一家4人が暮らす住まいと、階下に設計事務所を構えた。ここ東京オフィスと、京都ラボを行き来して仕事をしている。
ヴォールト天井が印象的なリビング
アーチ状の凹凸が連なる天井が印象的なリビング。
「梁の高さに合わせて平面の天井を作ると全体が低く感じるので、アーチ状にして天井高にゆとりを持たせました」
アーチの低い部分にライン状の照明器具を仕込んでいる。照明器具の直線とアーチの曲線が美しいハーモニーを奏でる。
天井はシルバーにペイントされていて、天井が輝きながら外からの光を奥に届ける。
床のシャビーなグリーンのリノリウムに合わせ、キッチンの扉、ダイニングテーブルのスチール脚や天板の小口もグリーンにまとめている。
天窓から光が落ちるバスルーム
モルタルの壁に陰影を作りながら天窓からバスタブに光が落ちる。天然石のような趣のある大判タイルの腰壁。そしてレインシャワー……。トイレはグレーをチョイスすることでインテリアの一部になっている。
「スリランカのコロンボで泊まったホテルのバスルームに天窓があり、とてもドラマティックな空間でした」。
その宿泊体験から生まれたバスルームだ。
ショールームの役割も
「キノアーキテクツは京都と東京に設計事務所があります。生活のベースは京都で、子どもたちは京都の学校に通っています。
この東京の家にはショールームのような役割を持たせたいという意図もありました。お客様との打ち合わせに2階リビングのテーブルを使っていただくこともあります。私たちがいない間も気兼ねなく使ってもらうために、鍵付きの収納を作りプライベートな荷物はそこにしまうようにしています」
親世帯の建物に住む束野さんのお母様が事務所のスタッフに食事をふるまうこともあるそう。
それぞれの家族がお互いのライフスタイルを尊重しつつ、雨に濡れずに行き来できる5世帯住宅。相続の際に土地が切り刻まれることが多い中、新しい世代に土地を受け継ぐしくみを建築の力で作ることに成功した。
木下邸
設計 キノアーキテクツ
構造 RC+木造
規模 地下1階 地上2階
延床面積 119.97㎡