Architecture

デザイナーのこだわりの家づくり広くゆったりとした白の空間に
木の素材感が映える家

デザイナーのこだわりの家づくり  広くゆったりとした白の空間に 木の素材感が映える家
「こちらの希望はいろいろとお伝えしましたが、僕が何か言うことによってあまり変わりすぎるのは良くないと思っていたので、基本的には富永さんにお任せしました」

こう語るのは、住宅設備会社でデザイナーをされている迎さん。建築家の富永さんの自邸がTVで紹介されているのを見て、とてもすてきな家だと思い、家を建てる際にはお願いしたいと思っていたのだという。

「素材使いがすごくすてきだなと思ったんですね。たくさんの素材を使っているんですが、とてもすっきりとした感じできれいに収まっていたので、そういった感じの家に私も住んでみたいと思って」


ダイニングから見る。リビングの床が窓前の床よりも55cm高く、座るのにちょうどいい高さになっている。中央の壁は、ホームシアターを大画面で楽しむために壁面が大きく取られている。
ダイニングから見る。リビングの床が窓前の床よりも55cm高く、座るのにちょうどいい高さになっている。中央の壁は、ホームシアターを大画面で楽しむために壁面が大きく取られている。

仕上げにこだわる

「基本的にお任せしました」というのは主に空間の構成について。日ごろさまざまな素材を相手にデザインの仕事をしているため、どのような仕上げにするかにはこだわりがあった。「富永邸の素材がとても気にいっていたので、床は同じフレキシブルボードにしてもらいました。それと、本棚やテーブルを木にするなどいろいろな素材を使っていただきたいとお願いをしました」

デザイナー同士のため、設計時にはコミュニケーションがとてもスムーズにいったそうだ。その際に大いに役に立ったのが、設計の参考にと富永さんに渡した雑誌の切り抜きだったという。切り抜き写真の多くは白い空間の中で木の素材感がうまく引き立った、現代の北欧系のデザインのものだった。


キッチンからそのままダイニングテーブルが延びてきている。テーブル部分のみで3mの長さがある。キッチンの上には小さなバルコニーがある。壁に囲まれているため、寝そべると自分たちだけの空が楽しめるという。
キッチンからそのままダイニングテーブルが延びてきている。テーブル部分のみで3mの長さがある。キッチンの上には小さなバルコニーがある。壁に囲まれているため、寝そべると自分たちだけの空が楽しめるという。
LDKの床にはフレキシブルボードが使われている。白い壁面とのコンビネーションがいい。
LDKの床にはフレキシブルボードが使われている。白い壁面とのコンビネーションがいい。
階段を上ってくるとキッチンの前に出る。キッチン奥の天井が低いため、吹き抜けの高さが体感的にさらに強調される。
階段を上ってくるとキッチンの前に出る。キッチン奥の天井が低いため、吹き抜けの高さが体感的にさらに強調される。


壁の量を多くする

出来上がった迎邸も、白を基調としたデザインに木の素材感をほど良くミックスした空間の印象が北欧系のデザインと通ずるところがある。これは切り抜きの写真や話し合いの中などから生まれたものだが、建築家が独自にくみ取ったのは、壁の量を多くする、ということだった。

開口部をたくさん設けると必然的に壁の量が少なくなるが、対して、欧米の家では壁の量が多い。迎さんにはそんな欧米的な空間のイメージがあるだろうと判断したという。日本の家で大きな壁というのはあまり見かけないが、そのような大きい壁がたぶんお好みでご満足いただけるだろうという印象を、迎さんとのやり取りの中から受けたという。


白い壁面のなかで木の素材感が引き立つ2階のLDKスペース。テーブルと本棚、収納にはすべてチェリーを使用した。
白い壁面のなかで木の素材感が引き立つ2階のLDKスペース。テーブルと本棚、収納にはすべてチェリーを使用した。
大空間の2階は、キッチンとダイニングテーブルの上以外は間接照明となっている。
大空間の2階は、キッチンとダイニングテーブルの上以外は間接照明となっている。
迎さんのこだわりで、本棚は単行本を入れた時に本の上にできる余白のスペースを計算してつくられた。
迎さんのこだわりで、本棚は単行本を入れた時に本の上にできる余白のスペースを計算してつくられた。


天井を高くする

壁面の量の多さは特にLDKのある2階のスペースで顕著に感じられるが、この2階でのもうひとつの大きな特徴は、天井がとても高いこと。これは迎さんからのリクエストがあったという。「以前、アメリカに出張で行った時に駐在していた先輩の家にお邪魔したのですが、そんなに広いお家ではないのに天井がかなり高くて、とても気持ちが良かった。その時の記憶がずっと残っていました」

吹き抜けにしたいという要望ではなかったが、富永さんの設計案のなかにあった2階を吹き抜けにした案が素晴らしく、一目で気に入ったという。「広いのでやっぱり気持ちがいい。お客様がいらしたときも、階段を上がってこの2階の空間を見た瞬間の反応が皆さん同じで、“はぁー、すごいね~”とおっしゃるんですね」と奥さん。


2階のキッチン前から階段室を見る。
2階のキッチン前から階段室を見る。
奥さんの寝室。夜ここにもどると、1日の仕事がおわったなと思えてホッとするという。
奥さんの寝室。夜ここにもどると、1日の仕事がおわったなと思えてホッとするという。
階段室は玄関を開けて正面に位置する。
階段室は玄関を開けて正面に位置する。
迎さんの個室は道路に面しているが、開口が高い位置にあるので外が気にならず、デザインの作業も落ち着いてできるという。
迎さんの個室は道路に面しているが、開口が高い位置にあるので外が気にならず、デザインの作業も落ち着いてできるという。


ホームシアターを楽しむ

このほか、風が通る家にしてほしい、1階は各自好きな温度で暮らせるように家族4人別々の個室をつくってほしいなどの要望もあったが、建築家は「基本的にこちらの方向であればたぶん気に入っていただけるだろうという焦点は、他の住宅の場合よりも定めやすかった」という。

迎さんも「お話をしていた通りのイメージででき上がりました」と話すが、迎さんにはさらにもうひとつこだわりのリクエストがあった。「ホームシアターをやりたいということで、この窓際の壁をプロジェクターで映し出せるように大きく取ってもらったんですね」


リビングの椅子でくつろぐ迎さん。ここから手前の壁面に映した大画面でホームシアターを楽しむ。
リビングの椅子でくつろぐ迎さん。ここから手前の壁面に映した大画面でホームシアターを楽しむ。

「よく見るのはサッカーや相撲などのスポーツ番組。テレビでやっているのをそのまま映し出すだけですが」と話す迎さん。この家でいちばん気持ちがいいのは、リビングに置かれた椅子に座ってホームシアターを楽しんでいる時という。

「お酒を飲みながら観ていて気づいたら寝ているというのがいちばん気持ちいい」という迎さんは、念願の高い天井のもとで念願の大画面に対するひと時をプライヴェートタイムの中でも特に楽しみにしているようだった。


迎邸

迎邸
設計 富永哲史建築設計室
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 118.53m2