Architecture
扉を開けると別世界が広がる2つの中庭がもたらす光と空
ラグジュアリーなコートハウス
自分たちだけの空が欲しい
一級建築士・余田正徳さんと奥さまでインテリアデザイナーの樹子さんが自宅兼アトリエを建てたのが2年半前。ご夫妻それぞれの専門性を活かして完成したその家は、交通量の多い大きな通りから1本奥に入った、第一種低層住居専用地域に建つ。「ここは建ぺい率が40%しかないのですが、周囲に高い建物は建たないため、この空が自分のものになるならと即決しました」とは正徳さん。そのときすでに、中庭を設けて空をふんだんに感じられるような空間づくりをイメージされていたという。
「首都高速道路も近くを走っているため、環境を考えると、横よりも上方向に開く方がいいと考えました」(正徳さん)。外部からは閉じた印象の建物内には、南西に前庭、南東に角庭の2つの中庭を設けた。高い壁で囲むことでプライバシーを確保しながら、たっぷりの光と開放感を手に入れた。
いままで正徳さんが手掛けた設計で、中庭を2つ設けた例はなく、実験だったとも話す。「1階のアトリエが暗いのではないかと心配しておりましたが、2つの中庭のおかげで朝は東側から、午後は西側から効率的に光が入ってきます。1日中明るいため、日中は照明をほとんどつけません。目の前に中庭があることで閉塞感もなく、快適です。周りの環境を考えるとベストな選択だったと思いますね」(正徳さん)。
季節ごとに異なる光の角度や思わぬところにできた木の影など、1年を通しての発見が多々あるそう。ご夫妻だけの景色を愉しんでいる。
非日常のホテルライクなバスルーム
仕事場を兼ねた自宅を建てるにあたり、ホテルライクでやすらげる空間がコンセプトだったと話すご夫妻。やすらぎには欠かせないバスタイムにこだわった結果、「アトリエよりも広いスペースになりました(笑)」(正徳さん)と、1階の3割以上の面積を水まわりが占めるという贅沢な空間となった。
バスルームは、パウダールームやユーティリティとの間をガラス張りにし、連続性をもたせた。ピカピカに磨き上げられた鏡やガラス、大理石の床が美しく心地よい。パウダールームのエレガントな作業台は、樹子さんが設計して家具屋さんに注文したもの。「家事をいかに楽しんで行うかを考えながら設計しました。収納するものを計算して引き出しの大きさを考え、ゆったり家事ができるよう作業スペースを広く取って。蛇口や取っ手などは輸入品を使用し、好きなテイストにこだわりました」。大きな鏡も樹子さんがデザインしたもの。インテリアデザイナーとしての引き出しを存分に発揮し、ヨーロッパのラグジュアリーホテルのような空間に仕上げた。
バスルームの目の前に設えた角庭を眺めながら浸かることができるバスタブは、身体を伸ばしてくつろげる、幅広で大きめなアルティスのオーバルタイプをセレクト。お2人ともバブロとジェットを愛用しているという。「血行が良くなり、疲れの取れ方が全然違いますね。癒し効果もありますよ」とは樹子さん。ホテルでくつろぐような非日常のバスタイムを自宅に居ながらにして過ごされている。
“シノワズリ”インテリアに挑戦
2階はリビング・キッチンと寝室で構成されたプライベート空間。天井高3.5mを確保したリビングは、前庭・角庭に向けて設けた大きな窓からの光に溢れ、開放感たっぷり。斜めに貼った大理石の床が視覚効果で空間を広く見せている。
余田邸はスペースの都合上、リビングとダイニングを兼用し、ソファで食事をするスタイルを採用。どっしりと重厚感のあるソファの高さに合わせて、大理石のテーブルを特注した。高い天井から下がるシャンデリアの趣も手伝って、クラシカルな豪華さと気品のある雰囲気がホテルのスイートルームのようである。
リビングと同様、白一色でまとめられたキッチンは、シンクも収納棚も全て樹子さんが考えたオリジナル。棚の扉のドアノブをクリスタル製にするなど、細かいところまでリビングとの統一を図った。
「ヨーロピアンとオリエンタルの融合を試してみたかったんです」と話す樹子さん。17世紀頃にヨーロッパで流行した“シノワズリ”というインテリア様式をアレンジして取り入れたという。テーブルの台座や調度品などオリエンタルなテイストが随所に配され、時代や様式を超越して優雅に溶け込んでいる。また、どこか懐かしい温かさも加わり、真の心地よさへと導いている。
アトリエを併用しているだけに1日のほとんどを自宅で過ごすお2人。ラグジュアリーなホテルで過ごしているようなゆとりある生活が、慌ただしい日常から身も心も解放し、心からくつろげる毎日を送られているようだ。