Architecture
小さな家で味わう幸せ家づくりのテーマは
シンプルでかわいい健康な家
リノベから戸建てに
当初は中古マンションを購入し、リノベーションして暮らそうと考えていたという根本さん一家。大学でクラスが同じだった建築家の佐々木達郎さんに相談したところ、「修繕積立金や管理費、リノベーション費用を考えれば、戸建てで初期費用がいくらか高くても、結局、月々は同じくらいの金額を払うことになるよ」とアドバイスを受け、戸建てを建てることに。そして、見つけたのがこの敷地だった。
「都心に近いですが、狭いので、土地代も建物も多少安く、予算的にもちょうどいいかなという感じだったのでここに決めました」
シンプルでかわいい
そして、設計は佐々木さんに依頼。根本さんが渡した家づくりにおいてのリクエストは、箇条書きの長いリストになっていた。そのタイトルとして書かれていたのが「シンプルでかわいい健康な家」だったという。
「シンプルでかわいい健康な」――言葉の並びからは取り立てて特別な印象は受けないが、ここには、根本さんのこだわりがしっかりと込められていた。
「シンプルでもソリッドであったり、すべてが真っ黒だったりで、かっこいい感じのものもありますが、僕らはそういうのはあまり得意ではなくて。どちらかというとかわいい感じのシンプルにしてほしかったんです」
奇抜な家にしない
「健康な」というのは、陽当たりや風通しが良く、開放感があるといったことももちろんあったが、通常とは異なる意味合いも込められていた。
「建築家には攻める設計をされる方が多いという印象があったんですね。ハシゴみたいな急な階段で生活しなくてはいけないとか、一回外に出ないとトイレにいけないとか。そういう家にはしたくないということですね」。要するに、「あまり奇抜な家にはしないように」といった意味を込めたものだったという。
柔らかさを出す
佐々木さんは「こうしたリクエストのなかで、“かわいい”という言葉が抽象的で建築の表現には移しづらかった」と話す。そのため、「シンプルでかわいい」を「必要最低限のものが揃っている中で、“少し柔らかい”とか“親しみやすい”とか、“居心地がいい”、“過ごしやすい”といった言葉に変換しながら設計を進めていった」という。
具体的には、階段に丸みを加えたり、使用する素材も、木であれば無垢材を使ったりすることで、柔らかさを出すような工夫をしていったとのこと。
小さな場所をたくさんつくる
この家では、玄関前のベンチなどスケールの小さな場所がそこここにつくられている。訪れた人はこういうところにも「かわいい」といった印象をもつだろう。建築家はこれらの小さな場所を意図をもってつくっていったという。
「小さい敷地なので、いろいろな場所をつくってあげたいと思ったんです。それで、まず小さなベンチがあって、家に入るとダイニングがあり、階段があり、その先にスキップしてリビングがあるというように、ワンルームの中にレベル差を変えながら小さな居場所みたいなものをたくさんつくっていきました」(佐々木さん)
そしてまたさらに、それらの小さな居場所たちが、裏庭のようなちょっとした外部や街にまでつながっていくようにしたという。こうしたつくりが家の小ささを感じさせない開放感をもたらしている。
こうした感覚をもたらすのには、リビングとダイニングの間のレベル差と距離感、そして小さなスケールが一体となった空間デザインが大きく作用している。
「シンプルでかわいい健康な家」をテーマに始められた家づくりは、根本さんにとって予期せぬ、しかし最上ともいえるシーンをつくり出している、そのように思えた。
設計 佐々木達郎建築設計事務所
所在地 東京都杉並区
構造 鉄骨造(一部RC造、木造)
規模 2階建て
延床面積 46.98m2