Architecture
自然と家を開放的につなげる自然環境の素晴らしさを
倍加して楽しめる空間
ゆったりめの2人の家
敷地は神奈川県厚木市。江戸時代から受け継がれてきた土地で新築を決めたきっかけは、以前住んでいた家が老朽化したことに加え、息子さんたちが独立したことだった。
「子どもたちがみな外に出ていく機会に、われわれ夫婦2人だけの家をつくろうかなと思ったんですね」とKさん。
設計は建築家の橘川雅史さんとその友人の池田久司さん。基本は夫婦2人の生活が中心のため、部屋数は少なくてもいいけれど、親戚の人など大勢来ても大丈夫なように、2人で暮らすよりはゆったりめにスペースを取ってほしいというのがリクエストのひとつだった。
ご夫婦ともに子どもの頃は天井の高い家に住んでいたが、前の家が天井が低く圧迫感があって心地よくなかったことから建築家には天井は高めにしてほしいと話をしたという。
「広く高く」というお2人のリクエストにかなった空間になったが、もちろん単に広くて天井が高いだけではない。建築的な工夫のひとつは、和とモダンのコンビネーションがとてもうまくなされているところにある。
モダンで味のある家
これは設計を手がけたお2人の考えが大きく反映しているという。「この住宅を設計するにあたって篠原一男さんや吉村順三さんなどの戦後のモダン住宅を研究し、現代的な生活の中で住む人と場所に合った落ち着いた雰囲気の住宅を目指しました」と橘川さん。
当時のモダン住宅と現代の住宅とでいちばん異なるのは素材感だという。「竣工時から何十年も経った写真を見ると空間が色褪せず味わいが深まっている。そこで長く住んでいるうちに愛着が湧いたり空間の良さが引き立つような家にできればと思いました」
住むうちに味の出てくるような空間。同じシンプルな空間であってもそのあたりが現代住宅とは異なるようだ。そのために工務店と相談して使用する材料を決め、天井はスギの縁甲板張りにした。天井は竣工から2年経った今では飴色に変化。ツヤもいい具合に出てきて、狙い通り落ち着きのある空間になっている。他でもなるべくそういう素材を選ぶようにしたという。
環境と呼応する空間
建築的な工夫として大きなものはもうひとつあった。K夫妻から空間を「広く高く」してほしいという要望はあったが、建築家の方でも、この家をヒューマンスケールを第一に考えつつもふつうに建てたらこじんまりしたものになってしまう。そんな読みもあった。
「ちまちました空間になってしまうともったいないかなと。それでできるだけ周りの環境と呼応するようなスケール感というのを考えました」と橘川さん。
「外部に対して開放的にしたいということもありましたが」と話すのは池田さん。「キッチンの方の窓に関しては逆に開放的にしすぎると落ち着かないところもあるので腰窓にしました」。開放的であるとともに建物に包まれていることの気持ちよさも狙ったという。
サクラをうまくフレーミング
外部との関係では、家の前に立つサクラの木との兼ね合いが大きかった。家の位置もだいたいは決まっていたが、細かくはサクラと近くにある崖との関係から決めたという。「崖に寄せてしまうのも危険だけれど、離してサクラの木に近づけすぎると木の幹しか見えなくなってしまうので、そのちょうどいいバランスの取れたあたりにしました」
水平に大きく開いた開口を通してフレーミングされたサクラの佇まいがとてもいい。近くの川沿いにはサクラの木が数多く立っているが、そちらはキッチンの窓からよく見える。「サクラはよく見ますね。裏の川沿いのサクラも毎年楽しみにしています」と奥さん。
春が最高の季節で、5月になると新緑でまぶしいくらいという。この気持ちよさは単に自然環境の素晴らしさからくるものではないだろう。お2人が暮らすこの広くて高く、また建築的工夫の詰まった空間によって倍加しているのである。
設計 橘川雅史+池田久司
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造
規模 地上1階
延床面積 128.41m2