自然と家を開放的につなげる自然環境の素晴らしさを倍加して楽しめる空間

自然と家を開放的につなげる自然環境の素晴らしさを
倍加して楽しめる空間

ゆったりめの2人の家

敷地は神奈川県厚木市。江戸時代から受け継がれてきた土地で新築を決めたきっかけは、以前住んでいた家が老朽化したことに加え、息子さんたちが独立したことだった。

「子どもたちがみな外に出ていく機会に、われわれ夫婦2人だけの家をつくろうかなと思ったんですね」とKさん。

設計は建築家の橘川雅史さんとその友人の池田久司さん。基本は夫婦2人の生活が中心のため、部屋数は少なくてもいいけれど、親戚の人など大勢来ても大丈夫なように、2人で暮らすよりはゆったりめにスペースを取ってほしいというのがリクエストのひとつだった。


シンプルかつモダンな中に和のテイストも感じさせる佇まい。縁側のガラス戸はすべて戸袋に収まり、全開放にすることができる。

シンプルかつモダンな中に和のテイストも感じさせる佇まい。縁側のガラス戸はすべて戸袋に収まり、全開放にすることができる。


そのため、LDKと入口側の和室を合わせて約80 m2 とかなりの広さが確保されている。LDKは天井の最高高さが4.8m。これもお2人の話から実現したものだった。

ご夫婦ともに子どもの頃は天井の高い家に住んでいたが、前の家が天井が低く圧迫感があって心地よくなかったことから建築家には天井は高めにしてほしいと話をしたという。

「広く高く」というお2人のリクエストにかなった空間になったが、もちろん単に広くて天井が高いだけではない。建築的な工夫のひとつは、和とモダンのコンビネーションがとてもうまくなされているところにある。


LDKの最高高さは4.8m。

LDKの最高高さは4.8m。

2階のロフトスペースから見下ろす。 

2階のロフトスペースから見下ろす。
 

障子をすべて開けると和室も外部と直接つながる。

障子をすべて開けると和室も外部と直接つながる。


モダンで味のある家

これは設計を手がけたお2人の考えが大きく反映しているという。「この住宅を設計するにあたって篠原一男さんや吉村順三さんなどの戦後のモダン住宅を研究し、現代的な生活の中で住む人と場所に合った落ち着いた雰囲気の住宅を目指しました」と橘川さん。

当時のモダン住宅と現代の住宅とでいちばん異なるのは素材感だという。「竣工時から何十年も経った写真を見ると空間が色褪せず味わいが深まっている。そこで長く住んでいるうちに愛着が湧いたり空間の良さが引き立つような家にできればと思いました」

住むうちに味の出てくるような空間。同じシンプルな空間であってもそのあたりが現代住宅とは異なるようだ。そのために工務店と相談して使用する材料を決め、天井はスギの縁甲板張りにした。天井は竣工から2年経った今では飴色に変化。ツヤもいい具合に出てきて、狙い通り落ち着きのある空間になっている。他でもなるべくそういう素材を選ぶようにしたという。


LDKから前の畑を見る。すぐ手前の場所では大豆をつくっている。6月下旬から7月初旬に種を蒔き、11月末ごろに収穫する。

LDKから前の畑を見る。すぐ手前の場所では大豆をつくっている。6月下旬から7月初旬に種を蒔き、11月末ごろに収穫する。

開口部の高さは1.8m。内部では空間の重心を低く抑えるために、低めの家具を選んだという。照明は和的な落ち着いた光にするため、和紙を張ったものに。

開口部の高さは1.8m。内部では空間の重心を低く抑えるために、低めの家具を選んだという。照明は和的な落ち着いた光にするため、和紙を張ったものに。


環境と呼応する空間

建築的な工夫として大きなものはもうひとつあった。K夫妻から空間を「広く高く」してほしいという要望はあったが、建築家の方でも、この家をヒューマンスケールを第一に考えつつもふつうに建てたらこじんまりしたものになってしまう。そんな読みもあった。

「ちまちました空間になってしまうともったいないかなと。それでできるだけ周りの環境と呼応するようなスケール感というのを考えました」と橘川さん。


玄関近くから見る。段差のない空間はお2人の希望だった。

玄関近くから見る。段差のない空間はお2人の希望だった。

障子を閉めると一挙に和の雰囲気が強まる。カーテンにはしたくないという奥さんの意見もあり障子にした。

障子を閉めると一挙に和の雰囲気が強まる。カーテンにはしたくないという奥さんの意見もあり障子にした。

夜は、灯りがいい感じのオレンジ色になり行燈のように光るという。

夜は、灯りがいい感じのオレンジ色になり行燈のように光るという。


そこで外の自然環境と切らずにつなげて、外部のスケール感とも合うように開口部を大きく取った。しかし、ただ開口を大きく取るだけではがらんとして落ち着かなくなるため、開口部は高さを1.8mと低く抑えてなるべく空間の重心が下のほうに来るよう工夫をした。

「外部に対して開放的にしたいということもありましたが」と話すのは池田さん。「キッチンの方の窓に関しては逆に開放的にしすぎると落ち着かないところもあるので腰窓にしました」。開放的であるとともに建物に包まれていることの気持ちよさも狙ったという。


ロフトのこの窓から、パソコンで作業しながら外をよく眺めるという。

ロフトのこの窓から、パソコンで作業しながら外をよく眺めるという。

側面の傾斜地にはクリの木が何本も立つ。

側面の傾斜地にはクリの木が何本も立つ。


裏にはケヤキの雑木林が広がる。下の川沿いにサクラの木が林立しているのが見える。

裏にはケヤキの雑木林が広がる。下の川沿いにサクラの木が林立しているのが見える。

サクラをうまくフレーミング

外部との関係では、家の前に立つサクラの木との兼ね合いが大きかった。家の位置もだいたいは決まっていたが、細かくはサクラと近くにある崖との関係から決めたという。「崖に寄せてしまうのも危険だけれど、離してサクラの木に近づけすぎると木の幹しか見えなくなってしまうので、そのちょうどいいバランスの取れたあたりにしました」

水平に大きく開いた開口を通してフレーミングされたサクラの佇まいがとてもいい。近くの川沿いにはサクラの木が数多く立っているが、そちらはキッチンの窓からよく見える。「サクラはよく見ますね。裏の川沿いのサクラも毎年楽しみにしています」と奥さん。


家の前の芝は大人数でバーベキューが楽しめるように張ったという。

家の前の芝は大人数でバーベキューが楽しめるように張ったという。

庇の出は、サクラの見え方や季節ごとの日照の変化などを考慮して決めた。

庇の出は、サクラの見え方や季節ごとの日照の変化などを考慮して決めた。


撮影時はタイミング的に少し早く、満開ではなかったが、立ち姿も美しいこのサクラの木が満開になるとさらに見事な眺めだろう。

撮影時はタイミング的に少し早く満開ではなかったが、立ち姿も美しいこのサクラの木が満開になるとさらに見事な眺めだろう。


奥さんのいちばんのお気に入りの場所はキッチンとのこと。「ここに立って前を向いて後ろを向いて異なる外の景色を眺めるのがいちばん気持ちいい。ソファに座っているよりもいいですね」

春が最高の季節で、5月になると新緑でまぶしいくらいという。この気持ちよさは単に自然環境の素晴らしさからくるものではないだろう。お2人が暮らすこの広くて高く、また建築的工夫の詰まった空間によって倍加しているのである。


周囲の自然と家を開放的につなげる 自然環境の素晴らしさを 倍加して楽しめる空間

K邸
設計 橘川雅史+池田久司
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造
規模 地上1階
延床面積 128.41 m2