Architecture
廃材を活用した都市型住宅ブリコラージュして
家をつくる
築60年のアパートを改修
都心に近い場所で土地を探していたという建築家の元松直治さん。建売り住宅の設計依頼のあった市ヶ谷の敷地が気に入って購入。敷地には築60年の2階建てアパートが建っていたが、これをリノベーションして夫婦2人で住むことにした。
建て直すことも考えられたが、その場合、3階建てにしても既存の建物より小さくなってしまう。そこで、躯体をそのまま利用して改修することにしたという。
改修は自ら手がけることを決めていたが、当時住んでいた家の家賃と土地購入費のローンとで支払いが二重になるため、取りあえず引っ越しをすることに。そして、朝起きたらすぐ工事に取りかかるという日々が始まった。
奥さんからのリクエスト
改修はまず生活する上で必要最低限の寝室と水回りから取りかかった。ロフト階の寝室では、奥さんの佳子さんから、「星や月を見ながら眠りたい」というリクエストがあったため、ベッドの真上に天窓を設置。
そして、2階の水回りは、「新婚旅行で訪れたエーゲ海のサントリーニ島のマットな白い石灰岩のイメージでつくってほしい」とのリクエストから、浴室を白のFRPでつくった。
水回りの次はキッチンだった。図面を描いて板金のできる家具屋さんに製作してもらい、オーブンなどの機器をはめこんだ。
キッチンと並行してダイニングテーブルが設置されているが、これも製作物だ。「週末にパーティを開くときなどには人がかなり集まるので、テーブルがもう少し長く延びるようになっています」。
ダイニングベンチも、多人数で楽しく盛りあがるためのパーティ仕様に見えるが、これはロフト階へ上がるための通路も兼ねて製作されたものだ。
ブリコラージュでつくる
元松さんの手がけた設計と内装の仕事は、実は単に廃材などを利用したというにとどまらない。ブリコラージュの精神ともいうべきものが感じられるのだ。ブリコラージュとは「器用仕事」などと訳されるフランス語だが、ありあわせのものを寄せ集めてモノを創造的につくり出す、という意味合いでも使われることがある。
たとえば、LDKの端部に佳子さんのリクエストでつくられた化粧スペース。上の棚の部分はフレキシブルボードにウレタン塗装を施したものだが、トグルスイッチのついたパネルはステンレスのサンプルを活用した。鏡は置き鏡の枠を外して棚にはめこんだもの。これらが一体化してオリジナルかつ使い勝手の良いデザインが実現されている。
ヘリコプター用部材も使う
棚の隣に内部に向かって突き出した開口には、ヘリコプターのキャノピーに使われる38mm厚のアクリルが使われているが、これは元松さんが以前アルバイトをしたことがあるアクリルメーカーからもらい受けたものだ。これも空間空間のポイントにもなるようなかたちで創造的にこの空間に組み込まれている。
最後に手がけたという2階へと上がる階段部分でも、ブリコラージュの精神が発揮されているといっていいだろう。材料はやはりすべて廃材。しかし、チーク材のほかさまざまな樹種が混じった寄せ集めの混成部隊。これをたとえば赤味の強い材であれば、緑のキシラデコール(木材保護塗料)を薄く塗った上で、さらに黒のキシラデコールを塗るなどして全体で黒の色味をそろえてから使っていったという。
さらに、2階のお化粧スペースも気に入っているという。「同じ空間にキッチンもソファもあって、自分の場所というか、居心地の良い空間になりました。階が違ったりすると生活が途切れてしまう場合もありますが、つながっているからこそ、生活上のつながりや夫婦のつながりなどがスムーズにできるスペースになっているのではないかと思っています」
また、住みながらつくるという体験も貴重なものだったという。じっくりと時間をかけて現場で考えながら設計・施工を進めたにとどまらず、“ここにこんなものがあったらもっと面白いだろう” というものも実現することができた。材料の多くは手元にあった廃材だ。まさにブリコラージュならではの醍醐味を楽しみながらの作業であったに違いない。
設計 モトマツ アトリエ
所在地 東京都新宿区
構造 木造
規模 地上2階+ロフト
延床面積 79.73m2