Architecture
壁で区切りながらも繋がった空間コンクリートとスチールの
素材感にこだわってつくる
分節しながらもつながった空間
横浜市泉区に1年ほど前に自邸を建てた建築家の川辺さん。家を建てる際に家族との間で、「ばらばらにいてもお互いにいることがわかる。それと、あまり干渉しあわないような家がいいね」という話が出たという。そこから、「空間が壁で分節されながらもつながっている」という、この家の基本コンセプトが導かれた。
玄関を入って1階の左側には水回りを中心に構成された正方形平面のボックスがあり、右側にはホールに面して寝室が3つ設けられた長方形平面のボックスがある。
全体の平面形は、右側のボックスが左のボックスと分離してから45度ひねってコーナー部分だけを接続したようなつくりになっている。
外壁のような内壁
川辺邸の特徴は、この空間構成にとどまらない。住宅ながら仕上げの粗いコンクリートが内部に採用されているのだ。まるで外壁のように粗い感触をもつこのコンクリート壁は、「外がインテリアで中がエクステリアというイメージ」でつくられた。内と外の仕上げが通常とは反転し、外壁がきれいに仕上げられているのだ。
配置計画とともに素材をどう扱うかが設計当初からのテーマだったという川辺邸では、このコンクリートをどのように実現するかはとても重要なポイントだった。
自らヤスリがけ
住宅でコンクリートの打ち放しを敬遠する人は多い。それは打ち放しにクールで馴染みにくい印象があるためだろう。しかし、この家のコンクリート壁にはそのような印象はなく、空間全体ではむしろ逆にゆったりと落ち着いた空気感すら漂う。
その秘密は、まずひとつは施工に打ち放し用型枠ではなく、普通型枠を使ったことが挙げられる。この型枠だと、壁に出てくる色や模様はコントロールできないが、予想外の色や模様が出る面白みがある。
そしてさらに、コンクリートを打った後に、補修をしたうえで川辺さん自ら壁と天井にヤスリをかけて仕上げたという。さまざまな色の模様を活かしながらそこに少し手を加えているのだ。ツルっとしたきれいな仕上げにするよりも、こうしたほうが空間全体としてソフトな印象を与えるというのは何とも不思議だ。
階段に使用されたスチールにも川辺さんのこだわりが発揮された。「即物的なのが好き」という川辺さんは「即物的」なテイストを出そうと錆の出具合を自らコントロール。「階段のスチールは設置したまましばらくそのまま放置して、ある程度錆びさせてから拭いてというのを 2 回ほど繰り返しました。それでこういう少し紫がかった色になったんですが、そこに薄くウレタンを塗って定着させています」
さらに、「室内空間の柔らかな印象は、強い形式と強い素材感がバランスよく同居することで生まれているのではないか」と解説してくれた。
毎日、家にいることが楽しみ
暮らし始めて1年以上経つが、川辺さんはいまだにこの家で発見があるという。「自分で設計しておきながらなんですが、“あ、こんな場所があったんだ、こんなふうに見えるんだ” という発見があっていまだに楽しいですね」
キッチンと寝室に関するリクエスト以外は、ほぼ川辺さんの好みと考え通りにつくったそうだが、奥さんもこの家をとても気に入っているという。最後にこんな話をうかがった。
「妻は、住むのにちょっと勇気がいるかもと思っていたらしいですが、いざ出来上がって住んでみると、“ 非常に心地良くて、毎日、家にいることが楽しみだ”って言っています。妻にそう言われるのはとてもうれしいですね」
設計 川辺直哉建築設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 RC 造
規模 地上2階
延床面積 104.34m2