Architecture

壁で区切りながらも繋がった空間コンクリートとスチールの
素材感にこだわってつくる

170724kawabe_head

分節しながらもつながった空間

横浜市泉区に1年ほど前に自邸を建てた建築家の川辺さん。家を建てる際に家族との間で、「ばらばらにいてもお互いにいることがわかる。それと、あまり干渉しあわないような家がいいね」という話が出たという。そこから、「空間が壁で分節されながらもつながっている」という、この家の基本コンセプトが導かれた。

玄関を入って1階の左側には水回りを中心に構成された正方形平面のボックスがあり、右側にはホールに面して寝室が3つ設けられた長方形平面のボックスがある。
全体の平面形は、右側のボックスが左のボックスと分離してから45度ひねってコーナー部分だけを接続したようなつくりになっている。


2階のダイニングからテラスを見る。粗い仕上げのコンクリートの壁・天井が印象的な住空間。幅広のフローリングはオーク材をホワイトオイルで仕上げている。
2階のダイニングからテラスを見る。粗い仕上げのコンクリートの壁・天井が印象的な住空間。幅広のフローリングはオーク材をホワイトオイルで仕上げている。
ダイニングから見る。1階からダイニングへ上がるには階段途中に設けられた小ホールを経由する。左がリビングに上がる階段。
ダイニングから見る。1階からダイニングへ上がるには階段途中に設けられた小ホールを経由する。左がリビングに上がる階段。
2階リビング入口付近から小さなホールと右奥にスタディルームを見る。
2階リビング入口付近から小さなホールと右奥にスタディルームを見る。


2階は左の正方形部分にリビング、右側にダイニングとキッチン、スタディコーナーがある。2つのボックスの中間部分には、階段に接して緑の置かれた小さなスペースがつくられている。このスペースを含めて空間を仕切る戸がまったく設けられていない2階部分では、この家の「分節されながらもつながっている」様子をよく見て取ることができる。


2階のリビングとテラス。既製のアルミサッシの質感に合わせるため、開口周りはコンクリートの地肌そのままではなくモルタルでエッジをシャープに仕上げている。
2階のリビングとテラス。既製のアルミサッシの質感に合わせるため、開口周りはコンクリートの地肌そのままではなくモルタルでエッジをシャープに仕上げている。

外壁のような内壁

川辺邸の特徴は、この空間構成にとどまらない。住宅ながら仕上げの粗いコンクリートが内部に採用されているのだ。まるで外壁のように粗い感触をもつこのコンクリート壁は、「外がインテリアで中がエクステリアというイメージ」でつくられた。内と外の仕上げが通常とは反転し、外壁がきれいに仕上げられているのだ。

配置計画とともに素材をどう扱うかが設計当初からのテーマだったという川辺邸では、このコンクリートをどのように実現するかはとても重要なポイントだった。


リビングのコーナーに設けられた棚にはジャクソン・ポロックの複製画がさりげなく置かれていた。
リビングのコーナーに設けられた棚にはジャクソン・ポロックの複製画がさりげなく置かれていた。
リビングの壁にはラワン材も使用されている。
リビングの壁にはラワン材も使用されている。


自らヤスリがけ

住宅でコンクリートの打ち放しを敬遠する人は多い。それは打ち放しにクールで馴染みにくい印象があるためだろう。しかし、この家のコンクリート壁にはそのような印象はなく、空間全体ではむしろ逆にゆったりと落ち着いた空気感すら漂う。

その秘密は、まずひとつは施工に打ち放し用型枠ではなく、普通型枠を使ったことが挙げられる。この型枠だと、壁に出てくる色や模様はコントロールできないが、予想外の色や模様が出る面白みがある。

そしてさらに、コンクリートを打った後に、補修をしたうえで川辺さん自ら壁と天井にヤスリをかけて仕上げたという。さまざまな色の模様を活かしながらそこに少し手を加えているのだ。ツルっとしたきれいな仕上げにするよりも、こうしたほうが空間全体としてソフトな印象を与えるというのは何とも不思議だ。


2階のダイニング。奥にキッチンがある。「外にいる感覚が暮らしていくうちに強くなって、自然に緑がほしくなった」という川辺さん。緑はこれからまだまだ増やしていきたいという。
2階のダイニング。奥にキッチンがある。「外にいる感覚が暮らしていくうちに強くなって、自然に緑がほしくなった」という川辺さん。緑はこれからまだまだ増やしていきたいという。

「ヤスリがけは、ここは強くかけようとか、このままにしておこうとか考えながら2日ぐらいかけてやりました。工事用の脚立や足場を使ったんですが、天井もあったのでけっこう大変でしたね」。マンションのリフォームの際に、仕上げをはがした際に出てくるコンクリート壁の粗さに近いものを狙ったという。

階段に使用されたスチールにも川辺さんのこだわりが発揮された。「即物的なのが好き」という川辺さんは「即物的」なテイストを出そうと錆の出具合を自らコントロール。「階段のスチールは設置したまましばらくそのまま放置して、ある程度錆びさせてから拭いてというのを 2 回ほど繰り返しました。それでこういう少し紫がかった色になったんですが、そこに薄くウレタンを塗って定着させています」


1階のエントランス前のホールから吹き抜け空間を見上げる。
1階のエントランス前のホールから吹き抜け空間を見上げる。
ダイニングから1階のエントランス前ホールを見下ろす。
ダイニングから1階のエントランス前ホールを見下ろす。


スチール階段の錆は川辺さんがコントロールして現状のようにしたもの。
スチール階段の錆は川辺さんがコントロールして現状のようにしたもの。
吹き抜けの1階部分。川辺さんのお気に入りの場所に椅子が置かれている。
吹き抜けの1階部分。川辺さんのお気に入りの場所に椅子が置かれている。


川辺さんは、「家の形自体はボックスが連結した、幾何学でかなりコントロールされたような空間ですが、実際の体験としてはそのボックス感というのはあまり感じられず、素材のほうが前面に出て見えてくる。これがきれいに仕上がった白い壁だったら、もっと形や形式性が強く出てきただろう」とも話す。

さらに、「室内空間の柔らかな印象は、強い形式と強い素材感がバランスよく同居することで生まれているのではないか」と解説してくれた。


左が玄関ドア。その右にあるのがシューズクローゼット。
左が玄関ドア。その右にあるのがシューズクローゼット。
奥が主寝室。その右手前にお子さんの寝室が2つ並ぶ。
奥が主寝室。その右手前にお子さんの寝室が2つ並ぶ。


1 階の寝室前のホールから見る。奥に浴室などの水回りがまとめられている。
1 階の寝室前のホールから見る。奥に浴室などの水回りがまとめられている。
バスタブは大洋金物の製品。小さめに感じるが縁が薄いため中は広いという。
バスタブは大洋金物の製品。小さめに感じるが縁が薄いため中は広いという。


毎日、家にいることが楽しみ

暮らし始めて1年以上経つが、川辺さんはいまだにこの家で発見があるという。「自分で設計しておきながらなんですが、“あ、こんな場所があったんだ、こんなふうに見えるんだ” という発見があっていまだに楽しいですね」
キッチンと寝室に関するリクエスト以外は、ほぼ川辺さんの好みと考え通りにつくったそうだが、奥さんもこの家をとても気に入っているという。最後にこんな話をうかがった。

「妻は、住むのにちょっと勇気がいるかもと思っていたらしいですが、いざ出来上がって住んでみると、“ 非常に心地良くて、毎日、家にいることが楽しみだ”って言っています。妻にそう言われるのはとてもうれしいですね」


2階のテラスにも緑と椅子が置かれている。
2階のテラスにも緑と椅子が置かれている。
開口が多いため室内の緑の生育には良い環境だという。
開口が多いため室内の緑の生育には良い環境だという。


玄関へのアプローチ部分の緑はガ―デンデザイナーによるもの。
玄関へのアプローチ部分の緑はガ―デンデザイナーによるもの。
北側の庭の緑。こちらもガ―デンデザイナーによるもの。
北側の庭の緑。こちらもガ―デンデザイナーによるもの。


室内とは対照的に外壁はきれいに仕上げられている。
室内とは対照的に外壁はきれいに仕上げられている。
川辺邸
設計 川辺直哉建築設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 RC 造
規模 地上2階
延床面積 104.34m2