Architecture

太陽の動きを感じられる家都市の中の自然を
最大限、享受する

171023kashima_head

チャレンジできる土地

建築事務所「K+S アーキテクツ」を主宰する鹿嶌さんと佐藤さんのご夫妻が東急田園都市線沿線の土地を購入した第一の理由は、事務所に近いからだったという。

「歩いて3 分ぐらいのところに事務所があるんですが、通勤のことをはじめ家と事務所が近いといろいろと便利だろうということで土地を探し始めたんです」


三方が建物でふさがっているが、北西側はT 字路の突き当りに位置し、正面外観がよく見え、車も出し入れしやすい。
三方が建物でふさがっているが、北西側はT 字路の突き当りに位置し、正面外観がよく見え、車も出し入れしやすい。
4階レベルの南側から見る。南西側以外はガラス面になっていて、下階へと十分な光をもたらす。
4階レベルの南側から見る。南西側以外はガラス面になっていて、下階へと十分な光をもたらす。


敷地は3 階建てと2 階建てに挟まれた、奥に細長い光のあまり入らない土地だった。しかし、建築家夫妻は、通常では恵まれているとはいえないこの条件下で、採光と通風などを工夫していかに住み心地のいいものがつくれるかを考えるいい機会ではないかととらえた。

「18 坪と狭い土地だったんですが、とにかくチャレンジできる土地ではないかと。ポジティヴに考えていけば面白いことができるのではないかと考えて購入しました」(鹿嶌さん)


2 階リビングには手前の道路(北西)側テラスからだけでなく、裏(南東)側3、4 階レベルの開口と南西側のハイサイドライトからも光が入る。ダイニングより手前と奥側で用途地域が異なり、リビング上には北側斜線がかかっている。
2 階リビングには手前の道路(北西)側テラスからだけでなく、裏(南東)側3、4 階レベルの開口と南西側のハイサイドライトからも光が入る。ダイニングより手前と奥側で用途地域が異なり、リビング上には北側斜線がかかっている。

太陽の動きを感じる

光に関して鹿嶌さんは、朝起きて日が暮れるまでの太陽の動きが感じられるようにしたいと思ったという。そして「1 階はちょっと無理ですが、2,3 階は工夫すればそんなことができるんじゃないかと考えました」と話す。

「裏の南東側にはすぐ家があって日が当たらないため、4 階レベルのいちばん高いところに設けた開口から朝日が入るようにしました。そしてだんだん日が回ってくるとハイサイドライトから光が入り、そのあとには2 階のテラスの壁で光が反射して室内がすごく明るくなります」(佐藤さん)


テラスのテーブルとベンチは、完成後1 年目につくられた。壁から持ち出されたフレームにデッキ材が張られている。
テラスのテーブルとベンチは、完成後1 年目につくられた。壁から持ち出されたフレームにデッキ材が張られている。
4 階レベルから3 階を見る。
4 階レベルから3 階を見る。
 
3 階にある本棚とテーブルは、完成後2 年目につくられたもの。
3 階にある本棚とテーブルは、完成後2 年目につくられたもの。


道路(北西)側以外の三方を建物に囲まれているが、3、4 階につくられた開口と2 階テラスからの光で2階から上のスペースは十分に明るい。そうした中で、2 階のリビングは「光がいちばん自由に取れるのではないか」という判断から敷地の北西側に配置したという。


ダイニングからリビングを見る。奥のテラスの壁で反射した光が室内を照らす。床には燻煙した杉材を使用。33mm と厚みがあるためスリッパなしでも冷たく感じることはないという。
ダイニングからリビングを見る。奥のテラスの壁で反射した光が室内を照らす。床には燻煙した杉材を使用。33mm と厚みがあるためスリッパなしでも冷たく感じることはないという。
キッチンから奥にリビングを見る。
キッチンから奥にリビングを見る。
 
コの字形で使いやすいキッチン。左側のカウンターが広いため配膳・下膳がしやすいという。
コの字形で使いやすいキッチン。左側のカウンターが広いため配膳・下膳がしやすいという。
キッチンのカウンターは、大人数での食事会で大皿を並べて好きなものを取って食べる形式にしたときに便利という。
キッチンのカウンターは、大人数での食事会で大皿を並べて好きなものを取って食べる形式にしたときに便利という。


はじめはごくシンプル

この家には仕切りがほとんどなく、そのシンプルなつくりも特徴のひとつになっているが、竣工当時はさらにシンプルなつくりだったという。「特に何の部屋をつくらないといけないということもなかったので、“ 小さい中でも広々した感じにしたいね” という話はしました」(佐藤さん)

鹿嶌さんは「プライバシーを確保しながらいかに開放的な空間をつくれるかを考えました。2 人だけだから扉もいらない。カーテンでも空間を区切ることは出来るので、仕切りの少ないシンプルなものにしようということで設計しました」と話す。


1 室空間だが、螺旋階段がリビングとダイニングをゆるやかに分けている。鹿嶌さんのいちばんのお気に入りの場所は奥のソファ。多方向に視界が広がり開放感があるという。
1 室空間だが、螺旋階段がリビングとダイニングをゆるやかに分けている。鹿嶌さんのいちばんのお気に入りの場所は奥のソファ。多方向に視界が広がり開放感があるという。
ソファの横に置かれたサイドテーブルはオリジナルデザイン。ラワン合板でつくられ、墨染色で仕上げている。
ソファの横に置かれたサイドテーブルはオリジナルデザイン。ラワン合板でつくられ、墨染色で仕上げている。
ポプラのLVL(単板積層材)でつくられたダイニングテーブル。こちらもオリジナルのデザイン。
ポプラのLVL(単板積層材)でつくられたダイニングテーブル。こちらもオリジナルのデザイン。


当初あったのはLDK と寝室、水回りのみで、3 階はコンクリート打ち放しの床壁天井そのままの仕上げだった。家が出来てから1 年目に、屋上のテラスにテーブルとベンチをつくった。ともにデッキ材で、コンクリート壁から持ち出したステンレスのフレームに張ってつくった。2 年目には3 階のデスクと本棚。こちらも同様に壁から持ち出したフレームにオーク材を張った。

「生活していく中で、必要なものを考えてからつくろうということでした。本が好きで家でもよく読みますが、本を置く場所がなかったので3 階に本棚をつくりました。上のテラスもそうですが、小さな家だけれども多様な場がつくることができればいいなということも同時にありましたね」


壁からの持ち出しでつくられた3 階の階段。
壁からの持ち出しでつくられた3 階の階段。
3 階から螺旋階段部分を見下ろす。
3 階から螺旋階段部分を見下ろす。


螺旋階段は効率よく居場所をつくれるということから採用された。
螺旋階段は効率よく居場所をつくれるということから採用された。
1 階。螺旋階段のフォルムが美しい。
1 階。螺旋階段のフォルムが美しい。


1 階入口部分から寝室と浴室を見る。
1 階入口部分から寝室と浴室を見る。
寝室から入口方向を見る。テラスの床がガラスのため、その下のガレージ部分も十分に明るい。
寝室から入口方向を見る。テラスの床がガラスのため、その下のガレージ部分も十分に明るい。


都市の中の自然

「屋上のテーブルとベンチは、春や秋の季節のいい時に朝食を取ったり3 時にコーヒーブレイクしたりというようなことに使おうと思っていました。小さいけれどぜいたくな屋外空間をつくって、それを楽しみたいねと」
 
鹿嶌さんがこう語るテラスには水盤が置いてあり、テラスに面したガラスの戸を開けてその水盤に水を流すとコンクリート造の空間にその音がよく響く。「(地下に埋める)水琴窟みたいな響き方をさせて涼を取ろう」とも考えたという鹿嶌さんには、都市部での住宅についてのある考えがあった。


テラスに置かれた水盤。ガラスの戸を開けたままにすると室内に水の音が響く。
テラスに置かれた水盤。ガラスの戸を開けたままにすると室内に水の音が響く。
イタリアン・グレイハウンドのシャマル。完成から5 年後にこの家にやってきた。
イタリアン・グレイハウンドのシャマル。完成から5 年後にこの家にやってきた。
同じくイタリアン・グレイハウンドのカリフ。この家ではシャマルより1年後輩。
同じくイタリアン・グレイハウンドのカリフ。この家ではシャマルより1年後輩。


2 階から見下ろすシャマルとカリフ。
2 階から見下ろすシャマルとカリフ。

「このあたりの建物は2 階建てが多く、その屋根が連なっている。都市の地盤面というのは、実はその屋根のレベルにあって、2 階以下のスペースは実は地下なんだと。だから2 階よりも上に住んでいないと光が自由にならない。そこでわれわれは上に向かって光を確保しようと、もがいているような状態かなと」

こうした観点からすると、この家が都市部の密集した住宅地の中で、光という自然の恵みを最大限享受しようとしてつくられたもののようにも見えてくる。その中で、この家の住人は、自然の変化に敏感になっているようだ。

「冬は3 階に行くとすごく暖かいし、夏は下に行って本を読むとかして、その時期によっていちばん居心地のいい場所へ行きますね」。愛犬のシャマルとカリフも例外ではない。むしろ、人間より敏感のようだ。「その時期のいちばんいい場所を彼らはよくわかっていて、そうした場所にいつもいますね」


用賀の家
設計 K+Sアーキテクツ
所在地 東京都世田谷区
構造 RC 造
規模 地上3 階
延床面積 82.67m2