Architecture
理想の空間に暮らす場の力を感じながら
日々の暮らしを紡ぐ
制限のない家づくりを目指して
茨城県ひたちなか市の街道沿いに建つ、大きな屋根の家。外壁も屋根もグレーのワントーンの外観は、大らかさの中にも繊細さを感じさせる。
取材当日は香織さんがお仕事で不在だったため、聡さんにお話を伺った。「結婚した当初から、いつかは家を建てたいねと二人で話をしていました。妻が描いた間取りを私がCADソフトで3D化したり、ハウスメーカーの展示場を訪ねたり、家づくりへの関心はずっと持っていました」。そんな夫妻は、結婚10年を前にして条件の合う敷地にめぐりあったことをきっかけに、家づくりを決意したという。
聡さんは「制約を設けず、縛られない家づくりをしたいと思い、建築家との家づくりを考えました」と当時を振り返る。
建築家は、香織さんが建築関係のWEBサイトをじっくりと見る中で魅かれた手嶋 保さんに依頼することにした。「手がけられた作品の写真を見ている時からいいなと思っていましたが、会ってお話を伺ううちに、『この人と家づくりをしたい』という思いが一層強くなりました。手嶋さんは、私たちが実現したいことの本質に耳を傾けつつ、具体的な提案をしてくださいました」。
大きな空間を満たす光
玄関から室内に足を踏み入れると、目の前には光に満たされた大空間が広がる。南北に長い敷地に沿うように、建物も南北に長いプランとしているため、奥行きも感じる。
1階は引戸で仕切る個室はあるものの、引戸を開ければひとつながりの空間になる。また、南北それぞれにロフトや予備室、収納等のために2階のスペースを使っているが、空間自体は床面積の半分以上が吹き抜けの大空間だ。
その大空間を包み込む光は、トップライトに設けられたリフレクター越しに入ってくる。これは直射日光が入りすぎないようにコントロールするために設けられたものだ。その光の様子を、聡さんは「えも言われぬ光」と表現する。「1日中光の入ってくるさまを眺めていても、飽きるということがありません」。
無駄なモノのないギャラリーのような空間
広い空間はモノが少なく、すっきりと美しく整えられている。「無駄を極力排した美しい空間を保つため、家電類もできるだけ見えないように設計していただきました」と聡さん。エアコンを壁にビルトインしてあるのはもちろんのこと、冷蔵庫までキッチンに隣接するパントリーに納めているという。
雑然としやすいキッチンも、カウンターの上には殆どモノが置かれていない。ここまで片付けを徹底するのは大変ではないかと思うが、パントリーなど収納スペースをしっかりととり、さらに持ち物に合わせた収納計画をたててもらったことで無理なく片付けられるそうだ。「キッチンは、道具類をすべてしまえるように、引き出しの深さなどもすべてオーダーしました。私はもともとは片付けは苦手でしたが、この家に住むようになって、自然と片付ける習慣がつきました。」(聡さん)。
住まいと一体となる庭
鈴木邸の特徴が、LDKと並行してつくられたテラスだ。居室とテラスの間にはガラス戸が、テラスと庭の間には網戸が設けられている。春から秋にかけてはガラス戸を開け放し、網戸だけの状態とすることで、LDKは庭と一体となった開放的な空間となる。
庭園を設計したのは、気鋭の造園家・橋内智也さんだ。鈴木邸の工事が終盤に差し掛かった頃に、手嶋さんと橋内さんが出会い、鈴木邸の庭を依頼することになったという。建物と同じく南北に細長い庭は、○○風庭園といったつくりこんだ雰囲気とは無縁の、さりげない美しさが魅力だ。
家とともに自分たちも成長する
鈴木さん夫妻がこの家に暮らして間もなく1年。聡さんは「季節によって光の入り方が違ったり、四季折々の表情を楽しんでいます」と話す。さらに家を建てたことで、「場の力」を感じるようになったとも。「今はまだ家の素晴らしさに僕のレベルが追いついていませんが、住むうちに器に追いついていければと思っています」。
今後、この家でしたいことを聞くと、しばらく考えた後で「ここが美しく古びていくのを見守っていきたいですね」と言う聡さん。その言葉には理想の住まいへのさらなる期待が感じられた。