Architecture
多摩川のほとりに暮らす光、風、緑を取り込む
癒しと心地よさに満ちた家
空気が流れるダイニング
「外と中が混然と一体となっている空間が好きなんです」。
スタジオ CYの堀内犀さん・雪さんは、3年前多摩川のほとりに自宅兼アトリエを建てた。
「都心の暮らしには少し息苦しさを感じて。光が入り、風が抜けて、緑が溢れる、そんな場所を求めていました」。
見つけたのは、都内にありながら広々とした河川敷が目の前に広がり、どこまでも土手が続く土地。
「目線の高さに緑があり、部屋の中まで流れ込んでくる、ここは私たちにとって理想的な場所でした」。
この贅沢な環境をいかに暮らしに取り込めるかが、設計のテーマだった。
「長方形の細長い敷地なのですが、どこの空間にいても気持ちよく過ごせるよう、多摩川に面した側に開口部を大きくとり、中庭、裏庭も設けました」。
中庭を挟んでコの字型に配置された建物は、家中を光が通り抜け、どこにいても緑の気配が感じられる。
「1階はダイニングであり、ミーティングスペースであり、エントランスです。いずれはカフェにしても、と考えているのですが、誰もが気軽に入りやすいよう靴のまま入れる土間にしました」。
奥につながるキッチンで犀さんが淹れるコーヒーの香りが漂うダイニング。時折、外を歩く人がふとこちらを覗き込む。シダーウッドの外壁の一軒家は、何気なく目を向けてしまう、そんな魅力的な佇まいを見せている。
癒しと高揚感のセミパブリック
「やりたいことをプランに落としていったので、動線がよく暮らしやすい家になりましたね」。
1階のパブリックスペースから、2階のアトリエのあるセミパブリックスペースへは、インダストリアルな雰囲気のキッチンから連続するように、スチールの手すりの階段がつなぐ。アトリエ兼リビングに足を踏み入れると、土手の緑が眼前に。
「ここで仕事をする時間がいちばん長いんです。大きな開口部を設けて開放的にしつつ、でも全面開口では落ち着かないので、土手を歩く人から見て腰下のラインを隠すように、バルコニーを設けました」。
窓のサッシには縦ライン、横ラインをリズミカルに配置することで、より外の景色を楽しめるように。
「家を小さい部屋で仕切りたくなくて。収納庫は上から吊るす構造にして浮遊感をもたせました」。
犀さんの趣味の物入れとして活用している収納庫は、板張りの箱が宙に浮かんでいるかのような仕掛けに。その下にはスリットが設けられ、1階へ光を送る。そして数段の階段と廊下の向こうにバスルームが。
「北側の床のレベルを少しずつあげることで、多摩川を見下ろせるように考えました」。
アトリエより少し高い位置にある大きなガラス窓のバスルームは、中庭に面していて風が抜け、光がたっぷり入る。床にあしらった十和田石や、洗面の大理石など天然の素材が非日常感と癒しを与える。
深呼吸したくなる3階テラス
3階にあがると、土手の向こうに広がる河川敷や川面までが見渡せる。
「ここは完全にプライベートなのでリラックスできるように素材を選びました」。
床材は、1階のキッチン側にウォールナット、2階はオーク、3階にはアッシュ材と、上に行くほど明るい色彩に変化。最上階の3階は最も明るくシンプルな空間に、シースルーの緑のカーテンなど、ほどよく取り入れられたファブリックが爽やかさを演出する。
「ここからお天気のいい日には富士山も見えますし、夏は花火大会も楽しみです」。
ベッドルームのまわりにL字型に設置されたテラスに出てみると、外の景色に吸い込まれるよう。
「遠景の緑とのつながりを出すために、テラスに芝を敷いてみました。朝、ここに出て深呼吸をすると気持ちがいいんですよ」。
自然をたっぷり享受しながら心地よく暮らす、そんな日常を可能にするアイデアが溢れていた。