旗竿敷地に建てる
K邸は四周を家に囲まれた旗竿敷地に建つ。この敷地でKさんが家を建てようとしたときにいちばんに考えたのは、室内が明るくなるかどうか、広く見えるかどうかだったという。
明るさについての懸念は、土地を購入した際に建っていた既存の家屋は魅力的ではあったものの、建築当時の技術では採光が十分でなく、またカビの臭いのする地下室もあったためだが、この家ではこれらをいくつかの方法で解決している。まずは家の中心部分に吹き抜けの階段スペースを設けた。このスペースに面して大きな開口を設け、1階にまで十分な光を導いている。
さらなる工夫として、壁面を出したり引っ込めたりと平面を前後させたつくりにしていることが挙げられる。壁面を部分的に後退させることで隣家との距離を取ってより多くの光を採り入れようとしているのだが、これがまた通風の面でも効果的という。
広さの面では、2階は極力仕切りを設けずに1室空間に近い形とし、さらにフラットな天井面を設けずに屋根の形をそのまま見せる断面とすることで高さ方向でも広がり感を獲得している。
1室空間に高低差をつくる
1室空間の場合、広いだけでは使いにくく居心地が良くなかったりすることもあるが、K邸では階段を間に挟んでダイニングキッチンとリビングとで高低差を設けることで空間をゆるやかに区切り、また空間に変化をもたらして適度な心地のよさをつくり出している。
「高低差があると意外と遠くに感じるので段差を設けたのは非常に良かったですね。また、ダイニングにいたら子どもたちがリビングで騒いでいてもあまり気にならないので、音の面でもいいような気がします」(Kさん)
パーティ仕様の空間
この家の設計で重要だった要素があと2つあるが、そのひとつが10数人程度と多めの客が来てのパーティにも対応できる空間にすることだった。
「友人や家族を呼んでパーティをすることがあるので、多めの人数が集まれる空間をイメージしていました」(Kさん)
4人家族には大きめのダイニングテーブルは、メーカーの規格よりも大きく製作してもらったパーティのための特別仕様だ。そしてその周囲にたっぷりとスペースを取るとともに、キッチン周りも広めに取った。
「わたしはこのシンクとレンジの部分が分離したニ型のアイランドキッチンにすることは考えていなかったんですが、建築家の坂野さんにご提案いただいた時に、このほうが確かにパーティなどで人が来た時にも楽しくできるかなと思いました」(奥さん)
「自分一人で料理をつくるのではなくて、訪れてきた友だちにも手伝ってもらえるので、キッチンの両側が開いていたほうがいいという話もありましたね」とKさん。坂野さんはキッチンに寄りかかって飲む人もいることも想定して設計したという。
冷暖房にもこだわる
さらにもうひとつこだわったのは冷暖房に関してだった。以前に住んでいた家が夏場の暑さが厳しかったうえに、家族にアレルギーが心配の人もいたこと、さらにKさんが環境的なことに関心をもたれていたため、坂野さんは「あまりエネルギーを使わずにすむようなエコハウスにしましょうと提案させていただいた」と話す。
そこで採用されたのは、奥さんが「これでとても快適に過ごせている」と話す、エアコンのようには風を出さずに冷暖房を行う輻射式のシステムだが、設計では2つの難点があったようだ。まず効率よくシステムを稼働させるためにメーカーのほうから配置がある程度指定されてしまうこと、そして、家に取り付けるための金具で家のデザインに合うようなものが用意されていなかったこと。
しかしそこは設計でうまく対応することによって違和感なく空間に収まった。夫妻が説明しなければ冷暖房のためのシステムであることにほとんどの人は気が付かないそうだ。
住み始めてからまだ3カ月ほどだが、外食好きのK夫妻がめっきり外で食事をすることが少なくなったという。Kさんがお酒を飲むときはダイニングテーブルのリビング側の定位置に陣取り、夜にはダイニングの光量を落としてキッチンの部分に仕込まれた間接照明をつけるのだという。
「バーの雰囲気になるので余計飲んでしまう」というが、くつろぎながら飲めるだけでなく、そのまま寝ることもできれば、お風呂に入ることもできる。心地の良い空間に加えて夜間のこの演出ではバーから足が遠ざかるのも無理もない、と納得した。
K邸
設計 フラットハウス
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2 階
延床面積 170.06m2