Architecture
窓辺に造った気持ち良いスペースバルコニーで
できた家で暮らす
階段を上るとバルコニー
「人に変わっていると言われても正直ピンとこなかった」と話すのは根津さん。「変わっている」と言われた根津邸は、外から見ると箱形の2階建て。しかし、いったん中に入ると、2階建ての空間をズドンと大きく開けた1室空間になっている。
2階レベルにつくられたスペースへと向かうにはそれぞれ別個につくられた階段を上っていくが、そのスペースのそれぞれがバルコニーのようにつくられているのだ。そして、そのうちの2つには通常のバルコニーと同様にその上には屋根がつくられている。
まったく想定外のデザイン
室内に向かってバルコニーがつくられた家。この設計案が出てきたとき、奥さんは「ただただびっくりと期待しかなかった」そうだ。根津さんは「来たな!」と感じたという。そして「想像していたものではないものが出てきたのが素直にうれしかった」と話す。
また、根津さんが「想定外のところが期待通りだった」とも表現する通り、夫妻が建築家の保坂さんにリクエストしたのは「どこにいても子どもと家の中身が見える」(奥さん)ことや「どこにいても人を感じられるものがいい」(根津さん)といったことで、他は大筋お任せ。2階分ぶち抜きの室内にベランダがいくつもつくられている現デザインは、まさしく「想定外」で夫妻の頭にはまったくなかったものだったのだ。
「なんでも好きなことを話してくださいとか、思い出のものをもってきてくださいとか言われました」と奥さんは振り返る。保坂さんのほうは「いろいろなお話をうかがって、ご家族の雰囲気などを感じることで、根津さんたちに合うものは何なのかを感じ取りたかった」とその会話の目的を明かす。
根津一家ならではのあり方
そして最初のヒアリングから約2カ月後に、現案を提案した保坂さん。「根津さん一家のオープンで伸び伸びとした雰囲気に合った、根津邸だからこそありえるあり方を考えてもいいのかな」と思って作成したという。
そして、敷地が窓を多く開けられる状況だったことから、窓を開けたら室内にバルコニーがあるという発想に至ったと話す。「窓のあるところにバルコニーをつくっていくと、窓辺だから明るくて自然の風もあってという気持ちのいいスペースが家のあちこちにできる。この“バルコニーでできた家”というあり方があるのに気が付いたときに、根津邸はこれだ!と思いました」
「あえてつなげずに、それぞれ独立した階段でアプローチするようにしました。また、意外と遠いように感じるというか、限られた空間の中でも長い動線になるように検討を重ねていきました」。
さらに、移動するたびに見える景色が変わっていくというのもふつうの家ではありえない、根津邸ならではの体験だ。
奥さんは「自分では思っていてもなかなか言葉にできずじまいだった部分も、具体的な形にしてもらったという気がします」と話す。
ジュリエットは……
最後に保坂さんからほほえましいエピソードをうかがった。「バルコニーがあって、この家はある意味では“ジュリエット・ハウス”でもあったわけですが、バルコニーが外にあるとジュリエットは不幸になるけれど、この家では室内にあって真逆のことが起きているから、ジュリエットが幸せになる。こんなお話を設計中にしていました」
すると、引っ越しをして間もなく、奥さんから連絡が来て、娘さんが「お嫁に行きたくない」といっているという。そして「こんな楽しい家で、こんなすてきな階段があるのに、お嫁に行くためにこの家を出られない」といって泣きましたと。家というものが、住んでいる人からそこまで思われるなんてめったにあるものではない。なんと幸せな家なんだろう、と思わず感じ入った。
プロデュース ザ・ハウス
設計 保坂猛建築都市設計事務所
所在地 東京都台東区
構造 木造
規模 地上2 階
延床面積 73m2