Architecture

自然素材と暮らす独立性とつながりを両立
理想のシェア・マイハウス

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家族の成長に合わせて

一級建築士・奥山裕生さんが自宅を建てたのは2年程前。
「一人娘も成長して家族のライフスタイルも変化しました。そこで、それまでとは違う暮らし方を設計に取り入れたいと思いました」。
建築士としてのこだわりでもある自然素材を使うことはもちろん、家族との距離感、生活の動線など、自らの経験値を活かして設計にあたった。
「今の我が家はシェアハウス。こんな風に暮らしてみたらどうだろう、という実験的な意味合いもあります」。
日溜まりのようなLDKに家族が集うことを想定しつつ、それぞれの生活スペースを確保。さらにみんなが快適に暮らせるよう細かなところに工夫を盛り込んで完成した。


光が差し込む“サンクンリビング”。壁は真っ白にこだわり漆喰で塗装。床は無垢のチーク材で。
光が差し込む“サンクンリビング”。壁は真っ白にこだわり漆喰で塗装。床は無垢のチーク材で。

横に並んで座るダイニングテーブルからは、リビング全体が見渡せる。
横に並んで座るダイニングテーブルからは、リビング全体が見渡せる。

大人数で集まれるリビングに

心地よい空気感に包まれるLDKは、中央のいちばん低いレベルを取り囲むように段差をつけ、沈み込むように設計した “サンクンリビング”。
「普通、LDKはソファーやダイニングテーブルが占有しています。でもそれだとひとりが横になると狭くなってしまって、空間に余裕がない。娘も大きくなったし、必ずしも家具を置いたり、大きな食卓を囲んだりしなくてもいいのかなと」。
ダイニングは3人が横に並んで座れるカウンターテーブルに。その分、リビングを大空間にして大人数でも集えるようにした。
「家族の時間がずれていて3人で一緒に食事をすることもあまりないんです。ひとりで食事をするとき、カウンターからは全体が見まわせるし、キッチンで料理する人とも近く、むしろ孤独じゃないんですね」。
鍋やホットプレートなどを囲むときは、“サンクンリビング”で。床暖房も備え、腰掛けやすい高さに計算されたこのスペースは、お客さんを招いたときにも重宝するそう。


中央に向かって沈んでいく“サンクンリビング”。家具がない分すっきりとして、広々と使える。ダイニングの上にはロフトを設けた。
中央に向かって沈んでいく“サンクンリビング”。家具がない分すっきりとして、広々と使える。ダイニングの上にはロフトを設けた。
段差は2段階。下部は足を降ろしてちょうど寛げる深さに、上部はあぐらをかくのにちょうどよい10cmの段差に設定したそう。
段差は2段階。下部は足を降ろしてちょうど寛げる深さに、上部はあぐらをかくのにちょうどよい10cmの段差に設定したそう。
ガラスの扉が光を家の中まで通す。エアコンはチーク材で造作した収納にすっきり内蔵。
ガラスの扉が光を家の中まで通す。エアコンはチーク材で造作した収納にすっきり内蔵。


テレビを観ながら食事ができるダイニングカウンター。キッチンからも近くて動線がいい。
テレビを観ながら食事ができるダイニングカウンター。キッチンからも近くて動線がいい。
エリック・バックのジェネリックのバースツールの高さに合わせ、カウンターを設置した。
エリック・バックのジェネリックのバースツールの高さに合わせ、カウンターを設置した。


テーブルは床と同じ無垢のチーク材でオーダーしたもの。
テーブルは床と同じ無垢のチーク材でオーダーしたもの。
ゆっくりと寛げるリビング。家族で集うときはここに集合。
ゆっくりと寛げるリビング。家族で集うときはここに集合。


最小限の個室を確保

みんなで集うリビングに対して、ベッドルームは3.75畳の個室を3部屋用意。
「ここに引っ越す前はみんな同じスペースで暮らしていました。子供が小さい間はそれでいいけれど、成長したことで部屋も独立性を高めたいと、小さな個室に分けました」。
すべての部屋をほぼ正方形に設計。空間の半分を小上がりにして布団を敷き、ベッドとして使えるように。残り半分には机を置き上部に本棚を造作した。ウォークインクローゼットも設けられ、すべてのものがすっきりと収納されている。
「娘が部屋で勉強したり、私や妻は持ち帰った仕事をしたり、趣味にふけったり。それぞれが自分の時間を保てています」。
列車のコンパートメントのように必要最小限に区切られたスペースは、家族それぞれにとってちょうどよい距離感を保つことができるようだ。


裕生さんの3.75畳の個室。小上がりのベッドまわりを壁で囲み、こもって落ち着ける雰囲気を演出。
裕生さんの3.75畳の個室。小上がりのベッドまわりを壁で囲み、こもって落ち着ける雰囲気を演出。
裕生さんと妻の部屋の間には、ふたり共有のウォークインクローゼットを。
裕生さんと妻の部屋の間には、ふたり共有のウォークインクローゼットを。
家具は造作で無駄なく収納。机の天板には、結婚時に友人からもらった一枚板をカットして使用。
家具は造作で無駄なく収納。机の天板には、結婚時に友人からもらった一枚板をカットして使用。
靴をはいて全身をチェックできる位置に鏡を取り付けたり、壁に手をついて汚すことがないよう棚板を取り付けたり。細やかな配慮が。
靴をはいて全身をチェックできる位置に鏡を取り付けたり、壁に手をついて汚すことがないよう棚板を取り付けたり。細やかな配慮が。


家事のストレスも軽減

「妻はずっとフルタイムで働いていて、娘が小さい頃は、私が専業主夫をしていたことがあるんです。その頃ママ友もたくさんできて(笑)、主婦に必要なことって何だろうと考えるようになりました」。
そんな経験が設計に活かされ、家事をしやすい生活動線を考えることに。
「買物をして帰ってきたら、バスルームと洗面の間を通ってキッチンに。洗濯をしたらすぐ先のバルコニーに出やすいように、など無駄な動線を省くことを考えました」。
1本の家事動線があることで、リビング側に回ることなく、家事のほぼすべてをまかなえる。忙しい奥山家の時間と労力の短縮に役立っている。
「主夫としての経験が仕事に活かされるとは思っていませんでした」という奥山さん。ひとりで寛ぐ時間には、リビングの上に設けた漆喰塗りのロフトから、映画を観るのが楽しみなのだとか。家族それぞれが家で過ごす時間を楽しみたくなる、そんな工夫があちこちに散りばめられている。


家事動線を考えて設計。右側の、水まわりを横切る廊下が要。水まわりや廊下などの壁にはエコクロスを採用している。
家事動線を考えて設計。右側の、水まわりを横切る廊下が要。水まわりや廊下などの壁にはエコクロスを採用している。
洗面所はタモ材で造作。洗濯したものは奥のベランダに。干す前に一時的にかけられるフックも取り付けるなど、工夫を施した。
洗面所はタモ材で造作。洗濯したものは奥のベランダに。干す前に一時的にかけられるフックも取り付けるなど、工夫を施した。
妻の希望で取り入れたアイロンコーナー。アイロン台をたたまずそのまま収納できる。キッチンと洗面の間にあって動線もベスト。
妻の希望で取り入れたアイロンコーナー。アイロン台をたたまずそのまま収納できる。キッチンと洗面の間にあって動線もベスト。


裕生さん自身も料理をするため、キッチンは広すぎず狭すぎず、使いやすい幅を考えて配置。
裕生さん自身も料理をするため、キッチンは広すぎず狭すぎず、使いやすい幅を考えて配置。
バスルームは黒いタイルを使ってハーフユニットに。デザイン性とユニットの機能性を両立。
バスルームは黒いタイルを使ってハーフユニットに。デザイン性とユニットの機能性を両立。


好きな建築家である、フランク・ロイド・ライトのロビー邸のための照明。
好きな建築家である、フランク・ロイド・ライトのロビー邸のための照明。
階段の窓枠にさり気なく飾るのは、ご夫婦の学生時代の記念の品。
階段の窓枠にさり気なく飾るのは、ご夫婦の学生時代の記念の品。


ロフトからはリビングを眺められる。内部には本棚を造作。ここに籠るのも家での楽しみのひとつだとか。
ロフトからはリビングを眺められる。内部には本棚を造作。ここに籠るのも家での楽しみのひとつだとか。
ジョリパット仕上げの外観が、明るい日差しに映える。
ジョリパット仕上げの外観が、明るい日差しに映える。


アトリエ橙 
所在地 東京都練馬区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 78.30m2