Architecture
ちょっと未来の家オフグリッドハウスで
快適に暮らす
設計コンペをする
東京・町田市の住宅街に建つ岡野邸。約55m2と小規模なこの住宅が建つまでの経緯は少し特異なものだった。設計コンペを開催し、公開プレゼンを経て設計者を選定したのである。
さらに、コンペ時の提案課題には、茶道を楽しめるような空間とグラフィックデザインのディレクターをされている岡野さんの仕事場として使える空間があることなども挙げられていたが、中心となった課題は岡野邸をオフグリッドハウスとすることだった。
「太陽光パネルにプラスして蓄電池があればそこに電気を貯めることができる。電気を貯めておけないから自給がなかなか難しかったわけです」(岡野さん)
地域のセーフティハウス
奥さんの美紀子さんは施工会社の役員をつとめており、コンペを開催したのには、建築家との付き合いが幅広いゆえに逆に設計者の選定が難しいという事情もあったようだ。
「自分たちの老後のことも考えながら、社会的に意義のあるものをつくりたいと思っていたんですが、オフグリッドハウスをコンセプトにした建物をつくろうとなったときに、付き合いのある建築家の方がたくさんいらっしゃるので、どなたに設計を依頼するかを決めるのがとても難しくて、それでコンペというかたちで設計をしてくださる方に手を挙げていただくことにしたんです」(美紀子さん)
若手の建築家7組が参加し案を出した中から選ばれたのが、abanbaの番場さんの案だった。コンペ時は木造案だったのが、地域に貢献できるような建物にしたいということもあって、途中から鉄筋コンクリート造へと変更になった。
「何かあったときに拠点となり、地域の人たちに電気の供給などができるセーフティハウスにしようということから、コンクリートでがっちりとつくることにしました」(岡野さん)
魔法瓶のような構造
岡野邸がどういう仕組みでオフグリッドハウスを実現しているのか、その概略を示すと、まず、コンクリートと断熱材で建物をぐるりと囲んで魔法瓶のような構造とし、ガラスはトリプルガラスにして、1年を通して室温がなるべく一定になるような環境にする。
太陽光パネルはハイブリッドのものを採用。太陽光で電気を起こす機能とともに、太陽光の熱を採り込んで蓄熱するという2つの機能をもっているものだ。蓄熱で暖められたお湯はお風呂と給湯に使う。
1階にはペレットストーブを設置。暖気を地下の空間に回してオンドルのように床を暖めると同時に小上がりの部分に設けたスリットから暖気を室内へと出す。さらには実験的な試みとして、蓄えた熱を冷房に使う機器も導入した。
快適なチャレンジ住宅
こうして、老後のためにつくった家はエネルギー問題に対応した、少し先の未来を見越した実験住宅といえるものとなった。美紀子さんも「ほんとにチャレンジ住宅ですね」と笑う。そして岡野夫妻はともにいまこの実験的な部分を楽しんで暮らしているという。
最後に建築についてうかがった。「外壁の横張りのガルバリウムも左官仕上げも主張しすぎず、でもきちんとここにあるよというのを小さいながら表現してくれています」と美紀子さん。内部では杉板型枠による打設で木目が転写されたコンクリート壁が醸す雰囲気が気に入っているという。「何年経ってもそれなりにいい感じになるのかなと思っています」
仕上げや建築のスケールも身体的に心地よいものにつくられている。実はそれが住み手にとって熱環境的に快適な空間とセットとなっているというのが重要だろう。このことが岡野夫妻にオフグリッドハウスを楽しみながら老後を快適に暮らすことを保証しているように思われた。
所在地 東京都町田市
構造 RC造
規模 地上2階
延床面積 55.45m2