Architecture
狭小敷地にあえて庭を残す小さな土地に大らかに住まう
都心の息苦しくない暮らし
光と風の通る家に
自宅兼アトリエを設けるため、一級建築士・腰越耕太さんは都心に間口の広い敷地を探していた。
「色々と探したのですが、どこもウナギの寝床のような土地ばかりでした。でも1年くらいしてやっと18坪の敷地を見つけたんです」。
鋭角な三角形の変形地だが、接道の長さが11m以上あり、ここなら道路側に開口部をたくさん取れると腰越さんは考えた。
「狭小敷地ですから、最初は建ぺい率、容積率をめいっぱい使って三角形の建物を建てることを考えていました。でもそうすると毎日隣家の壁を眺めながら暮らさなければならない。どうもピンとこなかったんです」。
そこで三角形の角部分の3カ所は土を残して庭とし、敷地の2/3のみを使って建てることに。60%の建ぺい率のうち33%、200%の容積率のうち160%のみを使うというプランだ。
「敷地いっぱいに建ててしまうと、最低限空けなければいけない隣家との間の50cmの隙間は、エアコンの室外機を置く程度の死に地となります。生活空間の広さを思いきって捨てて庭にすることで、緑と光が取り込め風が通る、最終的にそんなプランに落ち着きました」。
三角の土地に正方形の建物を
「住んでみると土を残した効果は大きかったですね。開口部からいつでも緑が目に入ってくるし、都市の狭小住宅の息苦しさを感じません」と腰越さん。
RC壁構造の打ちっぱなしの建物は、地下にアトリエ、1階にバスルームと子供部屋、2階にLDK、3階にベッドルームを構える。2、3階の大きな開口部の向こうには街が広がり、屋根のトップライトからは室内に光が降り注ぐ。
「壁構造なので、壁以外はめいっぱい広さを取りました。限られた面積なのでやれることは限られています。極力ミニマルにシンプルに設計しました」。
最初に決めたのは1辺が4mの正方形にすること。
「正方形というのは形としてもきれいだし、最もシンプルなもののあらわれだと思うんです」。
空間に合わせ、持ちものもできるだけ整理してミニマルに。最小限必要なものを造り付けのクローゼットなどに収めて、すっきりと暮らしている。
「妻も私も田舎があるので、東京ではコンパクトな暮らしでもいいのかなと思っています。小さく造ってよかったね、といつも話しています」。
少しずつ姿を変える家
コンクリート打ちっぱなしの四角い箱に、階段の手すりのアイアン。インダストリアルな雰囲気に無垢の床が温かみを添えている。
「床は当初、階段も含めてすべてコンクリートだったのですが、長男が生まれてスギの無垢材を張りました。竣工当時からちょっと雰囲気が変わったと思います」。
1階のバスルームや個室のドアはラワンで。微妙なトーンのカラーは、DIYで塗ったものだそうだ。
「取っ手には大工さんにもらった鎹(カスガイ)を取り付けています。靴箱も前から持っていた本棚の材料を使って作ってもらいました。できるところはなるべく手をかけたり、素材を再利用したりするなどして、コストカットも考えました」。
そのせいかクールなコンクリートの箱にはどこか温もりも感じられる。玄関のドアを開けると、家を建ててから3年で大きく育ったというシマトネリコの木が目にまばゆい。
「子供が成長したら、庭の一部に別棟を設けて渡り廊下で繋ぐプランも考え中です」。
目線の高さに緑がある地下のアトリエで、今後の計画についても語る腰越さん。18坪の敷地は色々な可能性を秘めている。