Architecture
外にも中にも視線が抜けるおおらかなつくりで
人が集まる家
開放感と抜けのある空間
この近くの団地に10数年住んでいて、土地勘があり、また地域のコミュニティとのかかわりができていたことから同じ市内で探してH夫妻がみつけたのが公園に面した敷地だった。
「住宅密集地ではなく開放感と視線の抜けのある敷地を望んでいました。ここは南側に公園があってわれわれにとっては理想的でした」とHさん。
設計でのリクエストもまずは「開放的で抜けのある空間」。そして「奇をてらわずおおらかで品の感じられる空間」だったという。
奥さんは打ち合わせ時に、スペイン旅行の際に泊ったホテルでの体験を建築家の角倉さんに話したという。「そのホテルは修道院を改装した建物で崖っぷちに立っていたんですが、視線が遠くまで抜けて窓際からの景色が素晴らしかったんです」
H邸は南側の壁面に同程度の大きさの3つの窓と玄関扉の脇につくられたフィックスのガラスの開口などによって公園への抜けを確保してH夫妻のリクエストに応えているが、さらに内部においてもスペース間の視線の抜けを確保している。
「どのスペースにいても開けた感じを望まれているのが最初からわかっていたので、それが設計する際の大きな核になりました」と角倉さん。さらに「基本的にはワンルームのようなつくりで吹き抜けで全体がつながっている。そういうものを望まれているのではないかと思った」と話す。
大きな玄関ホールを介してつながる
H邸は玄関を入ると広めのホールになっているが、この土間のスペースはH邸のすべての部屋とつながっていて、まさに「ワンルームのようなつくり」にも感じられる。このつくりはH夫妻からの「人が集まれる家にしたい」というリクエストにも応えたものであった。
外部から気軽に入れるこのスペースは「公園の集まりをそのまま引き込むようにしてつくったもの」と角倉さんは話すが「最初はお子さんが知らない間に外出したりしないように1階をリビングにしてほしいという話があって、これにずっと引っ張られてなかなかうまくいかなかった」という。
「しかしあるとき、目の前に公園があるわけだからリビングを2階にもっていったほうがいいんじゃないかと思ったときに同時に土間の発想が出てきた。リビングと土間とつなげることでお子さんの出入りもわかり、土間にすることで近所の方も集まってくる。このアイデアが出てからは計画がスムーズに進みましたね」
角倉さんからのこの提案に「直感的にいいな」と思ったというHさん。「土間になったホールが単なる玄関ではなくて部屋の延長でもあり、またそこでいろんなことができる可能性を感じました」
おおらかさも実現
竣工して2年が過ぎたH邸。「以前団地に住んでいたときも人を呼びたいとは思っていたんですが狭くてできなかった。2年経って、思った以上に人が集まってくれる家になっていますね」とHさん。奥さんは「友だちとの仲間づくりにおいてもとてもいいなと思っていて、今ならランチも外に食べに行くのではなくて“家においでよ”って言える。人とのつながりが以前とは違ったものになったのはこの家のおかげだと思います」
奥さんはまた「好きな場所が家の中にたくさんあるのですが、ソファに座って眺める内部の景色が好きで、季節や時間によって光の反射の具合がちょっとずつ違うのが家の中にいて感じられるのもうれしい」と話す。
Hさんのお気に入りは1階のホール。「機能面などからすると“遊びの空間”的なスペースともいえますが、これがこの家にある種の余裕のようなものをもたらしてくれていると思います」。そして「窓から入る光と公園の植栽の緑に心が落ち着きますね」とも。Hさんの言葉から、開放感と視線の抜けとともにリクエストした「おおらかさ」も十分に実現されている、そのように感じられた。
H邸
設計 角倉剛建築設計事務所
所在地 千葉県松戸市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 114.23㎡