Architecture
プレーンなデザインの美しさ閉じているのに光が抜ける
主張をしない、普遍の住まい
和にモダンを融合させて
祖父、叔母が暮らした土地に新居を建てることになったSさんご一家。建築家を探す中で、デザインライフ設計室の青木律典さんに出会う。
「作品集を見て、感性が合うなとピンときたんです。素材の使い方、線の収め方、そういうものがぴたりとはまりました」。
夫はIT関係のデザイナー。もともと建築やインテリアが好きで、こんな家にしたいというイメージはある程度固まっていた。
「日本住宅の良さも残しつつモダンな感じのある家、それまでに買い集めていた北欧の家具がなじむような家にしたい、とリクエストしました」。
「家づくりノート」を作成し、青木さんとイメージを共有しながらプランニング。やや赤みがかったグレーの外壁に包まれた、控えめな開口の一軒家は2年程前に完成した。
閉じながら外とつながる室内
「外に対しては閉じたいけれど、中は明るく開放的にしたい、という矛盾したリクエストを頂きました(笑)」というのは、青木さん。
駐車場を挟むものの、敷地の前には集合住宅がありベランダと向かい合わせに。この問題をどう解決するかが設計のテーマだった。
「外からの視線を避けるために、リビングとつながる屋根のかかったテラスを設けました。正面は塞ぎながらもサイドに開口を設けることで、光と風が家の中を通り抜けます」。
リビングからフラットにつながったこのテラスは、ガラス、簾、障子の3段階の引き戸で仕切ることができ、開け放つとリビングの一部に。集合住宅に面した正面は塞がれているので、プライバシーは守りながらサイドの開口の先から隣地の借景が楽しめる。
「家の中は、1階から階段を通って2階まで吹き抜けになっていて、2階北側の窓から、対角線を通って南のスリット窓に光が抜けます。つながった空間にすることで開放感が生まれます」。
仕切りには全て引き戸が使われていて、開ければ家全体がひとつの空間に。角を丸く仕上げた漆喰の白い壁と天井が流れるように連続して、光とともに包み込まれるよう。
北欧家具が活きる空間に
「もともと北欧が好きで、家具や照明、雑貨などたくさん買い集めていたんです。それに合うように設計してもらいました」。
1階の玄関からスキップフロアで上がった空間は、持っていたテーブルがちょうど収まるように設計。家族全員でそれぞれの時間を過ごせる書斎のようなスペースを確保した。
「主人が仕事をしたり、子どもたちが勉強したり。ダイニング以外にみんなが集える場所があるのは重宝していますね」。
という妻は、一方でキッチンだけは独立した空間を希望。
「永田昌民さんが設計した大橋歩さんの家のキッチンに憧れていて、一直線の独立したキッチンにしてほしいと、青木さんにお伝えしました。来客時には引き戸を閉めれば作業しているところが見えないし、匂いも遮断できます」。
収納棚は、集めていた北欧の食器などがすっきり収まるように造作。愛読書や雑貨も並んだ、趣味の空間のようなキッチン&パントリーには、やはり外からの視線を遮るため、窓の外側に木製のルーバーを設置した。
主張のない意匠が心地いい
「住み心地がいいのは、やはり建築家さんと感覚が合うからでしょうね。気づかないけれど縦の線、横の線が何気なく同じラインに揃えられていて、すっきりと収まっているところなどに居心地の良さを感じます」。
例えばリビングと吹き抜けのホールの間の仕切りは、階段の90cmの高さの手すりから連続。さらに、それに連なるように障子の桟やスリット窓の高さも設定されている。細かなところのこだわりが、無駄のない空間を生んでいる。
「夫婦ともすっきりとした空間が好きなんです。北欧デザインが好きなのも、主張のない普遍的なデザインに惹かれるから。この家にも普遍的な魅力を感じます」。
S邸
設計 デザインライフ設計室
所在地 横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 111.05㎡