Architecture
狭小敷地を最大限にどこにいても心地いい
“ミルクカートン”の中の開放感
大胆な発想のプランに驚いた
「通勤に便利かどうかが大事だったので、狭くても都心がいいね、というのがふたりの一致した意見でした」。
新宿の高層ビルが間近に望めるエリアに、宮本さんご夫妻は南向きの土地を見つけて購入。
「敷地面積44㎡、北側斜線制限のある土地をどう活かしたらいいか、半年程かけて毎週打ち合わせを重ねました」。
設計を担当したのは一級建築士事務所「.8 / TENHACHI」の佐々木倫子さん。妻・直子さんとは小学校からの幼馴染で、建築士である夫・将毅さんとは大学院の同窓だったそう。
「私たちのキューピットでもあるんです(笑)。当初、出してもらった別の2社のプランはどちらも同じような図面だったのですが、彼女が出してきてくれたプランが驚きで」。
そのプランはまず、「ガレージなし、バルコニーなし、玄関なし」というもの。
「ガレージはなくてもいいし、バルコニーも、夜洗濯物を室内干しする私たちには合っていました。でも玄関なしというのは想定していませんでしたね(笑)」。
誕生したのはガルバリウム鋼板のファサードを持つ、牛乳パックのような箱型の“ミルクカートンハウス”。無駄を削ぎ落としながら、開放感と広がりが最大限に感じられる空間が、そのパックの中には広がっていた。
ロフトを2カ所設けて4層に
玄関という明確な区切りのない1階は、土足のまま入ってもいいモルタル敷きの土間。そこに、白い箱に囲まれるように水まわりが設置されている。
「壁を設けるのではなく箱にすることで、現しの天井がそのまま奥まで続いていきます。それによって連続性が生まれ、奥行きが感じられるんです」。
その白い箱の上は、なんとベッドルーム。
「建ぺい率、容積率から計算すると、ここには65㎡までしか建てられないはずなんです。そこを71㎡迄取ることができたのは、延床面積から外すことができるロフトを設けた結果です」。
1階の水まわりの上と2階のLDKの上にロフトを設け、4層の構造にすることで広さを確保。階段は1階から北側を回り込んで2階に到達する設計で、斜線にかかる空間が活かされている。
「佐々木さんは、“空間に高低差の抑揚のある方がいい”ということと、“長くいる空間に贅沢な高さがあるといい”ということを提案してくれました。だから寝るだけの寝室は天井が低いのですが、それでもセミダブルベッドを2つ置ける広さがあるので快適です」。
土間やLDKの天井高に対して、ベッドルームはコンパクトに。メリハリのある空間が、無駄なく生活にフィットする。
白、木目、グレーで空間を統一
LDKに到達すると、トップライトから落ちてくる光に包まれる。壁材のラーチ合板の木目と、キッチンや収納棚の白、光に囲まれたナチュラルで居心地のいい空間が広がっている。
「リビングが小上がりになっているのも落ち着けますね。ここでゴロゴロしている頻度が高いです(笑)。小上がり下には収納や本棚も設けてくれました」。
小上がりがあることで、キッチン台からテレビ台へと天板が同じ高さでつながる。
「完全な造作だとコストがかかるので、引出しや扉、棚板などをIKEAで揃えて、それに合わせて設計してもらいました。クッキングヒーターや水栓などもパーツを選んで、はめ込んでもらいました」。
設備もインテリアも、セレクトには佐々木さんからの指令があったそう。
「白、木、グレーの3色で統一したい、と。だからオレンジだったIDÉEのソファーはグレーに張り替え、水栓も探しまわってやっと見つけたBRIZOの白を取り付けました(笑)。でも感覚が似ているので、私たちも全面的に信頼しているんです」。
小上がりから階段をあがると第二のロフトが。ここは将毅さんが籠って過ごすことが多い場所。
「狭小住宅にもかかわらず、色んな居場所があるのがうれしいですね。どこで何をするかというのは決めていません。その時々の気分で場所を変えられて、どこにいても気持ちがいい。贅沢な空間ができたと思っています」。
宮本邸
設計 一級建築士事務所「.8 / TENHACHI」
所在地 東京都渋谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 71㎡