Architecture

広い敷地につくった2世帯住宅 階段室を中心に
いろんな居場所のある家

広い敷地につくった2世帯住宅 階段室を中心に いろんな居場所のある家

ぐるぐると回れる家があこがれ

300㎡と広い敷地に立つ安達邸。もともとは奥さんの千紘さんの実家が立っていたこの土地で千紘さんのお父さんとの2世帯住宅を建てることになったのが4年前だった。

家づくりに際し夫妻の間には「人が集まれる家」「古くなっていくのが面白い家」「かくれんぼができる家」などのイメージがあったという。設計を担当した建築家の岸本さんには、それらに加えて「子ども部屋を閉じた空間にしたくない」「敷地を生かした家にしたい」などの希望も伝えた。 

「トトロに出てくるサツキとメイの家みたいにぐるぐると回れる家があこがれだった」とも話す千紘さん。安達邸は階段を中心にしてぐるりとめぐるつくりになっている。トップライトから光の落ちるこの階段室の1階部分には階段を囲むようにお父さんの部屋と浴室などの水回り、そしてお父さんからのリクエストだった書庫がつくられている。そしてこの書庫は階段室の1階部分の壁ともなっている。

2階から見る。3階に開けられた小窓を通して階段室の様子をうかがうことができる。
2階から見る。3階に開けられた小窓を通して階段室の様子をうかがうことができる。
階段室の1階部分の2つの壁が本棚になっている。
階段室の1階部分の2つの壁が本棚になっている。

書庫と子ども部屋

「父からは最初にとにかく書庫をつくってほしいと。本が多いので最初は図書室のようなイメージだったんですが、本を中心として居場所をつくる提案をしていただいたのが面白かったですね」(千紘さん)。そして2階には、この書庫と同じように階段室に対して開かれた、いずれ子ども部屋となるスペースがつくられた。

「2世帯住宅でよくやるんですが、この安達邸でも親世帯と子世帯をつなぐつなぎ目のところに子ども(孫)の居場所をつくりました」と岸本さん。またこの2階は「1階の延長であってほしかった」ともいう。「“2階に上がった”という感じにしないことを考え始めたときから階段の仕上げや造形、プロポーションを徹底的にスタディして、2階に至るまでは大地がそのまま延長・連続していくような、地形あるいは彫塑的な造形として扱っています」

3階部分の壁に開けられた窓から見下ろす。将来子ども部屋になる2階部分はL型につくられている。2つにわけられるようスイッチも2カ所に付けられている。
3階部分の壁に開けられた窓から見下ろす。将来子ども部屋になる2階部分はL型につくられている。2つにわけられるようスイッチも2カ所に付けられている。
壁がなくオープンなつくりの子ども部屋から階段室を見る。
壁がなくオープンなつくりの子ども部屋から階段室を見る。
2階から階段室を見る。3階に上がって扉を開けるとキッチンが正面に見える。
2階から階段室を見る。3階に上がって扉を開けるとキッチンが正面に見える。

キッチンと「こもり部屋」

3階にあるキッチンは「はじめは“こもれるような感じにしたい”ってお願いしました」と千紘さん。キッチンに隣接して「こもり部屋」がつくられてこの“こもれる願望”がかなったため、実現したキッチンは完全にクローズな空間にはしなかったけれども、ひとりで集中して作業のできるスペースになったという。

「完全に仕切られているわけではないので家族と話したりしながらでも料理をつくれるけれども、床が一段下がっていて白い鉄筋の棒と吊り棚で区切られた感覚もあるので集中して作業をすることができます」

キッチンとダイニングスペース。キッチンでは冷蔵庫の収めどころがいつも問題になるが、安達邸では千紘さんの「こもり部屋」との仕切りとして機能しかつキッチンと隣りあわせにもかかわらずぐるりと迂回するために心理的な距離もつくっている。
キッチンとダイニングスペース。キッチンでは冷蔵庫の収めどころがいつも問題になるが、安達邸では千紘さんの「こもり部屋」との仕切りとして機能しかつキッチンと隣りあわせにもかかわらずぐるりと迂回するために心理的な距離もつくっている。
丸テーブルのところからキッチンを見る。天井は家形になりかつ壁との境目が柔らかくあいまいにされている。
丸テーブルのところからキッチンを見る。天井は家形になりかつ壁との境目が柔らかくあいまいにされている。
ベンチは丸テーブルのところからぐるりと手前側へとつくられている。テーブルを中心に多くの人が集まれるつくりだ。
ベンチは丸テーブルのところからぐるりと手前側へとつくられている。テーブルを中心に多くの人が集まれるつくりだ。
千紘さんのお気に入りの2畳ほどの「こもり部屋」からキッチンを見る。キッチンは周囲の床から13㎝下がっている。
千紘さんのお気に入りの2畳ほどの「こもり部屋」からキッチンを見る。キッチンは周囲の床から13㎝下がっている。
キッチン部分に立てられた白い鉄筋棒が透過性をもちつつ吊り棚とともに通路とキッチンとを仕切っている。
キッチン部分に立てられた白い鉄筋棒が透過性をもちつつ吊り棚とともに通路とキッチンとを仕切っている。

居場所がいろいろある

引っ越してきてから4カ月ほど。安達さんは3階のキッチン横から寝室のほうにまでL形にぐるりとめぐるようにつくられたベンチにいることが多いという。「日当たりに合わせてベンチの位置を移動してクッションがあれば寝転がれるというのもいいですね」。さらに「このベンチのほかにもこの家には座れる場所がすごくたくさんある。階段もそうですが居場所が厳密に決められているというのではなく、日の当たり具合だけでなく、季節や時間帯などによっても移動して、移動しながら自分のいいところを探していけるような感じになっている」と話す。お子さんが2階で遊んでいるときには階段をイスのようにして座って様子を見たりとかもしているという。

千紘さんは安達さんと同様に3階のベンチも好きだが、やはりキッチン横の「こもり部屋」がとても気に入っているという。「2人目がまだ小さいので昼間はまったく自分の時間がない。でも、夜、子どもを2人とも寝かせたあとなどにあそこに座っていると、囲まれていることで安心感がありかつ目の前に窓があって視線も抜けるので、すごく気分がいいですね」

玄関側から階段室を介して奥に浴室などの水回りスペースを見る。2階が子ども部屋。
玄関側から階段室を介して奥に浴室などの水回りスペースを見る。2階が子ども部屋。
彫塑的、あるいは地形的につくられた階段部分。手前のタイルの部分はお子さんと本を読むスペースにもなっている。
彫塑的、あるいは地形的につくられた階段部分。手前のタイルの部分はお子さんと本を読むスペースにもなっている。
トップライトから落ちる光が階段室を介して周りのスペースにも光を供給する。
トップライトから落ちる光が階段室を介して周りのスペースにも光を供給する。
浴室側から階段室を介して玄関方向を見る。
浴室側から階段室を介して玄関方向を見る。

最後に2世帯住宅にしたことについて話していただいた。「2世帯住宅ということはあまり気にならないです。とはいえ、お父さんがいるかどうかはちゃんとわかるのがいいですね」と安達さん。千紘さんは「2世帯住宅に住むのはわれわれの暮らしにとって大きな変化でした。父の部屋は父の部屋で扉を閉めれば独立して暮らしているようにもなるんですが、階段のところで子どもと一緒に遊んでくれたりするし、庭で遊んでいる時に父の部屋が見えたり声が聞こえたりとかというのもけっこう面白かったので、2世帯でもこうやって暮らすのは悪くないなと思っています」と話す。

「3世代で一緒にご飯を食べたりすることもよくある」という安達家。暮らしの変化は、不自然になることなく親世代・子世代ともにすでにしっくりとなじんできているようだった。

左の扉を開けると千紘さんのお父さんの部屋。右に玄関の引き戸が見える。
左の扉を開けると千紘さんのお父さんの部屋。右に玄関の引き戸が見える。
玄関の引き戸を閉めた状態。手前の空間は「リビングみたいな使い方にしたいと思っています」と安達さん。
玄関の引き戸を閉めた状態。手前の空間は「リビングみたいな使い方にしたいと思っています」と安達さん。
玄関の引き戸をすべて外に出した状態。「開けば外でもあり閉じれば中でもありという感じがほしいかった」という。
玄関の引き戸をすべて外に出した状態。「開けば外でもあり閉じれば中でもありという感じがほしいかった」という。
300㎡と広い敷地は旗竿地。奥に竿の部分が見える。
300㎡と広い敷地は旗竿地。奥に竿の部分が見える。
敷地に対して斜めに角度を振って四方に庭をつくっているため、誰も足を踏み入れないような「裏」の空間がない。
敷地に対して斜めに角度を振って四方に庭をつくっているため、誰も足を踏み入れないような「裏」の空間がない。

安達邸
設計 acaa
所在地 東京都杉並区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 116.4㎡