大きな家具のような小さな家梁の上も素敵にディスプレイ

大きな家具のような小さな家梁の上も
素敵にディスプレイ

「住宅そのものについてこうしたいという具体的なイメージはあまりなくて。とにかく建築作品としてちゃんと世に出せるようなものを設計者としてつくれたらいいなと」「普通の家じゃないもの、面白いものをつくろうと。世の中の人がちょっとびっくりするようなものがいいねって」

こう話すのは、寺戸夫妻。建築の構造設計者と、ファッションブランドのマーチャンダイザーのご夫婦だ。


1階は奥さんの持ち物だけを収納したスペース。水平に延びた梁上には、奥さんの帽子や靴をはじめ、さまざまな小物がきれいにディスプレイされている。

1階は奥さんの持ち物だけを収納したスペース。水平に延びた梁上には、奥さんの帽子や靴をはじめ、さまざまな小物がきれいにディスプレイされている。


壁がない

「普通の家じゃないもの」――確かに、寺戸家は「普通の家」とはとても異なる特徴あるつくりになっている。まず、部屋と部屋を仕切る壁がない。部屋を分けているのはそれぞれの部屋を絵のようにして縁どるフレームのみ。

「最初の打ち合わせの時に、壁があるのが嫌なんだよねって話をしたんです」と奥さん。「実家もそうだったんですが、ぜんぶ仕切られていてつながりを感じられないのが子供の頃から嫌で、空間がつながらないと人と人もつながらない。そんなようなことを小学生ながらに思っていた」


このままストアで使えそうなクオリティのディスプレイ。きれいに折り畳まれた服はすべて奥さんのもの。

このままストアで使えそうなクオリティのディスプレイ。きれいに折り畳まれた服はすべて奥さんのもの。

土間スペースより見る。右が奥さんのスペースで、左が寺戸さんの仕事スペース。収納を兼ねた階段を上がるとダイニング。

土間スペースより見る。右が奥さんのスペースで、左が寺戸さんの仕事スペース。収納を兼ねた階段を上がるとダイニング。

ダイニングより見る。水平に延びた梁の上には、奥さんのレコードとプレイヤーのほか、雑誌などがディスプレイされている。

ダイニングより見る。水平に延びた梁の上には、奥さんのレコードとプレイヤーのほか、雑誌などがディスプレイされている。

こちらも奥さんの服がストアのようにディスプレイされている。上下に置かれた靴や帽子がさりげなくおしゃれ。

こちらも奥さんの服がストアのようにディスプレイされている。上下に置かれた靴や帽子がさりげなくおしゃれ。


以来、長い間抱えていたこの思いを打ち合わせの際に建築家の篠崎さんに投げかけたところ、「そういうのじゃないほうのがいいんですね」と。この「壁なし」というアイデアが「普通じゃない家」のおおもとのコンセプトになるとともに、建築面積からすると避けられない空間的な狭さも大きく和らげることになった。

狭さを解消するための工夫は他にも。平面は限られた面積を有効活用するために単純に4分割されているが、計画当初は真ん中に階段室があった。しかし、そうすると残された空間がすごく狭くなってしまうので、この階段室を取っ払ってしまったのだ。そして、純粋に平面を4分割した時にできるスペースがどうつながっていくかを建築家とスタディしていったのだという。


キッチン回りもこの通り、素敵にディスプレイされている。

キッチン回りもこの通り、素敵にディスプレイされている。
 

ダイニングからキッチンを見る。

ダイニングからキッチンを見る。

ダイニングを見下ろす。どのスペースも照明は天井から吊り下げられている。

ダイニングを見下ろす。どのスペースも照明は天井から吊り下げられている。

ダイニングでの寺戸さん。その後ろがキッチンで、右の階段を上がるとリビング。

ダイニングでの寺戸さん。その後ろがキッチンで、右の階段を上がるとリビング。


梁の上もディスプレイ

この家の構造設計はもちろん寺戸さん自身で担当し、高さ方向の位置も含めて床を自由に配置できる構造システムを採用した。これによって、各部屋を絵のようにして縁どるフレームが組まれることに。すると、建築家から「こういうところにいろんなものが置けますね」と。「こういうところ」とは、フレームから水平方向に出っ張った梁部分のことだ。

奥さんは、今、あるファッションブランドを統括する立場にあるが、「売り場に入ってディスプレイとかもするので、家でもやっぱり飾りたくなって、うずうずしてしまう」という。建築家の提案は、この奥さんのキャラクターを考えてのものでもあったようだ。


リビングから見る。左のダイニングから、時計回りにキッチン、寝室と、4 分割されたすべてのスペースを見渡せる。

リビングから見る。左のダイニングから、時計回りにキッチン、寝室と、4 分割されたすべてのスペースを見渡せる。

リビングを見下ろす。床と家具との色のコンビネーションもよく考えられている。

リビングを見下ろす。床と家具との色のコンビネーションもよく考えられている。

 隣の寝室からリビングを見る。

隣の寝室からリビングを見る。

リビングとダイニングとの間のフレーム上に置かれた観葉植物。

リビングとダイニングとの間のフレーム上に置かれた観葉植物。


「そしたら案の定、楽しみながら並べ始めた(笑)」。初めは控え目に、「ここって飾っていいの?」と思いながら飾っていたが、建築家の予想を超えて多くのモノたちをディスプレイすることに。ディスプレイのクオリティは実際のストアでのものと比べても遜色のないレベル。これも建築家の「思っていた以上」だった。

「15,6年の間、今の仕事をしているのでやっぱり培ってきたものってあると思うんですね。勤め初めの頃だったらこういう風にはできなかったと思いますね」


屋根裏的なこのスペースもきれいにディスプレイ。「気に入ったものを置いて眺めるのが好き」という奥さんはここまで神経を行き届かせている。

屋根裏的なこのスペースもきれいにディスプレイ。「気に入ったものを置いて眺めるのが好き」という奥さんはここまで神経を行き届かせている。

土間から寺戸さんの仕事スペースとダイニングを見る。

土間から寺戸さんの仕事スペースとダイニングを見る。

ダイニングでの奥さんと愛犬のベス。

ダイニングでの奥さんと愛犬のベス。


寺戸さんの仕事スペース。左のディスプレイには、CADで作成した構造図面。

寺戸さんの仕事スペース。左のディスプレイ上に見えるのは、構造計算を行うための解析モデル。


新たな空間体験の場

篠崎さんはデザインを手掛けたこの寺戸邸を「大きな家具のような小さな住宅」と評したという。家を収納家具に見立てると、棚に相当する床が自由に配置できる上、それぞれの棚=床に置かれたモノたちも普通の家と比べ入れ替えも容易だ。そんなことを指しての発言かと思ったら、収納されているのはモノではなく「生活そのもの」なのだという。収納棚的な空間イメージと生活の器である家を重ね合わせての評言なのだろう。

この「家具のような家」は、収納だけでなく、もちろん新しい空間体験の場でもある――奥さんはリビングで愛犬のベスと遊ぶのが大好きで、夜などはそうして過ごすことが多いが、寺戸さんは、ダイニングで彼らの姿を見ながらくつろぐ時間帯をとても大事にしているという。

リビングまで上がらずとも、人だけでなく、犬とのつながりもしっかりと感じ取ることができる。これはまさしく「普通の家」では体験のできない、寺戸邸ならではのものだろう。


大きな家具のような小さな家  梁の上も 素敵にディスプレイ
寺戸邸
設計 篠崎弘之建築設計事務所
所在地 東京都
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 75.62 m2