Renovation
2世帯住宅に暮らす距離感がちょうどいい
思い思いのリノベーション
煙突との出会いが始まりだった
吉祥寺の賑やかな商店街から1歩入ると、そこは閑静な住宅街。以前は鍼灸院だった築20年程の3階建て鉄筋コンクリートの建物を、2世帯で暮らす戸建てにリノベーション。住人は店舗のディレクションや空間設計を手掛ける鈴木善雄さん、舞さんご家族と、舞さんのご両親の引田ターセンさん、かおりさんのご夫婦だ。
「結婚した当初は、いつか古い物件を改装して暮らせたらなと考えていましたが、義父母からいい物件があるから一緒に住まないかという話をいただいて。訪れてみると、1階に暖炉のある住宅でした。煙突のある家なんて、東京ではなかなか建てられないけれど、ここならずっと自分が憧れていた薪ストーブも設置できるだろうと」
そう語るのは、新木場で複合施設「CASICA」のディレクションを手掛ける鈴木善雄さん。1階はご両親の住居、2階はゲストルーム&作業場、3階を鈴木さんご家族の住居に。2世帯それぞれの、思い思いのリノベーションが始まった。
古家具を独自に再構築
鈴木さん家族が暮らす3階のフロアは、3LDKだった間取りを70m2ほどのワンルームに変更。荒々しい古材を敷いた床に工業的なペンダントライト、日本の古い家具などがあしらわれた空間は、おふたりが手掛ける店舗の世界観のよう。
「何風というのではなく、好きなものを選んで、縛られることなく構築したいんです。インダストリアルと和家具が合わないわけではないし、トルコのラグもあればアメリカのソファなど、国も色々とミックスしていいと思っています」。
リノベーションは、善雄さんと大工仲間達とDIYで少しずつ着手していったそう。壁づけのキッチンは、和箪笥や小引き出しなどをパズルのようにはめこんだ棚に目を奪われる。
「日本のものをどう現代的にアレンジするか、と常に考えています。畳からイスの生活になった今、和箪笥は床の上じゃなくてもいいですよね」。
斬新なアイデアの溢れる空間を彩るのは、仕事の買い付けで見つけた古道具だったり、全国を車で旅する中で出会ったものだったり。愛着のあるものたちが、素朴な素材感が活かされた空間に味わいを加える。
抜けのあるワンルームに
スケルトンにした空間に、あえて1カ所仕切りを設けたのはアトリエ。
「鉄加工ができる友人に頼んで、窓枠を作ってもらい、わざと錆びさせてガラスをはめ込みました」。現在は仕事部屋にしているが、保育園に通うお子さんがもう少し大きくなったら、いずれ子供部屋にする予定だそう。
「壁は後からいくらでも作れるので、最低限に。ベッドルームにも仕切りは設けませんでした」。
床と同じ古材を面材にして、壁一面に収納を設けたベッドルームは、サンルームからの明るい日差しで満たされる。
「ここに暮らすようになって、グリーンを育てるのも楽しくなりました」。
薪ストーブが鎮座するリビングで、家族で語らう暖かな時間も偲ばれる。
「1階には両親がいることで、一緒に食事をしたり、息子を見てくれたり、たくさんの時間を共にするようになりました。仕事の話も夫も交えて色々と話せる関係なので、いつもたくさんの刺激をもらっています」と舞さん。
北欧テイストの1階
「早期リタイア後がこんなに充実するとは思っていませんでした」。
と語るのは、舞さんのご両親、引田ターセンさんとかおりさん。人気のパン屋さんとギャラリーを営みつつ、2世帯での暮らしを楽しんでいる。140m2ある1階は、3階と打って変わって、北欧テイストで統一されたシンプルでナチュラルな空間が広がる。
「以前からおつきあいがあって、家具のデザインなどが好きだったスタンダードトレードさんにリノベーションをお願いしました」。
薄い緑の混ざった珪藻土の壁、オークの天井や家具、麻混の絨毯の敷き詰められた床。穏やかで居心地のよい空気が流れる。
「私たちが求めたのはやりすぎない、主張しないインテリア。和でも洋でもなじんで、ずっと使い続けられるテイストが好きなんです」。
人の集まる居心地のいい家に
鍼灸院だった南側のスペースは、外構の緑とルーバー状になったガラス窓から光が差し込む、明るいベッドルームに。暖炉のある広々としたLDKは、大人数でパーティーを開いたり、何人かで料理をしたりも可能な余裕のスペースを確保した。
「婿の誕生日会には40人くらい集まりましたよ。キッチンはアイランドにシンクを入れるかどうか悩みましたが、オープンなキッチン台にして正解でした。お料理を運んだりするのを、みんなが手伝ってくれるんです」。
一部分には仕切りを立てて、キッチン内すべてを見せないよう細かな計算も。
「家は私たちにとって充電をするところ。明るくて風が通って、“ああ、家に帰りたい”と思えるような快適な場所にしておきたいですね」。
その願いが結集した1階には、家族や友人たちが集まってくる。個性の違う2つのフロアのそれぞれの生活を、コンクリートの堅牢な建物が包み込んでいる。