Architecture

多くの緑とともに暮らす飽きの来ない家 ゆるやかにつながる空間と
大きな開口でのびのびと暮らす

多くの緑とともに暮らす飽きの来ない家 ゆるやかにつながる空間と 大きな開口でのびのびと暮らす

のびのびと過ごしたい

「転校させたくなかったので同じ学区内で探したんですが、5人家族の住める広さのマンションだと駅前のタワーマンションぐらいしかなくてこれがかなり高いんですね」と話すのは高井さん。それで戸建てにすることにしたが、夫婦ともに建築出身ということもあり建売りを買うつもりはまったくなく土地を探して家を建てることになった。

それで見つけた敷地を、あるプロジェクトで仕事を一緒にしたことのある建築家の久保さんにどのくらいのボリュームのものが建てられるかチェックしてもらった。

5人家族の住めるスペースが取れることが確認できたため設計はそのまま久保さんに依頼した。リクエストは一枚の要望書にまとめたが、設計者と施主との間の調整役という仕事での経験からかあまり具体的なものは書き込まずに久保さんに渡した。「いろいろあったんですが、のびのびと過ごしたいとか家族の一体感を重視したいとか。あまり家のなかで壁をつくって空間を分断したくないなというのが思いとしてはかなり強くありましたね」

リビングからキッチンとダイニングを見る。左に中庭、右奥に玄関がある。壁はすべて少し青みがかったライトグレー。
リビングからキッチンとダイニングを見る。左に中庭、右奥に玄関がある。壁はすべて少し青みがかったライトグレー。

さらに「ゆるやかにつながっている感じがいいなと。おおらかなんだけど微妙に仕切られているというか」と高井さん。

この要望を受けて高井邸は1階のLDKとその上に位置する2階の大きな子ども部屋が階段のある吹き抜けを通してゆるやかにつながっている。2階は引き戸を締めて閉じることができるが、3.0×1.5mのこの大開口を開けると「ゆるやかなつながり感」が生まれるのだ。

ダイニングの壁はそのまま同じ素材で中庭へと続く。
ダイニングの壁はそのまま同じ素材で中庭へと続く。
右の階段部分が吹き抜けになっている。
右の階段部分が吹き抜けになっている。
リビングから中庭を見る。
リビングから中庭を見る。

視線を遮りつつも開放感を得る

プライバシーの確保も強く求めたという。「前の道を人や自転車がよく通るんですけど、せっかく自分たちの家なので開放的に住みたい。それでプライベートな空間は担保しつつ開放感はほしいみたいなムチャクチャなオーダーを出しました」(高井さん)

開放性とプライバシーの確保。両立しがたいこのリクエストに対して、この家では道側からの視線が中に入ってこないように中庭を含む1階部分を壁で囲んだつくりとしている。

キッチン側から見る。LDKは左の壁に対し角度を振っているが、空間自体は矩形になっている。
キッチン側から見る。LDKは左の壁に対し角度を振っているが、空間自体は矩形になっている。

そして道からの視線が1階に入らない高さに2.4×2.4mのガラスの大開口がつくられた。これによって1階は外からの視線から守られつつ空へと視線が斜めに抜けていく。反対側の開口の外には中庭があるため面積以上の開放性が感じられる。 

この大開口には「すごいと思いつつなるほどなと感心しました」と高井さん。「多少建築をかじっているので自分たちでも何かしら考えるわけですが、外からは見えないけど中からは見えるということでは京都の格子とかあるよなとかいろいろもやもやと考えていたところで、まったく想像してなかったのがこの窓でした」

さらに「なるほどこういう解き方があるのか」と感心したのが中庭の取り方だった。「この敷地を効率よく使おうと考えると角を中庭にすると一番うまくいく。そこで部屋の形は四角のままにして外壁に対して角度を振って庭と窓に面するように配置してプランをうまく収めています」(久保さん)

左の2.4×2.4mの大開口は耐火ガラス。高井さんが設計案でいちばん気に行ったのはこの大開口という。これに斜めに相対して2階の子ども部屋に大開口が開けられている。
左の2.4×2.4mの大開口は耐火ガラス。高井さんが設計案でいちばん気に行ったのはこの大開口という。これに斜めに相対して2階の子ども部屋に大開口が開けられている。
広々とした子ども部屋。現在は長女・次女・長男の3人が使用している。左が吹き抜け、右側が中庭に面している。
広々とした子ども部屋。現在は長女・次女・長男の3人が使用している。左が吹き抜け、右側が中庭に面している。
2階の引き戸を開けた状態。
2階の引き戸を開けた状態。
戸を閉めた状態。
戸を閉めた状態。
子ども部屋の大開口から見る。階段正面の部屋は将来末っ子の男の子が使う予定という。
子ども部屋の大開口から見る。階段正面の部屋は将来末っ子の男の子が使う予定という。

ビカクシダにはまって

高井邸の中に入ると緑が家中に繁茂してるかのようなその様に驚かされるが、これは外からもよく見えて「中はどうなっているんですか」と尋ねられたり「森が育ってますね」と声をかけられることもあるという。

「奥さんのほうがもともと庭に好きな緑を植えたいというのがありました。これはほとんどがビカクシダという植物なんですが、これも彼女がこういうのがあるよと教えてくれたんですね。それを見て僕がすごく面白いなとどんどんはまってしまい今はこのような状態になっています」

まずは吹き抜けに面した2階の壁に取り付けてからどんどん増えていったという。これがふつうの住宅ではとても味わえない空気感をつくり出しているが、高井家のお子さんたちも「最近よく緑の話をしてくれます。水乾いてるよとか、これかっこいいなあとか」と高井さん。直子さんも「いちばん下の子はいっしょに見たり手伝ってくれたりする」という。

ガラスに外の風景が映り込んでいてわかりにくいが、外から見ると家の中が緑でいっぱいになっているように見える。それをバックに人が階段を上り下りするとこれがまた少し不思議な光景になる。
ガラスに外の風景が映り込んでいてわかりにくいが、外から見ると家の中が緑でいっぱいになっているように見える。それをバックに人が階段を上り下りするとこれがまた少し不思議な光景になる。
子ども部屋の外側の壁は育ったビカクシダで埋められている。高井さんはそれぞれの形、表情が違うのが面白いという。
子ども部屋の外側の壁は育ったビカクシダで埋められている。高井さんはそれぞれの形、表情が違うのが面白いという。
LDKの天井部分にも緑が吊るされている。
LDKの天井部分にも緑が吊るされている。
高井誠さんと奥さんの直子さん。家族はみなリビングに来てくつろぐという。
高井誠さんと奥さんの直子さん。家族はみなリビングに来てくつろぐという。
階段から吹き抜けを見下ろす。
階段から吹き抜けを見下ろす。
中庭にはオリーブが植えられている。その向こうの壁に開けられた開口も同じ2.4×2.4mの大きさ。
中庭にはオリーブが植えられている。その向こうの壁に開けられた開口も同じ2.4×2.4mの大きさ。

飽きの来ない家

この家での夫妻のお気に入りはリビングだが2人だけでなく子どもたちも寝るとき以外はほとんどリビングにいるという。「リビングが気持ちいいのでだいたいこのあたりに集まりますね。明るいし左右が抜けていて狭苦しい感じがまったくしないので」と直子さん。 

高井さんは「飽きない家」だという。「この家を建てるときに思ったんですが、建築家が設計した変わった家とかけっこうありますが、飽きるんじゃないかって。最初はいいけれどそういうのってすぐ終わっちゃうじゃないですか。それはいやだなと思っていて。この家は飽きが来ないというか、ちゃんと人が長く使うことを考えて設計をしていただけたのでそれがとても良かったなと思っています」

飽きの来ない家――大きな開口を通してつねに外部の変化を感じ取るだけでなく、緑も成長して日々変化してとどまらない。高井さんの感想にはそんなことも影響しているのではないかと思えた。

狭くなりまた空間のつながり感が弱まることからアイランド型のキッチンは採用しなかった。
狭くなりまた空間のつながり感が弱まることからアイランド型のキッチンは採用しなかった。
「窓がコンセプト的に強かったので、“窓と家”というような絵本に出てくる家のような単純な形のほうが面白いのかなと。壁は手仕事の風合いがある素材がいいということでモルタルになりました」(久保さん)。左の開口から外に出ているのは中庭のオリーブの枝。
「窓がコンセプト的に強かったので、“窓と家”というような絵本に出てくる家のような単純な形のほうが面白いのかなと。壁は手仕事の風合いがある素材がいいということでモルタルになりました」(久保さん)。左の開口から外に出ているのは中庭のオリーブの枝。

高井邸
設計 久保都島建築設計事務所
所在地 東京都練馬区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 85㎡