Architecture
移動のたびに風景が変わるホワイトウォールに
縁どられた暮らし
ワンフロアのように
I邸は築18年の住宅のリノベーションだ。改築前は細かく区切られて小さな部屋がたくさんある間取りだった。そこで「ワンフロアのような感じに」と建築家に依頼した。
「あと、廊下を無くしてほしいとお願いしました」と奥さん。「子どもが大きくなって外から帰ってきたときに、廊下があると顔を合わさずにそのまま自分の部屋に行ってしまうかもしれない。それがいやだったので、できるだけオープンにしてくださいと」
あえて壁を残す
「ワンフロアのように」というリクエストを受けた建築家の桐さんは、あえて既存の壁を部分的に残すという選択をして提案を行った。「壁をすべて取り払うこともできましたが、ある程度残し、その残した壁でフレームをつくって、フレームの向こうにまたフレームが見えるという構成にしました」(桐さん)。
この提案を受けた奥さんの感想は「壁をぜんぶ取ってしまったほうが広く感じられて気持ちいいのでは?」だった。そしてまた、「壁を残したほうが室内の風景の変化が楽しめる」という桐さんの説明にも「実際はどうなんだろう」と思っていたという。
しかし住んでみるとその思いは大きく変わった。桐さんが言った通り、室内をさまざまに縁どる壁/フレームのおかげで移動のたびに見える風景が刻々と変わっていく。そして「壁があることで空間が区切られている意識もあって、子どもたちも“ここらへんで遊ぼう”と。わたしも片付けなどをする時などには“だいたいこのあたり”というふうになんとなく空間を区切ることができるのがいいですね」と話す。
天井を抜く
とても低い印象があった既存の天井を取り払うという提案が出たのは最初の打ち合わせ時だった。
「天井を抜けば気積が確保できて気持ちのいい空間になるというのは予想していました。それで屋根裏をのぞいてみたら大きな気積があったので、やはり天井をはがそうということになりました」(桐さん)。
これで頭上に広々とした空間を確保することになったが、奥さんから「トップライトを付けたい」というリクエストが出されたため、視線が空まで抜けてさらに開放的な印象が強まることに。
さらに広く
縦方向だけでなく横の方向でも空間を拡張した。かつてベランダがあった部分にまで室内空間を広げたのだ。「南側の開口は羽目殺しにしたいという希望があったので、だったらサンルームではないですが室内でも洗濯物を干せるように思いきり広げてしまおう」(奥さん)ということだったらしい。
ベランダをつぶして軒先まで羽目殺しのガラス壁面を後退させた。「それによって既存のフレームの外側にもう1枚レイヤーがある状態をつくることができて、さらに空間が重層化した印象になりました」と桐さん。
奥さんはキッチンにいる時間が長いという。「子どもの様子をみながら料理ができるし、リビングにいる子どもとも会話しながら作業ができるのがとてもいいですね。あとはやはり壁や柱を残していただいたのが良かったと思います。風景の変化も楽しめるし、子どもはかくれんぼしたりとかしてこの空間を楽しんでいます」
さすがに残した壁が「かくれんぼ」に使われるとは建築家も想定していなかっただろう。しかし言われてみると、かくれんぼに適した場所がそこここにあるのに気づく。ワンフロアの空間に壁が適度に残されているというところが子どもの遊び場所として打って付けなのだろう。
設計 KIRI ARCHITECTS
所在地 東京都杉並区
構造 鉄骨造
規模 地上2階
延床面積 77.8m2