Architecture

子育てと事業を両立させる住まいとワークスペースが共存
“五感で愉しめる空間”

子育てと事業を両立させる 住まいとワークスペースが共存した “五感で愉しめる空間”
東急東横線の日吉駅から歩いて5分ほど。砂子(まなご)邸は、駅前を南北に走る大通りから少し脇に入った坂の途中にある。

この家を建てるときの大きなポイントのひとつは、奥さんが子育てをしながら事業を行えるということだったという。 

「いまワークライフバランスが話題になっていますが、その中で、子供が幼い時にその近くで働けるということと、働いている姿を子供たちに見せてあげるということは、すごく大事だと僕たちは思っていて」と砂子さん。「妻も私も自営業の子供でそういう両親を見ていたので、同じような姿を子供たちに見せたいなと」


玄関を挟んでキッチンの向かいにある〇〇。裏にある緑が開口でうまくフレーミングされている。
玄関を挟んでキッチンの向かいにあるテーブルの間。裏にある緑が開口でうまくフレーミングされている。
「キッチンにあるちょっとした段差に座ってほっとするのがいちばん落ち着く」と奥さん。
「キッチンにあるちょっとした段差に座ってほっとするのがいちばん落ち着く」と奥さん。
キッチンでの砂子一家。正面は、夕焼けが好きな夫妻のために開けられた大開口。
キッチンでの砂子一家。正面は、夕焼けが好きな夫妻のために開けられた大開口。
手前から、ダイニング、キッチン、玄関、〇〇。料理の上手な人たちが集まって月に1、2回、料理教室も開かれる。
手前から、ダイニング、キッチン、玄関、テーブルの間。料理の上手な人たちが集まって月に1、2回、料理教室も開かれる。


住まいとワークスペースの共存

事業としては、奥さんが選定したアーティストの企画展をギャラリースペースで開くほか、セミナーなどのイベントも行うという。砂子夫妻はそうした“事業を行う家”として、この家を“Casaさかのうえ”と名付けた。

家で事業を行う場合、住まいと事業スペースをはっきりと分けて、たとえば1階を事業スペース、2階を住まいの空間とするのが一般的だが、夫妻がこだわったのは、この2つを混在するようなつくりにすることだった。


2階には、石や本、カメラなど砂子さんの好きなモノが収められた棚がある。
2階には、石や本、カメラなど砂子さんの好きなモノが収められた棚がある。
全面ほとんど緑の寝室の開口。緑の隙間からは、裏の馬場にいる馬が見え隠れする。
全面ほとんど緑の寝室の開口。緑の隙間からは、裏の馬場にいる馬が見え隠れする。
単に昇り降りするためのものではなく、時に椅子やテーブルになって、いろんなアクションを誘発する階段。
単に昇り降りするためのものではなく、時に椅子やテーブルになって、いろんなアクションを誘発する階段。


30~40人が集まれる家

設計にあたっては、これに加えて、イベントを開催することから、30~40人が集まれる家にしてほしいと依頼した。そして、このリクエストに応えて建築家から出されたアイデアは、夫妻が想定していたものとは大きく異なるものだったという。

「会議室みたいな大きめの空間をイメージしていたら、いくつかの空間に分かれていながら全部つながっているというもので、それはもう驚きましたね」と砂子さん。「中庭にたとえば5人で、下のベンチに5人、この2階のスペースに10人と下のキッチンに10人。ダイニングのところも8人くらいいけますね」


砂子さんは中の間と呼ばれるこのスペースがお気に入りという。その理由は、「パソコンをしたり読書や音楽鑑賞をしながら、下で子供たちが遊んでいるのが見えたり、奥さんがキッチンで何かしてるのを感じることができるから」。ここでセミナーも行われる。
砂子さんは中の間と呼ばれるこのスペースがお気に入りという。その理由は、「パソコンをしたり読書や音楽鑑賞をしながら、下で子供たちが遊んでいるのが見えたり、奥さんがキッチンで何かしてるのを感じることができるから」。この場所でセミナーも行われる。

空間に連続性があることから、各スペースを、上の間、中の間、奥の間などと呼び、それぞれがお互いの間にあって孤立していないという意味合いを持たさせているが、この連続性をゆるく区切る境界のような仕掛けも同時にデザインされた。

それは家のそこここに設けられている段差で、境界であるとともに家具の役割をも担う。ふと腰かけた段差が椅子となるのだ。逆に言うと、ベンチのようにふと座ってしまう場所が家中にあるようなもので、これが砂子邸に、面積に比して椅子などの家具が少ないことに繋がっている。


砂子さんのオフィススペース。砂子さんは外資系金融機関の所長を務めるほか、20~30代を対象に、月1で必要なビジネススキルをテーマにして学び合い交流も行う“我楽多塾”を主宰。
砂子さんのオフィススペース。砂子さんは外資系金融機関の所長を務めるほか、20~30代を対象に、月1で必要なビジネススキルをテーマにして学び合い交流も行う“我楽多塾”を主宰。
ギャラリー。奥さんはギャラリー事業は初めてだったため、お子さんを抱えて銀座のギャラリーなど多数回ったという。
ギャラリー。奥さんはギャラリー事業は初めてだったため、お子さんを抱えて銀座のギャラリーなど多数回ったという。
ギャラリーは、住居の1空間だと、趣味部屋みたいになってしまうので、中庭に面した1階に個室として独立させた。
ギャラリーは、住居の1空間だと、趣味部屋みたいになってしまうので、中庭に面した1階に個室として独立させた。
中庭から見上げる。この家のシンボルツリーは、モミジ。白い壁面に囲まれたスペースに緑が映える。
中庭から見上げる。この家のシンボルツリーは、モミジ。白い壁面に囲まれたスペースに緑が映える。
〇〇よりギャラリーを見る。向こうに見えるのは砂子さんのオフィスの開口。
テーブルの間よりギャラリーを見る。向こうに見えるのは砂子さんのオフィスの開口。


五感で愉しめる空間

こうした空間的な特徴に加えて、“Casaさかのうえ”は、さらに“五感で愉しむことができる”という大きな特徴をもっている。このコンセプトを考えたのは奥さんで、五感というのは、アーティストの作品を鑑賞し、上質の音楽を聴きながらカフェの味と香りを楽しみ、本物に触れることができるということに由来する。

「最後の“触れる”には2つの意味があり、ひとつは作品に触れる。さらに、セミナーを通して本物に触れるということですね。講師の方はいろんな業界のトップランナーの人が来てくださるので、本物に触れて最新で最善の方法論を学ぶことができます」と奥さん。

ギャラリーでは、中村眞弥子さんの絵画展が10月に開催予定で、セミナーのほうは、第1回目の「マネーセミナー」が5月中旬に砂子さんを講師として開かれた。

住まいのスペースまで事業用にオープンにして、さらに“五感を愉しめる”という斬新なコンセプトを謳った砂子邸。これまでの家という概念をはみ出る試みの、今後が楽しみである。


砂子さんのオフィスの下にあるスペース。円形に座れるようになっている。奥には、壁柱によって切り取られた緑の風景が見える。
砂子さんのオフィスの下にあるスペース。円形に座れるようになっている。奥には、壁柱によって切り取られた緑の風景が見える。
道路側より奥にギャラリーを見る。階段を右に上がると砂子さんのオフィススペース。左に上がると砂子邸の玄関。
道路側より奥にギャラリーを見る。階段を右に上がると砂子さんのオフィススペース。左に上がると砂子邸の玄関。

砂子邸(Casaさかのうえ)
砂子邸(Casaさかのうえ)
設計 acaa建築研究所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 159.39m2



cta-732-180