Green
自然豊かな景勝地に建つ光とグリーンと空間。
ここにしかない暮らしの魅力
自ら手をかけて再生
緑濃い湯河原の山の中腹に、グレーに変色したスギの外壁に囲まれた別荘風の家が現れる。冨沢さん夫妻がここに移り住んだのは約11年前。結婚後、横浜、葉山での生活を経て辿り着いた。
「もともと東京育ちで、田舎や故郷に羨望があったんです。自然に近い場所で暮らしたいと思っていました」と眞一さん。妻の美保さんは長野育ち。「私は逆に都会に憧れがあったのですが、大変だったOL生活を経て、今はここでの暮らしを楽しんでいます」。
知り合いのインテリアショップのオーナーが持っていたショールーム兼住居だったという建物は購入当時築6年。「空き家になってから訪れた時は荒れ果てた状態で。やはり人が住んでこそ家なんだなと。でも建物と空間の持つ雰囲気、窓からの抜けの風景に惹かれ、手を加えて住もうと決めました」。
ほぼすべてが腐食していた木製の窓枠の交換に始まり、室内を隅々まで塗装し直したり、ウッドデッキを張り替えたり。大工さんなどの力を借りながら、なるべく一緒に携わることで作業を覚えていった。
「試行錯誤しながら少しずつ進めてきました。ようやく形ができてきたなと思えたのはこの3年ですね」。
試行錯誤で庭仕事を
中央の玄関を挟んで建つ建物は、サンルームに接続したダイニングキッチン、リビング、ベッドルームなどから、湯河原の山々が見晴らせる。「傾斜地に建っていて光が入ってくること、かつフラットな地面もあって造園が楽しめる、というのもここを選んだポイントでした」。
美保さんが手入れする庭は、苗から育てた植物が四季折々の美しさを見せる。育った花は摘みとって室内に。「もともと庭関連の仕事をしていたわけではありません。春夏秋冬、試行錯誤を繰り返しながら、ここの土地に適した植物を実践的に育てています。造られた美しい庭というより、ナチュラルなお庭を目指しています。土に触れることができる日々を、幸せに思います」。
庭の一画に当初からあった小屋には、ガーデニング道具や、チェンソーなどの工具を収納。「冬は煖炉を燃やしたり、庭で焚き火をしたりするので、庭の高木を庭師の方に年に一度切ってもらい、それを自分で薪にして保管しています。手をかける労力を惜しまず、できるだけ自然のものを使って生活したいと思っています」。
日常を旅のように楽しむ
大きな開口部に、土足で入るテラコッタ敷きのダイニングキッチン。別荘のように開放感のある造りは、周りの自然との一体感が感じられる。窓から広がる緑の景観に心から癒されるよう。
「屋上のテラスからの遮るもののない眺望も好きですが、バスルーム前の窓からの景色も好きですね。お風呂あがりに、ソファーに座って外を眺めると、ピクチャーウインドウのように景色が切り取られてきれいです」。そのバスルームは大理石でできていて、さらにお湯は温泉。「温泉好きで色々なお湯に入ってきましたが、毎日100%天然の掛け流し温泉に入っているので、温泉の質の違いがわかるようになりました。ここは加水しているなとか、pHはどのくらいだなとか」。やわらかで肌に滑らかな湯河原のお湯は毎日入るには最高なのだという。
「ランチはサンルームでとることが多いです。夕方は屋上のテラスにテーブルを出して、夕日が落ちるのを眺めながら夕食をとることもあります」。
そんな贅沢な時間の過ごし方は、旅好きであるおふたりのライフスタイルと切り離せない。タンザニア、モロッコ、インド、スリランカ、エジプト…。洋書で見つけたインテリアの素敵なホテルに泊まりたくて、エキゾチシズムあふれる国々を旅して回った。「アフリカではサファリのホテルに泊まったり、エジプトではオアシスのホテルに泊まったり。そういう所では、サバンナや砂漠の真ん中に自分たちのためだけにディナーのテーブルをセットしてくれるんです。星空の下、ランタンやキャンドルを灯して。高級だけど華美ではない、シンプルでナチュラルな贅沢が好きです」。
今だからこそできる暮らしを
旅先で見たインテリアも家のあちこちに活かされている。「ホテルに敷いてあったラグが素敵で、どこで売っているか聞いて買いに行ったこともあります。田舎の町中の本当に普通のマーケットに埃だらけで山積みされて売っていたりするんですよ。高いか安いかでモノの価値をはかるのではなく、自分の感性に合うものを発掘できるようになりたいですね」。各地で買い集めたインテリア小物を活かしたディスプレイが旅の余韻を感じさせる。
ここに越して11年目。眞一さんは引っ越し後3年ほど続けていた新幹線通勤をやめ、現在はハウススタジオとして家を貸し出している。「家のメンテナンスが中心の暮らしです。基本的には力仕事で、重労働。でもとても当たり前で健康的な生活だと思いますね」。
朝は5時半に起きて、お茶を飲みながら事務仕事を片付け、坂道をジョギング、温泉に入って朝食。午前と午後は晴れれば外、雨なら室内での仕事に精を出す。
「田舎暮らしは当然不便ですし、肉体的に大変なことも多いですが、今だからこそできると思っています。リタイア後よりむしろ30代、40代におすすめしたいですね」。