Green
離れと庭のある暮らし豊かな緑に囲まれた
世田谷モダンライフ
「嫌いというか、正確に言うと、この歳になって、かつ主婦で家にいる時間が長くなると、やはり木の温もりとか、布の暖かさとか、そういうものがまったくない生活はちょっと考えられなくなってしまって…」
こんなやり取りの後、「そこで、実は間を取ったのが今のこのかたちなんです」と奥さん。この家のインテリアの特徴でもある、白い壁に木の細いラインが走るデザインだ。
モダンデザインへの思いとロスでの暮らし
ご主人の発言は単に素材の好き嫌いからのものではなく、そのベースには長い間培ってきたモダンデザインに対する思いがあった。
「母がデザイン関係の仕事をしていたので、子供の頃から建築やインテリアの写真集を結構見せられて、装飾は少ない方が美しいんだって繰り返し言われました。その影響もあって、やはりデコラティブなものよりはシンプルなものが好きだし、プロポーションの美しさもとても大事だと思っています」
アメリカでの暮らしはまた、この家を建てることのきっかけのひとつともなった。
「上の子が小学校に入ったぐらい、下の子が幼稚園半ばぐらいで、大きな家で楽しく暮らしていました。日本で以前住んでいたのが今隣りの敷地に立っている家で、帰国したらまたそこに住むつもりだったんですが、子供に日本に帰るよって言ったら帰りたくないと。あの小さい家に戻りたくないって言われたんです」
ご主人は建て替え前にあった大きな家で生まれ育ったので、お子さんの発したその一言がすごく心に響いたという。「子どもが2人になって手狭だということもあって、すべてを解決するには建て替えるしかないと」。
離れのある暮らし
建て替えられたお宅にはテラスと半地下の廊下を介してつながる離れもつくられた。これは建築家の末光さんのアイデアだった。
敷地の周囲にある緑と離れでいい感じで囲い込んであげると、プライバシーが守られ、かつ、庭に向けて開放的なつくりにできる。また、離れとの距離を取ることで、森の中の別荘に行くような感覚があるんじゃないか。そしてそれはこの家での暮らしを豊かにしてくれるんじゃないか、そう末光さんは考えたという。
でも、この離れとともに、ちょっと長めの廊下ができてそこからも庭が眺められるというのを聞いた時に、「なんか楽しそうというか美しそうだなと、そんな感じがしました」とご主人。
離れをつくって、ふつうの一軒家にはないような移動を楽しむ家となった。「下からも行けるし外からも上がれるし勝手口からも上がれる。移動の経路によって庭がほんとにいろんな視点から見れる。その楽しさをすごく感じています」とご主人。離れをつくってどういう生活になるのか住むまで不安だったという奥さんも、いまは「移動するのが楽しいから、知らないうちに家の中をかなりな距離動いてしまっている」という。
グリーンって大切
このお宅では家に劣らず庭もとても魅力的だ。庭への思いは奥さんのほうが強かったようだ。「本当にベタなんですが、ハーブガーデンをやられてるターシャ・テューダーさんやベニシアさんの大ファンだったんですね。もちろん彼女たちは思いっきり手をかけてるんですが、ああいうものがあそこまで手をかけずにできないかなと思って」。
デザインはガーデニングデザイナーの江田俊子さんにお願いした。一見、自然のままのようでいてじっくりと考えてつくり込まれた庭というのが素人にも伝わる。こういうお庭になって大満足ではないですかと奥さんに聞いてみた。
「そうですね。毎日こんなにも庭が目に入ってくるのは家ができるまでわからなかったんですが、朝起きてLDKのブラインドを開けて最初に目に入るのがお庭だったり、寝る前も最後に玄関の電気を消すときに見えるのが夜のお庭だったりと、今の私の生活の中ですごく大きい存在ですね。水をあげる時間も長いし、雑草を抜いたりするのも大変ですが、思ったより自分がグリーンが好きなのにも気がつきました。ぐんぐん成長する姿や虫が草花に止まっている姿を見たりすると、やっぱり人にとってグリーンってすごい大切なんだなって改めて実感します」
ビアガーデンもやってみたい
「朝、子供たちとテラスで朝食をとることが度々あるんですが、それはもう子供たちが大喜びで。本当にいつもの食パンと目玉焼きだけでもすごいハッピーな気持ちになってしまう」と奥さん。
これほどの庭であれば、テラスでのティーパーティーも楽しいだろう。「先週はじめてお友達をお呼びしたんですけれども、本当に病みつきになりそうな感じですね」。
「通りからは見えない庭がここに広がっているのにみなさんまず驚かれるんですね、えー、すごいね!って。だからまず話題にされるのが緑、お庭のことで、あとはこのLDKの空間。2階に上がってもわーっていう感じで、皆さん喜んでくださってる」。
「今年は引っ越したばかりでできてないんですが、来年はビアガーデンくらいやっちゃおうかなあなんて思っています」と楽しげに話す奥さんに、ご主人が付け加えた。「うちは2人ともお酒は飲まないんですが(笑)」。
設計 末光弘和 + 末光陽子
/SUEP
所在地 東京都世田谷区
構造 木造+RC造
規模 地上2階地下1階
延床面積 203.99m2