「このリビングのスペースは大好きですね。日を浴びながら犬とこうやって過ごしているとすごい幸せだなぁ~って感じます」。こう語るのは、丸山公世さん。千駄木の3.6×17.8mの敷地に立つ家で、お母様と娘さんの3人で暮らしている。
建物は敷地とほぼ同じ3.3×16mという奥に細長く延びる形をしている。周りに家が建て込んでいるため、元々ここにあった家は薄暗く、ほとんどの部屋が昼間から電気をつける必要があったという。建築家には、真ん中に中庭をつくるなどしてできるだけ光を採り入れるようリクエストしたが、試行錯誤の結果、中庭はやめて2階の吹き抜け部分の南北面に大開口のハイサイドライトをつくることに。
ほんとに自分の家?
拭くのは大変だが、この窓の大きさと天井の高さがすごく気にいっているという公世さん。「とにかく気持ちが良くて、引き渡しの日に娘と2人で、“これ、ほんとに自分の家?”というぐらいに感動してしまって」
あまりにもテンションが上がってしまい、引っ越し当初はホテルで出るような朝食を用意したというエピソードからもその高揚ぶりが伝わる。
中庭案は、1階まで明るくなるようにと考えられたものだったが、設計の途中まであったその中庭の役割は、リビング後方にある階段が果たしている。ハイサイドライトから採り入れられた光がまっ白の階段空間を下りていって1階まで十分な明るさをもたらしている。踏み面をエキスパンドメタルにしたのは光を透過させてより多くの光を届けるためだそうだ。
ほかにリビングの床材やキッチン周りのことなど、2階部分に関しては公世さんが主に建築家に要望を伝え打ち合わせを重ねたが、1階はこの家の竣工直前に病気で亡くなられた夫の哲司さんが担当したという。
フィギュアと昭和レトロ
哲司さんはTVや映画の人気キャラクターのフィギュアのコレクターだった。「元は円谷プロのウルトラQやウルトラマンシリーズものを集めていたんですが、そのうち『スターウォーズ』やら『猿の惑星』やらと拡がって増えていったんです」
コレクションには、ウルトラシリーズのほかに、タイガーマスクやマグマ大使、鉄人28号等々、懐かしい名前が並ぶが、夫妻が小学校くらいまでに観たTV番組が主体となっているという。
以前に住んでいた梅ヶ丘の家のリビングはこれらのフィギュアに囲まれていたが、新築する家のリビングにはフィギュアを入れないと決めていたので、1階部分の設計では、お母様が営まれている床屋さんのスペースになるべくたくさんのフィギュアが置けるようにするというのがポイントだったという。
コレクションのレイアウトを考えながら採用されたのが、約5.5mある壁の長さを生かして長い棚を設置しそこにフィギュアを並べるという案だった。これならばたくさんのフィギュアを並べられ、かつ、フィギュアをじっくりと見て楽しむこともできる。
コレクションのレイアウトと同時に哲司さんがこだわったのは、このスペースを昭和レトロな雰囲気でまとめることだった。昭和にこだわったのは、“谷根千”の街のもつ昭和の雰囲気に触発されてという。
そのため、照明や収納などに昭和レトロ風なデザインのものが採用されているが、1階の店舗部分で、どこか懐かしさの漂う独特な空気感がつくり出されているのは、もちろん、タイガーマスクや鉄腕アトムといった昭和の人気キャラクターたちの存在も大きいだろう。
1階、2階と、家族のそれぞれの思いが込められて建てられたこの家。公世さんは、以前とは打って変わり明るく広くなったここでの生活では、気持ちが自然に前向きになる、と語ってくれた。
「家によって自分自身が変わっていくこともあると思うんですね。生活とともに自分の体が家にフィットしていく…その通りだなって実感しています」
丸山邸
設計 ikmo
所在地 東京都文京区
構造 木造
規模 2階
延床面積 107.22m2