Design

ミラノサローネ 2012 – 3 – ベストインスタレーションに選出
テーマは「光合成」

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パナソニックは、ミラノサローネの期間中、ミラノ大学の中庭で、「Photosynthesis −光合成」をテーマとしたインスタレーション作品の展示を行い、「Elita Design Awards」のグランプリを受賞した。同賞は、ミラノサローネ開催中に、ミラノ市内の約500 会場で展示されたインスタレーションの中から選ばれて与えられるものだ。

ミラノ大学の、アーチの連なる美しい回廊のある中庭に設置されたこの作品の設計を担当した平田晃久建築設計事務所の平田晃久氏にお話をうかがった。

この作品はどういうものなのでしょうか。

「パナソニックは今年のミラノサローネでは新路線を打ち出してエネルギーマネージメントという概念を前面に出しています。今回の作品では、太陽光パネルの技術と省エネ照明の技術、蓄電池の技術の3つをマネージメントするというもので、個別の製品を越えてそれらの結びつきをどのように見せるかというプレゼンテーションが求められました。

僕がまず思ったのは、それは1本の木の中で起こっていることに近いんじゃないかと。LEDや有機ELの省エネ照明が花、太陽光パネルが葉っぱで、蓄電池が実のようなものではないか。また、自然界では植物が太陽エネルギーを動物が使えるかたちへと変えたところからエネルギー循環が行われていますね。そうしたものがこのエネルギーマネージメントと関係するんじゃないかなと。そこで、それをインスタレーションの空間として見せるということになりました。

会場はミラノ大学の中庭です。この庭の真ん中に太陽光パネルでできた1本の木のようなパヴィリオンをつくって発電し、その電気で回廊沿いに散りばめたLEDや有機ELの照明を灯す。エネルギーをつくって貯め、それを使うというのが総合的な場として経験されるわけですね」。


樹のイメージでつくられたインスタレーション。(以下の写真すべて、撮影= Santi Caleca、記事トップの写真の撮影=太田拓実)


パネル配置のルールをつくる

一見、ランダムにパネルが配置されているようにも見えますが、この配置や角度はどのように決めたのですか。
 
「それが設計での中心的な作業になりました。太陽光パネルは一般的には地面や屋根に敷き詰められます。これが植物で芝や苔にあたるとしたら、木の葉や枝のように、空中に立体的に分散するようなかたちで太陽光パネルを配置するというのはあるんじゃないかと。

それを最初に決めて、では、各パネルをどの方向に向かせるのか。ピラミッドのような正四面体の各面にパネルを張りつけることを想定すると、少なくとも空中で4つとも違う方向を向いた面がつくれる。最初のスタディでは、さらに、この四面体からいらないところを取って、切頂正四面体という、サッカーボールみたいなユニットをつくって、それをつなげていきました。この場合、ひとつの面が別の面に影を落とす率が高いというのが分かったので、少し工夫して影を落としにくい配置にしています。

次に、それをどういうふうに単純につくるかを考えました。ポリカーボネイトという透明な板を少し切って部分的にエッジを曲げてつくったものを組み合わせてユニットの形にした。このユニットは反復したときにちょっとずつ違う方向を向くので、集まると有機的な形態になります」


一見、ランダムに見えるパネルの配置は幾何学と採光シミュレーションから決められている。


採光シミュレーション

パネルの角度の違いによる、効率性などのシミュレーションはされたのですか。

「まず、使用した太陽光パネルは両面発電というタイプで両側から採光できるもので、パネルの間の目地のところはぜんぶ透けています。これでシミュレーションを行ってみたら、パネルを真南に向けて並べた場合と比べても80%くらいでした。

植物の世界でも進化の中で生き残ってきているわけだから、木のような3Dな配置の可能性、進化の方向性はあるんじゃないか。今の太陽光パネルの製品では多少効率は落ちるかもしれないけど、これから先10年20年先を考えたときに太陽光パネルそのもののあり方も変わっていくだろうし、イメージの方向性としては、植物にたとえて立体化していくこともあるんじゃないかなと思っています」

見え方などで現地で調整した部分はありますか。 

「すでに設計時に、形態的バランスや構造力学的なバランスもある程度考慮しているので、現地での細かい調整はあまりしていません。全体は16ユニットで出来ていますが、基本的には日本でつくったものを組み立てただけです。ぜんぶ同じ部品で出来ているので、ほとんど動かすことができない。有無を言わさない感じですね」


庭と回廊に灯る照明は、岡安泉氏との共同設計。


「3.11 後」のかたち

現地ではどんな反応が多かったですか。

「シミュレーションがどうとかいった話があるのかと思っていたんですが、それよりも、エネルギーのイメージがきれいな空間として実現していることに素直に感動して見てくれた。イタリアでは、3.11の後に当時首相だったベルルスコーニが原発を再稼働しようとしましたが、国民投票で反対票が9割を超えて断念しました。そうした経緯があったので、原発とかエネルギーの問題に関してイタリアは非常に関心が高い。日本が3.11の後にどういうものを出してくるのか、そういった関心もけっこうあったんじゃないかと思いますね」