Renovation
平屋の民家をリフォーム家族や自然と調和する
ゆるやかな生活
共に成長し合える場に
自然の恵み豊かな葉山の住宅街。樹木のアーチをくぐり抜けると、その向こうにスケルトンのモダンな一軒家が現れる。
「妻が家の前の緑のアーチをひと目で気に入って、ここを選んだんです」
家主は“食とデザインとアート”をテーマに、夫婦でケータリングやレシピ開発の仕事に携わる堀出隼さん。築約50年の平屋の物件をリフォームし、住居兼アトリエを誕生させた。
「もともとはこの辺りの典型的な日本家屋だったのですが、骨組みだけ残してフルリフォームしてもらいました。コンセプトは“Class”です。ふたりの子供がいるのですが、親として躾はするけど自分たちも子供から学ぶこともある。だから家は家族がクラスメートのように共存し合える場所であってほしいと思ったんです。“Class”には“暮らす”という意味も掛け合わせているのですが」
キッチンは理科室、アトリエは工作室、リビングは子供たちが過ごす教室。そんなイメージで、家族みんなが楽しく共に学べる空間を考えていった。
生活が絵になるフレームの構造
「境界線はあまり持たせずに、部屋と部屋がゆるくつながっている空間にしたいと思いました。だから壁などで仕切らず大空間をワンルームのようにして、何となく分けてもらうようにリクエストしました」
その思いを実際に形作っていったのが、妻・美沙さんの知り合いでもあった設計士の渡辺泰敏さん。奥のベッドルーム以外、リビング、ダイニング、キッチン、アトリエがひとつになった天井まで吹き抜けの空間には、オープンな雰囲気が漂う。
「料理をするので床が汚れてもいいように、玄関は土間風にしました。ここで適当に靴を脱いであがれるようなゆるい感じです。間仕切りはなくても床に段差がつけられているので、これだけで気持ちの切り替えもつけらます」
渡辺さんの提案は、生活をワンシーンのように切り取る設計。
「アトリエとキッチンをフレームで囲って、日常のシーンを切り取るというアイデアです。このフレームは耐震にも活かされています」
リビング側から見て、大きな長方形の木枠で囲まれた空間は、左側に隼さんのアトリエ、右側に美沙さんのキッチン。それぞれがそれぞれの仕事にあたる姿が、1枚の絵のように印象づけられる。
「自分のアイデアを妻に伝えたり、妻が作る料理の味見をしたり、仕事上のやり取りが必要なときは中央のスペースに集まって話し合っています。同時に、仕事をしながらリビングで遊んでいる子供たちを見ることもできるし、以前と比べてコミュニケーションが取りやすく、色々なことがスムーズにできるようになりましたね」
仕事も家事もはかどるキッチン
仕事場でもあり、家族の食を支える場でもあるキッチンには、美沙さんの希望が反映された。
「洗い物をしながら子供が見られるよう、シンクはリビングダイニング向きにしてもらいました。冷蔵庫は家庭用と仕事用のふたつを入れてもらいましたが、家庭用冷蔵庫が見えると生活感が出てしまうので、隠すように仕切りを設けてもらいました」
柱のように見える黒い仕切りは黒板になっていて、料理をしながら気づいたアイデアをメモしたりするのに役立っている。業務用のコンロや作業台、調理器具が充実したキッチンはクリーンで男前な雰囲気。仕事上たくさん揃える食器類も、すっきり収まるよう作り付けの棚を設置した。1回に200人分くらいの料理を作る美沙さんにとって、効率的で居心地のいいキッチンとなった。
戸外も生活の一部と考える
境界線のないゆるやかな造りは、家と外とのつながりにも現れている。リビングからモルタルでフラットにつながるテラスは、駐車スペースでもあり、庭でもあり、アウトドアリビングでもある。
「外を外として考えるのではなく、自然との調和を楽しみたいと思っています。戸は開け放っていることが多いですし、天気のいい日はテーブルを出して、外で食事をすることもしょっちゅうです。夏は屋根から竹をかけて流しそうめんをしたりするのが、子供たちも大好きですね」
家の裏手には緑が美しい山々を望むこともできる。自然豊かな環境の中、子供たちはのびのびと、堀出夫妻は仕事も子育ても楽しく、充実した毎日を送っている。
「ここに来て、1日の太陽の動きや空気の流れを感じるようになりました。夜7時くらいになると辺りはもう静かになって、自然の中で生活していることを実感しますね。引っ越してきてから、地元の友人もたくさんできて交友関係が深まり、それがまた仕事につながったり。色んなことが広がってきて、とても良かったと思っています」