Architecture
動線が各部屋をループ状につなぐ5人家族が
いい距離感で暮らせる家
5人家族のための家
「前はこの近所のマンションに住んでいたんですが、夫婦と子ども3人の5人家族だと分譲型マンションのつくりでは間取り的に住みづらい印象がものすごくあって」と話すのは田中さん。「でも戸建てであれば、狭い土地でも5人家族が住みやすい家ができるはず」と考えたという。
設計は友人のつてで吉田州一郎・あい夫妻が主宰するアキチアーキテクツに依頼。彼らの自邸兼事務所のYY house・office・kitchenを訪れた時に「狭い敷地ながら空間を縦方向にうまく使っていて快適な感じ」を受けたという。妻のマミさんも「たまたまですが敷地がほぼ同じ規模でこんなに広く住めるのかと思った」とその時の印象を話す。
個室をたくさんつくる
「マンションのときは5人の行動範囲が一緒で窮屈に感じていた」とマミさん。田中さんは「そうした中で個別の部屋をたくさんつくりたいという思いが出てきました」と話す。
吉田あいさんは「今は、空間を開いたつくりにするのが主流ですが、家族それぞれの性格も違うわけだし、そういう流れに反してやはり個室や自分の居場所がほしいというのもわかる。田中さんからのリクエストを聞いて、個室をたくさんつくるというのも面白いなと思いましたね」と話す。
ループ状につなげる
結果的に個室空間を6つ設けることになった田中邸。特徴となっているのは全体が回遊できるつくりになっていることだ。「個室をつくったときに5人家族がどういう距離感で過ごしていくのか、どういうふうにつながるかを考えていったら動線がどんどんループ状になっていった」と吉田州一郎さん。
そして「家族が集まるメインの場所も大きなテーマになった」とも話す。そうして家族みんなが集まれるダイニングがループ状の動線で各個室につながるつくりになった。
ループ状の構成と同時に階段での上下動の移動もテーマになった。「5人家族の距離感みたいなものを立体化して断面で切るとどうなるのか、そのような感覚でつくっていった」と州一郎さん。
あいさんはまたこう話す。「敷地面積が限られているので人と人との距離感はほぼ決まっていますが、そのなかで動線を長くしただけでも心理的には少し距離ができる。部屋同士は実は近いけれどちょっと遠くに感じさせることもできるわけですね。そうすることで家族が変化し、またいろんなものが変わってくる。そんな中でそれぞれが幸せというか心地良くなればいいなというのも田中さんたちとの打ち合わせの中で話題になりました」
この家に越してきてから2カ月経つ田中一家。4月には家の向かいに立つサクラが咲き、素晴らしい風景が窓に広がるだろう。
それも楽しみにしているという田中さん。サクラの季節には特等席になるであろう2階道路側の階段についてこんなことを話してくれた。「この階段が思っていた以上にいろいろ使える階段だというのがわかってきました。前に進むごとに外の風景が変わるということもそうですが、家族との会話も階段のどこにいるかで変化するので、その都度自分に心地のいい距離感を選ぶことができるのがいいですね」。家族との距離感が大きなテーマだった田中邸。この階段もそれにうまく応えているように思われた。
田中邸
設計 アキチアーキテクツ
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 89.23㎡