Style of Life
シンプルで合理的心豊かに暮らす
ドイツ式の住まい方
人を包み込む温かな家
ドイツ人の母を持ち、ドイツを初め海外での生活経験も豊富な門倉多仁亜さん。「タニアのドイツ式部屋づくり」などの著書で、その経験の中で培ってきた家へのこだわりと思いを紹介している。
「私自身が家に求めるものは、ただ心地のいい空間であることですね。ピカピカにしていないといけないような家は、ショールームにいる感じで落ち着きません。はき慣れたジーンズのように、くたびれても味のある家に暮らしていたいと思います」
それはドイツ人の住まいへの考え方と共通する。
「冬が長いドイツでは暮らしを大切にします。でもみんな自然体で、見栄をはるのが嫌いな国民性。ブランドものや流行りを追いかけることはせず、楽で心地がよいことを求めます。家に友人を呼んでも、ドアを開けて何もかも見せてしまう、そういう気安さがありますね」
寒さが厳しいせいか、家は人を包み込む洞窟のようなイメージ。みんなが座ってリラックスできる空間が好まれるという。ドイツ語で言うgemütlichな家が、門倉さんが求める家でもある。
経年の味わいを活かす
都内で夫と暮らす門倉さんの自宅は、ドイツ式を継承する、シンプルでありながら温かさのある空間。リビングには、アンティークの和箪笥に、アメリカで購入したソファーセットが置かれ、ゴージャス感がありながらもアットホームな雰囲気だ。
「味のあるもの、傷がついてもそれが魅力的に感じられるものが好きなので、家具は骨董屋さんで探すことが多いですね。ダイニングのテーブルは20年程前コンランショップで買いました。天板が亜鉛なので“傷がつくけどいいですか?”と聞かれたのですが、私は逆にそれが良かったんです。テーブルに似合う椅子もずっと探していたのでいすが、やっと見つけました」
気に入るものが見つかるまで妥協はしない。好きなものばかりで統一した空間は、すっきりと片付けられている。
「自分にとって何が大事で何が必要ないか、見極めて整理していくことが、心地よく暮らすことでもあります。私も余計なものは持たないようにしています。気持ちよく暮らすには、ものを買うのと同じくらい捨てることにもエネルギーを使わないといけないと思いますね」
清潔感が必須条件
門倉さんはすべてのものに収納場所を決めている。何でもファイルをしてしまっておくのは、ドイツ流の方法だとか。
「ファイリングといってもあまり細かく分けるつもりはないんです。だいたい仕分けられていればOKです。日本人である夫は書類などが見えるところにないと不安で、ファイリング嫌いなんですね。そこでドア裏に取りつけたボードに貼ってもらうようにして、少し隠れるように工夫しました。ふたりの妥協点です(笑)」
ドイツには、“人生の半分は整理整頓”ということわざがあるという。整理整頓さえしていれば、余計な時間を使わないので仕事でも成功できる、という意味なのだが、合理的で無駄がないことがいかに大切に考えられているかが伺える。
「清潔にしておくことも大事です。特にクリーンにしておきたいのはベッドルーム。我が家は2台のシングルベッド以外、家具も何もありませんが、ものを置いているとほこりがたまるのが気になるからなんです。眠る場所の空気は特に大切で、清潔にしていなければいけない、と思うんです」
掛け布団は毎朝ふたつに折り畳んで上に毛布をかける。ドイツ風のベッドメイキングがなされた寝室は、清潔感にあふれている。
家の仕上げは絵を飾ること
無駄なものがない空間とはいっても、そこに自分の感性を活かした飾り付けを楽しむのもドイツ流。生花や絵、フォトフレームなどがシンプルな空間を華やかに彩っている。
「母からよく“家は絵を飾って完成する”と言われていました。家を建てたらまずは家具、次に照明、そして最後に考えるのが絵です。私は迷わず壁にも穴を開けてしまいます。絵を飾れない家なんて誰も住みたくないと言ってもいいですね」
ドイツの古い植物図鑑を切り抜いたものや、代々の先祖の写真。それらを100円ショップで購入したフォトフレームに飾る。廉価なものも、その配置の仕方でセンスよく見えてしまう。
「自然を身近に感じられることも、大切に考えています。ドイツ人はあまり都会暮らしを望まず、家のまわりの環境をとても重視するんです。私自身もそうありたいのですが、東京に住んでいると自然を感じることは難しいので、できるだけ植物などを生活の中で取り入れるようにしています」
自然の豊かな別宅
5年前、門倉さんは夫の故郷である鹿児島に家を建てた。月1回訪れるその家では、田舎ののんびりとした自然を楽しんでいる。
「家を建てるにあたっては、まわりの景観にいかになじむか、がテーマでした。まわりは昔ながらの住宅街で、瓦屋根に杉ばりの家ばかり。そこにプロバンス風を持ってきても変だと思いました。日本では家に関しては個性を出したがるようですが、ドイツでは街の景観に合わせることが大切なんです。法律にさえなっています」
周囲の家と同じように、木に囲まれたその家は、和とモダンが融合したスタイル。
「家の中も和風にしようかと思ったのですが、ライフスタイルを考えてやはり洋風にしました。ドイツらしさと言えば、玄関に下駄箱を置かなかったこと。向こうは玄関にコート掛けしかないんですね。私も玄関まわりは特にすっきりさせておきたいと思い、靴とコートのクローゼットをつくりました」
訪れる度に家の掃除と整理整頓を欠かさない。湿気や暑さもあまり感じられない、風通しのよい家での暮らしが心身のリフレッシュとなっている。
「寝室のドアを開けると庭、という環境はとても贅沢でリゾートの気分ですね。庭に咲く花や義理の姉の畑で採れる野菜、近所の行事などからも季節を感じることができ、東京とは違う幸せを感じています。メンテナンスの面で大変なこともあるのですが、合理的に暮らすにはどうしたらいいか、少しずつ考えていきたいと思います」