Style of Life
蔵の町に住む川越にほれ込んでつくった
格子戸と土間のある家
川越に惹かれて
川越に住みたかったという太田さん。川越は蔵造りの町並みが美しく多くの観光客を引きつけているが、蔵のほかにも惹かれたところがあるという。
「路地が入り組んでいて、神社仏閣などをはじめ、こんなところにこんなものがあるのかとけっこう驚かされるんですね。それで、年を取ってからでも路地をゆっくり巡りながら散歩を楽しめるかなというのもありましたね」
東西に細長い敷地
「川越の雰囲気に合ったものにしたい」と思って購入したのは、それまでの2年を単身赴任で過ごしていた土地だった。しかし、道路に面しているものの、東西に細長く、三方を家に囲まれていた。
「南北を挟まれていて、光をどうやって入れるかという問題がまずありました。あと風をどうやって抜けるようにするかも課題でしたね」(太田さん)。家づくりではまた、周りの家が接近しているためプライバシーの確保も考慮することに。
さらに、間取りでは夫婦それぞれの場所を確保し、小さめの面積に抑えたその2つの部屋を全体のボリュームにかみ合わせるようなかたちで設計は進められた。
居心地のいい2階
そうしてできた太田邸の2階は、和室と奥さんの個室に挟まれてダイニングキッチンのスペースがつくられた。4.1mと天井を高く取ったそのスペースの南側にはハイサイドライトが設けられ、室内に十分な光を導き入れている。
幅3.2mだが、天井が高いうえに、東西方向に並んだ3室の高さがそれぞれ異なって変化がつけられていることもあり、狭さを感じさせない。白を基調とした空間にロフト部分のブラックがアクセントになって利いているが、このブラックは蔵をイメージして建築家が採用したものという。
ロフトを活用
このロフト、太田家の子どもたち(娘・息子)が来た時に、息子さんが泊まれる場所として用意されたものというが、今はそれ以上に活用されている。
「ダイニングキッチンは最初から、“居心地良く”という要望を出し、その通りにつくってもらったんですが、住んでみて、意外とロフトの居心地がいいということを発見して」と奥さん。「友達が来たときはロフトが完全に応接間になって、みんなで上がるともう出てこれないみたいな感じ」になるという。低い天井が落ち着いた雰囲気をもたらし、また、和室とDK側の二方が空いているので窮屈さも感じないようだ。
川越らしさを出す
太田さんが望んだ「川越らしさ」がいちばん表れているのは外観と1階部分だが、これらには奥さんの意見も取り入れられている。
「わたしはプライバシーの確保も大事だけど、全部覆ってしまうのは嫌だと言っていたんですね。ある程度オープンな部分がほしいと。実家が商店だったこともあり、家の前面が大きく開いていて、そこから出入りするようなイメージがいいとも伝えました」
「僕らは、そういうことであればある程度オープンなつくりにしたほうがいいだろうと。京都の町家と同じように格子戸を入ると土間になっている。そして、道路とエントランス部分が生活の一番の拠点のスペースであるDKとちょうどいい距離になるように調整しました」(K+Sアーキテクツの鹿嶌さん)
鹿嶌さんはエントランスから土間の部分まで半パブリック的な面を持たせたというが、そのエントランス部分にはベンチが造り付けられている。よく座りに来る子供もいるというこのベンチが、格子が特徴的な外観と相俟って「どうぞいらっしゃい」というような雰囲気をつくり出している。
太田さんが希望した通り、川越という町の雰囲気に合っているだけでなく、町へと深くとけ込んでいるのである。
設計 鹿嶌信哉+佐藤文/K+Sアーキテクツ
所在地 埼玉県川越市
構造 木造
規模 地上2階+ロフト
延床面積 66.87m2