Outdoor
食べることが好き、人が好き夢は広がる
小さなカフェハウス
建坪9坪に住居兼カフェを
茅ヶ崎駅から海に向かって歩くこと10分。大通りから一本入った静かな住宅街の一角に、カフェを兼ねた和田隆寿さん・紀子さん夫妻の住まいがある。3色のガルバリウム鋼板をモザイク状に組み合わせた外観が異彩を放ち、すぐにそこが一般の住居ではないことを想像させる。
紀子さんは茅ヶ崎出身。結婚後も茅ヶ崎のマンションで暮らしていたお二人だが、「小さくてもいいからカフェを開きたい」という、付き合っていた頃からの夢をかなえるために動き出す。住居兼店舗の土地を探して5年を経た頃、紀子さんが自転車で通りかかり、偶然見つけたのがこの土地。三角形の変形敷地で25坪とコンパクトではあったが、「静かな環境で、日当たりや風通しもよい抜けた感じが理想的でした」と紀子さん。
建坪はわずか9坪。不動産屋からは、この狭い土地で店を開くのは難しいと言われたものの、「どうしてもあきらめきれなかった」というお二人は、建築家の木津潤平さんに相談。以前は、ケータリングや移動カフェをしていたお二人。木津さんの事務所のオープニングパーティのケータリングをしたことがご縁だった。「このお二人のキャラクターそのままに、飾らず自然なものをつくれば、絶対いいものができると確信めいたものがありました」と当時を振り返る木津さん。和田さん夫妻との家づくりは、アイデアをたくさん持っているお二人の要望をアレンジし、まとめていく作業だったと話す。
まるで森の中のカフェ
1階は、ご夫妻の夢が詰まったカフェ「nokka」。日中から気軽にワインが飲めるようなお店を目指し、ビオワインや季節のジュース、オリジナルのおつまみを提供している。
店内は、柱や梁の持つ木の素材感をそのまま活かしたナチュラルな空間。漆喰の壁は、ご夫妻が材料を取り寄せて吟味し、お二人が中心になって塗ったものだ。その出来栄えは、「本職かというくらい上手です!」と木津さんも絶賛する。
空間のアクセントにもなっている、カウンター下の優しい色合いの紫色も、お二人でペインティングしたもの。「オリジナルのカラーを調合してくれる鎌倉のペンキ屋さんで、私の好きなこの紫色を作ってもらいました。余ったペンキで、椅子の脚を1本だけ塗ったりしています(笑)」と、紀子さんの遊び心がのぞく。友人の家具職人がこの空間に合わせて作製してくれたというオリジナルのテーブルや椅子が、気取りのない空間をさらに盛り上げている。
カフェの顔ともいえるのが、お二人の要望であった、大きな木製の開き窓。窓を開け放つと気持ちのよい風が通り抜ける。大きな窓を通して庭を眺めていると、マイナスイオンたっぷりの森の中にいる感覚になる。三角の変形敷地だからこそ生まれた鋭角の部分を利用することで、小さな庭が奥行きを感じられる庭になった。
窓越しに緑を眺め、ちょっとお洒落なお酒やおつまみを食しながら、気さくな和田さん夫妻と会話を楽しむ。日頃のストレスを洗い流されるような心地良い空間に、近所の人や友人が集まってくる。
ワンルームに居場所を散りばめて
2階の住居スペースはワンルーム。ベッドルームの床を70cm上げ、床や天井の高さで変化をつけ、ゆるやかにゾーニングしている。
天井高のあるダイニングに、屋根裏部屋のようなおこもり感のある寝室、ロフト下のキッチンスペースと、コンパクトなスペースながら、あちらこちらに心地よい居場所がある。
南側に設けた天井までの大きな窓により、開放感もたっぷり。ベランダの下には、隆寿さんが家を建てるにあたって熱望したハーブ園がある。ミントやタイム、バジルなどカフェのメニューで使うものを隆寿さんが育てている。平日は会社勤務の隆寿さん。カフェではスイーツを担当。「月曜から金曜日まで目いっぱい働いて、土曜日にカフェで大好きなスイーツを作り、お客様をもてなすことでリセットしています」
2人の時間を楽しみ尽くす
念願のカフェを併設した家に住まわれて8年目。訪れる人々には、「お二人らしい家だね」とよく言われるそう。この家で過ごす最も楽しい時間をうかがうと、「2人で食事の準備をしているとき」と隆寿さん。「テーブルセッティングして、これから食べて、飲んで、と考えるとワクワクしてきますね」と紀子さんも笑う。カフェに出すメニューの試作品を考えたり、試食したりすることも楽しいそうだが、自分たちが食べたいもの、飲みたいものを作り、好きなもので演出するときは格別のようだ。
家飲みだけでなく、小さなガスコンロと食材、ワインをカゴに詰めて、海に出かけることもしばしば。人の少ない海辺の穴場スポットで過ごす時間も楽しみのひとつという。茅ヶ崎でのお二人らしい生活を満喫されている。
お二人の“好き”がたくさん詰まった、この家。今後は駐車場に小屋を建ててジェラート屋を開く、屋上を造って花火大会を楽しむ……と夢は尽きない。ひとつひとつカタチにして、お二人らしい家を育てていくことだろう。