Style of Life

家族がほどよくつながる多目的な高床と空庭をもつ
職住一体の住まい

家族がほどよくつながる 多目的な高床と空庭をもつ 職住一体の住まい

普通の家では面白くない

東京・世田谷の閑静な住宅街に建つ加納邸。2年半ほど前に建て替えたというその家は、ガルバリウム鋼板の黒い外壁と、2階が浮いたように見えるキャンティレバー状の構造が異彩を放っている。
「長年住んでいた以前の家は、中庭を囲むように建つユニークな構造でした。とても気に入っていたのですが、雨漏りや設備が老朽化したため、思い切って建て替えることにしたのです」と幸典さん。「普通の家では面白くない」と、感性の合う建築家を探したという。

もともとインテリアが大好きで、ライフオーガナイザーの資格も持つ奥さま。愛読している住宅雑誌で目に留まったのが、設計事務所『ステューディオ2アーキテクツ』の住宅だった。
「段差をうまく利用した住宅で、限られたスペースの中での空間使いが巧みで面白いと思ったのです。依頼すると、以前住んでいた家をじっくり見ながら、私たちの思いを聴いてくださいました。以前の家で気に入っているところは活かしつつ、住みにくい点はクリアするといった感じで家づくりが進んでいきました」(奥さま)。

切妻の屋根なりの天井が開放感をアップ。ルーフテラスに続く“リビング階段”は奥さまのリクエスト。
切妻の屋根なりの天井が開放感をアップ。ルーフテラスに続く“リビング階段”は奥さまのリクエスト。
住宅が密集しているため、窓を最小限にした。道路からはルーフテラスが全く見えない。
住宅が密集しているため、窓を最小限にした。道路からはルーフテラスが全く見えない。
上がり框のないフラットな玄関ホール。墨を混ぜたモルタルがシックな印象。車が眺められるギャラリー風ガレージ。
上がり框のないフラットな玄関ホール。墨を混ぜたモルタルがシックな印象。車が眺められるギャラリー風ガレージ。

多様なニーズの高床“パレット”

加納さん夫妻の要望は、まずは、広い2階リビングと大容量の収納。
「収納を多くすると空間が狭くなると思ったのですが、“パレット”を提案してもらい、どちらも実現することができました」(奥さま)

“パレット”とは、多様なニーズに応えるための高床になった仕掛けのこと。2階の中央部分には、70cm高く上げたステージのような“パレット”を配置。約18畳のその床座は、家族が寛ぐリビングでありながら、ルーフテラスやロフトに連動した子どもたちの遊び場であり、時には食事をする大きなテーブル、家事をする作業台などさまざまな目的に対応している。

さらに、床座の下部は巨大な床下収納になっていて、季節行事やイベントのグッズ、客用の布団などから日常的に使用するものまで何でも収納。また、来客時にはさっと仕舞える一時保管のスペースとしても重宝しているという。

3段ほど高くなった“パレット”。「アイロンをしたり、洗濯物を畳んだりするのも便利です」と奥さま。床暖房も入っている。
3段ほど高くなった“パレット”。「アイロンをしたり、洗濯物を畳んだりするのも便利です」と奥さま。床暖房も入っている。
リビングの下はすべて収納になっている。使用頻度が少ないものは奥に入れるなど工夫が見られる。床座はデスクスペースにもなる。
リビングの下はすべて収納になっている。使用頻度が少ないものは奥に入れるなど工夫が見られる。床座はデスクスペースにもなる。
キッチン側に大きめの引き出しが2つ。頻繁に使用するものを中心に収納している。一時保管場所としても便利。
キッチン側に大きめの引き出しが2つ。頻繁に使用するものを中心に収納している。一時保管場所としても便利。
引き出しを外すと奥のワークスペースまでつながる。トンネル状になり、子どもたちの格好の遊び場に。
引き出しを外すと奥のワークスペースまでつながる。トンネル状になり、子どもたちの格好の遊び場に。

空の眺めを日常に取り込む

「以前の家では、中庭を眺めながら暮らしていたので、今回も周囲からの視線を気にせず、空を感じて暮らしたいというのがありましたね」と話す幸典さん。
その要望は、屋根の一部をくり抜くようにして設けた広いルーフテラスにより叶えられた。

高さ制限ぎりぎりまで上げた天井高は5m。テラスに面した大きなガラス窓にはカーテンやブラインドは一切つけず、大開口からたっぷり入る自然光を楽しんでいる。周囲の家が目に入ることなく空へと視界が広がり、光や雲の動き、季節の移ろいを感じられる空間となった。

「キッチンに立ってリビングを見ると、家族の様子とともに空が視界に入り、気持ちいいですね」と奥さま。
最もお気に入りの場所というキッチンは、奥さまの憧れのブランド『クッチーナ』を設置。幸典さんの知人を通して、モデルルームで使用していたものを格安で購入したという。
「現品のみのため、もとはペニンシュラタイプだったものを大工さんの力でアイランドタイプに変えてもらいました」
ダイニングキッチンのスペースは、このキッチンに合わせて設計された。

アウトドアリビングとしても活躍するルーフテラスは、“空庭”と呼んでいる。
アウトドアリビングとしても活躍するルーフテラスは、“空庭”と呼んでいる。
周囲の視線を気にせず寛げる“空庭”。「月を見ながらビールを飲むのが至福の時です」と幸典さん。
周囲の視線を気にせず寛げる“空庭”。「月を見ながらビールを飲むのが至福の時です」と幸典さん。
『クッチーナ』のキッチンと横並びに配したダイニング。テーブルはコンクリート製をセレクト。「けっこう無機質なものが好きなんです」(奥さま)
『クッチーナ』のキッチンと横並びに配したダイニング。テーブルはコンクリート製をセレクト。「けっこう無機質なものが好きなんです」(奥さま)
キッチンに立つと、目の前に大開口が広がる。「料理の合間に椅子に座り、ボーッと空を眺めていることもありますね」(奥さま)
キッチンに立つと、目の前に大開口が広がる。「料理の合間に椅子に座り、ボーッと空を眺めていることもありますね」(奥さま)
キッチンの奥がサニタリールーム。家事動線を考え、水回りをつなげた。
キッチンの奥がサニタリールーム。家事動線を考え、水回りをつなげた。
洗面台もモデルルームで使用していたものを購入し、持ち込み、設置してもらった。
洗面台もモデルルームで使用していたものを購入し、持ち込み、設置してもらった。

それぞれの居場所で

コンサルティング会社(株式会社CAN)を経営する幸典さんは、自宅を仕事場にしている。1階に書斎はあるものの、ほとんど2階のワークスペースで仕事をするという。基本的には、早朝から子どもたちが留守の間に仕事をするそうだが、帰宅した子どもたちの近くで仕事をすることも楽しいという。
「子どもたちが大きくなっても、部屋に籠るのではなく、勉強などもなるべく2階でしてくれたらいいなと思っています」(幸典さん)

2階にはロフトもあり、現在は主にお嬢さん(5歳)の遊び場に。息子さん(9歳)はオモチャを広げて遊ぶことから卒業し、“パレット”をデスクにしてゲームをしていることが多いという。

家族が同じ空間で過ごしながらも、それぞれが自由に好きなことをしていられる2階の“パレットリビング”。家族のほどよい距離感が心地良い時間を運んでいる。

“空庭”と同じ高さのロフト。リビングから死角のため、オモチャを広げっぱなしでもOK。
“空庭”と同じ高さのロフト。リビングから死角のため、オモチャを広げっぱなしでもOK。
仕事、宿題、ゲーム、お絵描きなど、ワークスペースでは各自が好きなことをしている。
仕事、宿題、ゲーム、お絵描きなど、ワークスペースでは各自が好きなことをしている。
1階の玄関奥は、家族の寝室とプレイルームがある。子どもの成長に合わせて部屋を分ける予定。
1階の玄関奥は、家族の寝室とプレイルームがある。子どもの成長に合わせて部屋を分ける予定。
玄関からウォークインクローゼットあるいは書斎を通って奥の部屋へ。1階は回遊できる設計に。
玄関からウォークインクローゼットあるいは書斎を通って奥の部屋へ。1階は回遊できる設計に。
コピー機等を置いた、1階の書斎。玄関から寝室への通路にもなっている。ほとんど2階で仕事をするが、家族がいる時間にスカイプでの打ち合わせが入ったときなど使用。
コピー機等を置いた、1階の書斎。玄関から寝室への通路にもなっている。ほとんど2階で仕事をするが、家族がいる時間にスカイプでの打ち合わせが入ったときなど使用。
2階から1階の玄関ホールを見下ろす。「手で触るところは黒にしてもらった」と、アクセントカラーは黒をリクエストした奥さま。上部の黒い収納は、安全面を考えた柵との兼用。
2階から1階の玄関ホールを見下ろす。「手で触るところは黒にしてもらった」と、アクセントカラーは黒をリクエストした奥さま。上部の黒い収納は、安全面を考えた柵との兼用。

加納邸
設計 ステューディオ2アーキテクツ
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 117.25㎡