Design

ミラノ・サローネ特集2014 -4-技術とオリジナリティで覇を競う
イタリアメーカーの独創的キッチン

「LIFE STORIES」コレクションより「ST.LOUIS」。50年代スタイルにインスピレーションを得たモデル。近未来風の丸みを帯びたデザイン、ラッカー塗装のパウダーカラーが特徴。
デザイン、性能、素材。いろいろな角度からアプローチできることは頭ではわかっていても、実際に目にすると度肝を抜かれる。キッチンはインテリアのなかでも専門のメーカーが強い分野だが、だからといって機能優先、没個性に安住できないのが、イタリアのメーカーの性だ。技術でも見た目においても、なんとかしてオリジナリティを出したい、その一点に向けてとことん集中するのが彼らである。時にはやり過ぎではないかと思うようなものもあるが、荒削りの面白さ、アプローチの特異さがなければ、進歩は生まれないのである。


Marchi マルキ

「LIFE STORIES」コレクションより「ST.LOUIS」。50年代スタイルにインスピレーションを得たモデル。近未来風の丸みを帯びたデザイン、ラッカー塗装のパウダーカラーが特徴。
「LIFE STORIES」コレクションより「ST.LOUIS」。50年代スタイルにインスピレーションを得たモデル。近未来風の丸みを帯びたデザイン、ラッカー塗装のパウダーカラーが特徴。

キッチンは独立した舞台装置
細部へのこだわりがスタイルを完成する

一見しただけでは何を言いたいのかがわからない。ただ、ミニマリズムだとか最新のテクノロジーといった路線とは違うようだ。とにかく、しげしげと眺めていたくなる、それがマルキ社のキッチンである。北イタリア・クレモナで40年の歴史を歩んできた同社の製品は、創業者で現社長のジャンルイジ・マルキの人生経験に大きな影響を受けている。70年代、同社が旗揚げした頃は米ソによる宇宙探査競争が激しくなり、映画では「サタデーナイト・フィーバー」が一世を風靡し、マルキ社長はピンクフロイドのコンサートに行き...。懐かしのスタイルとストーリーをそっくりそのまま再現したかのようなキッチンが展示されているのである。もちろん、アレンジはされているのだろうが、なによりも“安っぽさ”が全く感じられないことに関心する。その理由は、同社が言うところの「素材を惜しまず手間を惜しまず」にあるのだろう。ディテールを作り込んであるからこそ、“観客”は安心してその世界に没頭できるのだ。


「ST.LOUIS」モデルのバリエーション。淡いブルーやピンクなど、若い世代を意識した色で展開。
「ST.LOUIS」モデルのバリエーション。淡いブルーやピンクなど、若い世代を意識した色で展開。
「VINTAGE STYLE」コレクションより「LOFT」。
「VINTAGE STYLE」コレクションより「LOFT」。

Marchi マルキ
Marchi マルキ


「LOFT」も「ST.LOUIS」と同じ50年代スタイルをアレンジ、森のグリーンのほか、ジーンズ・ブルー、コーンイエローなど、アメリカンなイメージの色展開。


Doimo ドイモ

「Fjord」シリーズ。レトロな北欧風スタイル。
「Fjord」シリーズ。レトロな北欧風スタイル。

機能、デザイン、価格の3拍子揃え
躍進する創業20年の新興メーカー

キッチンメーカー業界では、著名なデザイナーに頼らず、社内で独自設計するところが多い。技術的な部分でデザイン優先にしにくいという理由が大きいが、だからといって機能優先だけでは製品アピールに欠けてしまう。ヴェネト州トレヴィーゾで1994年に創業したドイモ社は、他社に比べれば後発だけにマーケットリサーチを重視し、顧客が求める「最新の機能と高いリサイクル性、美しく飽きのこないデザイン、ミディアムクラスの価格」を実践し成長を続けている。昨今人気の北欧風デザインは若い世代向きの感もあるが、同じデザインでもマテリアル次第で印象は著しく変わる。たとえばオークでも表面仕上げの違いで4種あり、ラッカー塗装ガラスなら26種類揃う。しかも、どれもが微妙なニュアンスの中間色であるところに綿密なリサーチの結果が伺える。グローバルスタンダードを目指して着実に進歩を続けるメーカーである。


Doimo ドイモ
Doimo ドイモ


「Fjord」シリーズ、部分。色づかい、丸い把っ手などで、若い印象を与えている。
Doimo ドイモ
Doimo ドイモ


「Cromatika」は色遊びを主眼に置いているため、デザインはごくシンプル。

「Extra」のポリシーは、エレガントでインターナショナルなテイスト。
「Extra」のポリシーは、エレガントでインターナショナルなテイスト。

Alpes アルペス

「Liberi in Cucina」より「Cucina Convivio」。一枚板のテーブルトップの一辺に160×65cmのステンレス調理台を設置。
「Liberi in Cucina」より「Cucina Convivio」。一枚板のテーブルトップの一辺に160×65cmのステンレス調理台を設置。

ステンレスを縦横無尽に操り
独自のキッチンコンセプトを確立

衛生的で耐久性に優れたステンレスはキッチンの素材としてプロユースの厨房から一般家庭まで幅広く使われている。しかし、その無機的な質感が冷たく、実用一辺倒な印象を与え、楽しくユニークなキッチンというイメージとはなかなか結びつきにくい。ヴェネト州バッサーノ・デル・グラッパというアルプス山脈の裾野に位置するメーカー、アスペン社はステンレスの特性を知り尽くしているというニコ・モレット社長自らがデザインする。見た目のインパクトより、どの部分をどの程度削ればぶつけても怪我をしにくく掃除もしやすいかといった職人的見地から設計するのだが、それが結果的にオリジナリティが随所にちりばめられたキッチンへと仕上がっていくのである。モードやマーケティングに左右されない、という謳い文句はよく耳にするが、アスペン社のそれはまぎれもなく真実である。


「Cucina Convivio」。調理する人と招待客が一緒に楽しめることがコンセプト。コンヴィヴィオとは饗宴、という意味。
「Cucina Convivio」。調理する人と招待客が一緒に楽しめることがコンセプト。コンヴィヴィオとは饗宴、という意味。
「Liberi in Cucina」セパレートシリーズ。配置も移動も自在。
「Liberi in Cucina」セパレートシリーズ。配置も移動も自在。
「Liberi in Cucina」ユニット・アウトドア。
「Liberi in Cucina」ユニット・アウトドア。

Valcucine ヴァルクチーネ

「New Logica System/Artematica Vitrum」。Logica Systemは1996年にリリースした人間工学に基づいた設計のキッチンシステム。これをベースとしたArtematica Vitrumは100%リサイクル可能なガラスを採用している。
「New Logica System/Artematica Vitrum」。Logica Systemは1996年にリリースした人間工学に基づいた設計のキッチンシステム。これをベースとしたArtematica Vitrumは100%リサイクル可能なガラスを採用している。

本当のサステイナブルとは何か
その追求が技術革新を生む

多くの企業が利潤を第一に追求し、その次に品質、安全性を求め、そして、環境への配慮は後回しにされてきた。この点に注目し、企業姿勢として正しい道は何かを考えることによって、現在のヴァルクチーネ社が築き上げられたという。人目を引く斬新なデザインがもてはやされた20世紀終わりから、21世紀に入ってエコロジカルという言葉が注目を集めるようになり、今やその言葉は表層的で陳腐な常套句になってしまった。エコロジカルな企業活動というのはありえない、あるのは地球環境になるべく悪影響をもたらさない、つまりサステイナビリティだというのがヴァルクチーネ社の行きついた結論である。CO2の排出は量は抑えるとしてもなくすことはできない。ならば後は、製品の行く末に責任を持つ、つまり、リサイクル、リユースしやすく、有害物質を極力排除することに尽力する。もちろん、長く使えることを大前提に。これが、ヴァルクチーネ社が目指すサステイナビリティ誘導型技術革新だ。スマートでエレガントな見た目の裏にはさまざまな努力が隠されているのである。


Valcucine ヴァルクチーネ
Valcucine ヴァルクチーネ


「Riciclantica」はその名のとおり、リサイクルすることを前提に、原材料及び製造に費やすエネルギー使用量を抑え、長期使用に耐え、有害物質排除に努めたシリーズ。

「SineTempore」シリーズは、象嵌や彫刻など、職人技術を取り入れている。個々の素材に向き合うことによって素材の状態に応じた加減をする職人芸が結局、“持ちの良さ”につながる。
「SineTempore」シリーズは、象嵌や彫刻など、職人技術を取り入れている。個々の素材に向き合うことによって素材の状態に応じた加減をする職人芸が結局、“持ちの良さ”につながる。
「Meccanica」メカニックの名は、軽量ながら先進の接合システムを取り入れることによって接着剤を使うことなく、ホルムアルデヒドに代表される環境ホルモンの影響を及ぼさないことを示している。
「Meccanica」メカニックの名は、軽量ながら先進の接合システムを取り入れることによって接着剤を使うことなく、ホルムアルデヒドに代表される環境ホルモンの影響を及ぼさないことを示している。

Minacciolo ミナッチョーロ

ブースの中央に鎮座する、水を浴び続ける「Mina」。
ブースの中央に鎮座する、水を浴び続ける「Mina」。

奇抜と絶妙の間を縫う
イタリア式遊びのセンス

容赦なく降り注ぐ水を浴び、全体にサビを浮き上がらせたキッチン。それが何を示すかの説明は特になく、判断は受け手次第、まさにイタリアが得意とする謎かけスタイルだ。正解は1つではない上、ありとあらゆる答えが正解であり、要は受け手がそれについて自由に発想し、理想とするキッチンに組み込めることができれば正解なのである。人々はまるでテーマパークで遊ぶように彷徨い、好き嫌いを言い、その理由を勝手放題に喋る。ミナッチョーロ社の狙いは話題になることなのだから、それで構わないようだ。オフィシャルには「前回のユーロクチーナで発表したプロ向けシリーズをダウンサイジングし、一般家庭にも導入しやすくした」のが今年のラインナップのプロフィールだが、なかなかどうして個性的で、扱う側のセンスが問われそうである。


Minacciolo ミナッチョーロ
Minacciolo ミナッチョーロ


前回のユーロクチーナではプロユースとして発表された「Mina」のホーム版。工作機械のような素っ気なさはそのままに、どんな環境にも適応するサイズとカラーバリエーションをプラス。

「Tinozza」ティノッツァとは、ワイン製造で使う桶のこと。流し、コンロ、作業台の3種類あり、流し以外は可動キャスターつき。
「Tinozza」ティノッツァとは、ワイン製造で使う桶のこと。流し、コンロ、作業台の3種類あり、流し以外は可動キャスターつき。
「Mammut」工場のような雰囲気を強調するフード。
「Mammut」工場のような雰囲気を強調するフード。

Laurameroni ラウラメローニ

「Bellagio」コレクション。作業台となるアイランドのトップは耐熱・撥水・対衝撃加工をほどこした自然石。厚さはわずか5mm、その下にハニカム構造のアルミニウムを敷いて補強している。
「Bellagio」コレクション。作業台となるアイランドのトップは耐熱・撥水・対衝撃加工をほどこした自然石。厚さはわずか5mm、その下にハニカム構造のアルミニウムを敷いて補強している。

キッチンに家具としての視点を
デザイナーが導き出す造形美

ユーロクチーナの会場ではなく、家具メーカーの展示会場でもキッチンを試験的にプレゼンテーションしているところが幾つか見受けられた。そうしたキッチンの共通点は、家全体の雰囲気を形成する家具の1つとして見なされていること。部屋から部屋へと移っても流れを止めない、そんなイメージを提案しているようだ。その典型的な例がラウラメローニ社で、デザイナーが職人と共同で開発した独特の表面仕上げをセールスポイントとするだけあって、キッチンもその収納トビラ、ウォールパネル、キャビネット等平面部分のほとんど全てを自社オリジナルの「デコール」システムで顧客の好みの仕上げにするという。その効果を強調するため、キッチンそのものは徹底的にシンプルで、凹凸を極力排している。調理という作業のイメージは湧きにくいが、キッチンの多様なあり方を考えさせ、家具や道具というよりも、1つの“作品”として興味深い。


「Bellagio」コレクション。パネルは木製、マットラッカー仕上げ。
「Bellagio」コレクション。パネルは木製、マットラッカー仕上げ。
中央の透明部分は「ディスプレイ・ケース」。照明とフレッシュナーが仕込んであり、光や芳香の演出も楽しめるという。
中央の透明部分は「ディスプレイ・ケース」。照明とフレッシュナーが仕込んであり、光や芳香の演出も楽しめるという。

ミラノ・サローネ特集、続きはこちら

ミラノ・サローネ特集 第1回「木とデザイン」
ミラノ・サローネ特集 第2回「イタリアデザインの未来」
ミラノ・サローネ特集 第3回「キッチンの可能性」
ミラノ・サローネ特集 第4回「イタリアン・キッチン」
ミラノ・サローネ特集 第5回「サローネ・サテリテ・アワード」
ミラノ・サローネ特集 第6回「サローネ・サテリテの注目作品」