Architecture
自然を取り込む建築家の自邸12坪の敷地で、
豊かに暮らせる工夫
限界に近い土地に挑戦
「12坪の土地を探していたんです」と、一級建築士の藤井兼祐さん。高円寺の住宅街に建つ自邸は、コンパクトな敷地を活かした3階建て。「普通、狭小住宅といったら13、14坪ですから。でも僕は、土地や建物のコストを考えると、12坪というのが一番効率がいいと思うんです」。
藤井さんによれば、「大事なのは坪数ではなく、土地の形」。敷地の一辺が最低4mとれることだという。見つけた土地は4.1mだった。「4mあれば階段を横に流して配置し、そこを軸とした間取りのプランニングができます。これがいちばん譲れないところでしたね」。
広い家も狭小住宅も出がけてきた藤井さん。家を建てたのは、ランドスケープデザイナーである妻・清美さんと共有する、住居と事務所を分けてみたくなったことと、実際に住んでみないとわからないことを体感するためだった。
抜けのある階段を活かす
「1cmも無駄にできない」という覚悟で臨んだ設計。限界に近い敷地では、いかにして廊下を減らすかが問題だった。そこで階段を介して、左側にバスルーム、洗面などの水まわり、右側にリビングを配置。3階のベッドルームに上がる階段には廊下を設けず、キッチンの間を通り抜けられるようにした。
「階段でふたつのゾーンに分けたんです。南向きのリビングには暖かい光が入り、北向きの開口からはやわらかい光が階段の踊り場に届く。そんなことも計算しました」。抜け感を出すために階段は段板のみにして、空間を仕切らないようにした。上下のフロアが吹き抜けて見える階段は、実用の為のものでありながら、見せるための空間でもあるように思えてくる。
「設計は形を造ることだと思われていますが、僕は環境をつくることだと思っています。光とか空気がそこにあることをイメージして設計しますね」。空間を環境と捉え自然採光を大切にするのは、藤井さんの一貫したポリシーだ。
自然との一体感を生む
自然採光を取り入れるため、開口はたくさん取った。色々な方面から光や風が入り、家の中を通り抜ける。「よく開口部損失ということが言われるけれど、それは北海道とか寒い地域で考えることだと思います。この家も断熱をしっかりと考えているので、閉めれば暖かいし、冬でもTシャツ1枚でいられますよ」。
ソファーに何気なく寝転ぶと、トップライトから青い空が広がる。リビングのテーブルに座ると、ベランダのグリーンが目を潤す。自然を取り込んだ造りが、狭さをカバーしつつ心地よさを生んでいる。
「リビングとベランダの段差をできるだけ少なくしてつながった感じにしたり、ベランダには塀を設けずオープンにしたりして、なるべく広がりが感じられるようにしました」。
椅子に座ると、ちょうどよい高さにグリーンが置かれているのがわかる。植物は清美さんの職業柄、アウトドア向き、インドア向きの植物を上手に分けて育てていて、1年中美しい。リゾートホテルのラウンジような、たっぷりのグリーンに癒される。
旅するような非日常性を
普段はおふたりとも仕事が忙しいので、ふたりで料理ができるよう、キッチンは広めにとった。「調理器具の大きさなどを考えて、すっきり収まるように設計してオーダーしました。シンクも大きめにして使いやすさを考えましたね」。
週末は家で過ごすことが多くなったという藤井夫妻。作り置きの料理を作ったり、本を読んだり。「銭湯が好きでよく行っています。明るいうちに行って帰ってきて家で飲むのが、最高のパターンですね」。リビングの棚には、旅先で撮ったと思われるおふたりの写真が。
「旅好きで、半年間アジアを放浪したり、昔から色々な国に行っています。仕事を休んでふたりで4カ月間、バックパッカーをしてヨーロッパを回ったこともありますよ」。そこで得たインスピレーションが、自邸のインテリアにも仕事にも活かされているのかもしれない。
「日常も旅をしているように暮らしたいんです。非日常を求めて旅をするように、ふだんの暮らしにも非日常性が感じられたら。それがいちばん豊かだと思いますね」。