Architecture
夫婦それぞれの思いを実現した家緑と光と風とアトリエ…
別荘ライクでコージーな空間
3年間探した敷地
「敷地はまず緑の見えるのが第一条件だった」と話すのは平野邸の奥さん。平野さんは「都心だと、三方をほかの家に囲まれていて、道をはさんで向かいにも家が建っているところが多い。そういう囲まれた土地ってすごく圧迫感を感じるので、環境さえ良ければどこでもいいという感じで探し始めました」と言う。
この条件に合えば都内のどこでも良かったし、また土地があったらすぐにでも建てたかったが、なかなか見つからず、結局、土地を購入するまでに3年ほどかかったという。
そして見つけたのは、両サイドに家は建っているものの、裏の北側は緑あふれる公園が斜面でぐっと下がった位置にあって眺望も開けているという、お2人の希望に十分かなうものだった。この立地がこの住宅の特徴的な外観をつくることへとつながるが、まずは家を建てる際にした建築家へのリクエストについて平野さんにうかがってみた。
まずはアトリエ空間
メーカーでプロダクトデザイナーを務める平野さん。「自転車が趣味で、また彫刻をしたりとものをつくるのが子どものころからずっと好きなので、そういうことを気兼ねなくできるアトリエ空間がほしかったんです。僕の第一の希望はこれでした」。あとは、モノが多いため、それを収納できる空間がほしいと建築家に伝えたという。
この1階のアトリエを土間にしたのも平野さんからのリクエストだった。「土間なら木を切ったり塗装をしたりしても汚れが気にならない。自転車を家の中に持ち込んでメンテナンスしたりもするのでかなり広めの土間スペースにしてもらいました」。さらに自転車の出し入れがあるので玄関の開口をふつうよりもかなり幅広に取ってもらったという。
仕切りがなく光と風が感じられる家
1階のアトリエ部分では平野さんの意見を通したので、2階から上の部分に関しては、ほとんど奥さんの佳乃さんからのリクエストが建築家に伝えられたという。
「基本は光と風が感じられる家をつくりたいというのがありました。それと、間仕切りは圧迫感を感じるので、仕切りのない空間で、風が抜けて光も反射などしていろいろなところに入ってくる感じにしたいと思いました」
「検討中にいろいろと寄り道したりというのが丸見えなのでやりにくいところもありましたが、佳乃さんの感覚は一緒に仕事をしてきてなんとなくわかっていたし、旦那さんについても設計が始まる前から彼女から話をいろいろ聞いていたのでどういう人なのかもわかっていました。こういう感じにしたら彼らの生活に合うだろうなというのはなんとなくイメージはできたので、その点はすごくやりやすかったですね」(土田さん)
2つの巣箱
この家は立地から導き出された特徴的な外観をもっている。巣箱のような三角屋根のボックスがまったく同じ大きさ、同じ高さで南北それぞれの壁から突き出ているのだ。
「南側は真南から陽が入るんですが、開口を大きく開けてしまうとプライバシーが保てないのである程度しぼらないといけない。北側もすごく眺望が良いんですが、開口を取りすぎると結露などの問題があるので、その折り合いがつくあたりということでこのサイズにしました」(土田さん)。緑を眼下に収めた北側のテラスに出ると、鳥たちの囀りも盛んに聞こえてきてまるで別荘地にでも来たかのようなゆったりとした気分になる。
この巣箱を両端にもつ2階もとてもコージーな空間だ。自転車など持ちモノが多いことから下のロフト階を収納スペースにしたため、2階は必要最低限のモノとお気に入りの小物たちだけが置かれ、横長の空間が気持ち良いほどすっきりとしたスペースになっている。南北ともに視線が外へとすっと抜けて開放感も感じられる。室内の両端にある吹き抜けもその開放感を強めている。
北側からは緑を通り抜けてきた風が気持ち良く南へと抜けていく。モノづくりをするお2人にとって、この家はまたとないリフレッシュする時間を提供しているように感じられた。
設計 no.555一級建築士事務所
所在地 東京都
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 81.98m2(ロフト、テラス含まず)