居場所のたくさんある家緑豊かな環境のなかで
おおらかに暮らす
自然の中に住む
神奈川県で2年ほど時間をかけて土地探しをしたという早瀬夫妻。逗子の敷地に決めたのは「自然の中で住みたい」という思いが強かったからという。
「自然の中で子どもを育てるというのがいちばんの決め手でした。僕らが田舎で育ったということもあって、これからずっとマンション住まいをしようとか、アスファルトの環境の中で育てようという考えはなかったですね」(早瀬さん)

左に杉林、右には落葉樹の森。4月にはヤマザクラの花が散って美しいという。山をさらに奥に進むとホタルも見ることができる。外壁には焼杉が張られている。
「4月にはヤマザクラの花が散って裏山から降ってきます。これがとてもきれいでサクラの葉が宙を舞う様をずっと見ています。秋になると今度はきれいに紅葉した落ち葉が降ってきます」(奥さん)
こうした環境で奥さんが特に好きなのは6月。梅雨に入る前の緑葉の芽が出てくる時期で、その頃になるといろいろな動物が集まってくるのだという。「リスはしょっちゅう、家の前の電線の上を歩いています。タヌキもいるし、キツツキやウグイスも見かけますね」

ダイニング近くから道路側を見る。道路側と裏側にそれぞれ大きな開口が開けられている。ホワイトバーチのフローリングとダイニングとは85cmの段差がある。
ワンルームを円で区切る
自然環境を強く志向した生活スタイルと早瀬家のおおらかな人間関係を手がかりとして進められたという家づくりでは、まず周囲の緑を満喫できるような空間構成が重要なポイントとなった。建築家の岸本さんは「表の緑と裏側の緑を目線レベルでつなごうとしました」と話す。
そうしてチューブ状に両端の開口が大きく開けられた2階は、複雑に見えるがワンルームのつくりになっている。ごくシンプルなワンルームにすると、トンネルの中にいるみたいに人の居場所がなくなってしまうため、床のレベル差を用いて空間を区切っていったという。
その分節の方法は、ホワイトバーチのフローリングを基準レベルとして、それを円でくり抜くというものだった。こうして、それぞれ高さとかたちが異なる3つの居場所がつくられた。

裏の山に面したこの場所はフローリングから70cm下がっていて子どもが座るとちょうど隠れる高さ。子どもの秘密基地的なこの空間からはジャスミンと葛の葉の緑が見える。奥の棚の部分で勉強をすることもあるという。
居場所がたくさん
「円を空間構成にこういうかたちで使うことによって、不均一な場所がたくさん生まれます。階段すら幅が徐々に変わっていて一様ではない。そういうランダムで不均一な場というのは、生活の自由性を考えるほどに実は誰もが欲しているものだと思います」(岸本さん)
円を導入することによってつくられたのは3つの居場所だけでなく、ホワイトバーチのフローリングの部分も居場所として活用されているのだ。早瀬さんは「人が場を見つけるためのヒントがばらまかれている」と言い、奥さんも「シンプルに見えて、気づくと自分たちがいられる場所がたくさんある」と話す。

階段部分も円形にくり抜かれている。

道路側のこのスペースはフローリングより40cm下がっている。

道路側から見る。手前のホワイトバーチのフローリングはダイニング脇の部分と同じ高さ。

DK部分。これだけの段差があると守られているような安心感も生まれる。
早瀬さんも「最初のうちは住みにくいと感じたこともあった」と話す。「でも気づくとすごく居心地がいい。いまや、一般的な住宅空間では居場所がないように感じてしまって、逆にもうこの空間ではないと生活ができない感じですね」

ホワイトバーチのフローリング部分には、初期案では、グリーンのカーペットが敷かれる予定だったが、アレルギーの問題などもあり取りやめに。

円形にくり抜かれた部分の断面は濃い茶色だが、これは大地をイメージしたものという。フローリング部分では、形が不均一なため、どこにいても空間の感じ方が異なる。

ダイニングキッチンの近くから裏山の方向を見る。この空間のコンセプトからして建具で仕切ってしまっては意味がない。そこで、ぎりぎり人の形がわかる程度の透け具合のカーテンが採用されている。

1階玄関の脇に円形の階段がある。

子ども部屋の前から主寝室のほうを見る

子ども部屋は上部がロフトスペースになっている。

子ども部屋のさらに奥はウォーキングクローゼットになっている。
設計 acaa
所在地 神奈川県逗子市
構造 木造
規模 地上2 階
延床面積 85.17 m2