Architecture

収納分離でゆったりリラックスハワイ好き家族が
目指した家づくり

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趣味の基地

「最初は、リビングは何畳で開口部はこれくらいの大きさがほしいとか数字を示して建築家の土田さんにお願いしていたんですが、これを1回やめて、こういう空間がいいですという話に変わっていったんです」
こう語る市川さんのお宅は、玄関ドアを開けると目の前に住宅とは思えない空間が現れる。土間になった1階の壁が、スポーツ関係の道具類やキャンプ用具、さらに洋服などで埋まっているのだ。


1階はサーフィン、テニス、野球、スノーボードとゴルフ関係の道具とマウンテンバイクにキャンプ用具などで壁面が埋まっている。正面奥には水回りが収められている。中央にあるのは収納棚。
1階はサーフィン、テニス、野球、スノーボードとゴルフ関係の道具とマウンテンバイクにキャンプ用具などで壁面が埋まっている。正面奥には水回りが収められている。中央にあるのは収納棚。

土田さんに伝えたことのひとつは「1階を基地みたいな感じにしたい」ということだった。「趣味の基地にして、道具を保管するだけでなくメンテナンスもする。それと、さあ行こうというときに道具をもってすぐ出かけられるようにしたかったんですね」

マンション暮らしの時はキャンプでもサーフィンでも出かけるのに道具の出し入れがすごく面倒だったが、気軽な感じで出かけられるようになるのではと思ったという。

土田さんのほうでは趣味の道具関係が大量に生活空間に入ってこないように、1階を収納空間にして2階の生活空間と水平に分離することがまず大事だと思ったという。「僕もいろいろとスポーツをしているので、サーフボードや自転車を家の中に入れる際にあちこちにぶつけながらというのがストレスになるのはよくわかる。それで、そのようにならない空間にしたいなと」


マウンテンバイクのほか、サーフィン、テニス、野球、スノーボードなどの道具が置かれている。
こちらの壁には、マウンテンバイクのほか、サーフィン、テニス、野球、スノーボードなどの道具が置かれている。

2つの島

1階の中央には作業台のように見える島が2つあるが、これは収納台で、小さいものを2つずつ組み合わせたもの。「打ち合わせの際に真ん中あたりにも収納を確保したほうがいいねという話が出て提案をしました。壁がモノで埋まっていくのはわかっていたので、ローテーブル的なほうが空間を狭くせずに収納を確保できるということでつくることに」(土田さん)

さらに、1階で読書をしたいというリクエストもしたという市川さん。本を読んだり、ノートパソコンで仕事のメールのやり取りなどもできるようにしたかったという。

「スペースがすごく限られているのでいろいろと兼用していかないといけない。それで1階も、洋服も置けるし読書もパソコンもできる、ということでいろいろ兼用ができるスペースにしようと」


階段下には本棚が置かれている。
階段下には本棚が置かれている。
 
玄関脇には靴棚。玄関はマウンテンバイクの出し入れができる幅を確保している。
玄関脇には靴棚。玄関はマウンテンバイクの出し入れができる幅を確保している。
キャンプ用具の置かれた壁の右側は洋服のスペース。仕事用のスーツもここにかけられている。
キャンプ用具の置かれた壁の右側は洋服のスペース。仕事用のスーツもここにかけられている。
洗面スペースを広めに取り、お風呂は洗い場をなしにした。
洗面スペースを広めに取り、お風呂は洗い場をなしにした。


ゆるくリラックスできる空間

モノに溢れた感のある1階から上がると、2階には対照的に最小限のモノしか置かれていない。この空間にはハワイが大好きという市川夫妻の考えが大きく反映している。「ハワイの何がいいかというと、波の音を聴きながらビールを飲んで風にあたってそのまま寝落ちしてしまうようなことができるところ」と市川さん。

要するに、ぼーっとしてなにもしないで過ごせる空間。2階に関しての市川さんのリクエストは、抜け感と開放感があり、ゆるくリラックスできるということだった。「最小限のモノしか置かれていない」のは、このリクエストからの必然だった。


キッチン部分から見る。上のスペースは寝室として使っている。奥さんはダイニングとキッチンにこだわった。ダイニングのベンチはクッションも含めオリジナルでつくられたもの。
キッチン部分から見る。上のスペースは寝室として使っている。奥さんはダイニングとキッチンにこだわった。ダイニングのベンチはクッションも含めオリジナルでつくられたもの。

2階から見る。キッチンも奥さんの希望で家族と話をしながら作業のできるこの形に。床と壁は自主施工。床は浮造り用のマシンを使って削った。
2階から見る。キッチンも奥さんの希望で家族と話をしながら作業のできるこの形に。床と壁は自主施工。床は浮造り用のマシンを使って削った。

奥さんはキッチンとダイニングにこだわった。「キッチンは孤立しているのが嫌だったので、会話をしながら料理ができてみんなと一体感が感じられるというのが絶対の希望でした。あと開放感がほしかったですね」

「ダイニングは居心地の良い場所にしたかったのでまずこのベンチをつくってもらいました。気持ちが良くて、いつの間にか寝てしまうようなときもあります」


天井は木毛セメント板。吸音の機能もあるという。トップライトは採光とともに通風を考慮して設けた。
天井は木毛セメント板。吸音の機能もあるという。トップライトは採光とともに通風を考慮して設けた。
階段部分。下が1階。
階段部分。下が1階。


ちょっと変わったテラス

ハワイ好きの市川さんが「風が当たる場所がほしいので外の空間を設けてもらった」というのが2階の道路側にあるテラスだが、この場所がちょっと変わったつくりになっている。室内から見て右側部分が壁で囲われ左側は家形にくり抜かれた開口にルーバーが取り付けられているのだ。

遮光と人通りが意外と多いという道路側からの視線を考慮してデザインされたものだが、こうしたつくりにしたのにはこれとはまた別の理由もあった。

「テラスの部分に壁があることで、テラスの手前の窓を開けたときにテラスまでが部屋だと感じられる。使い方によって室内空間の広さを変えられるようにということもあって壁をつくりました」


「仕事から帰ってきて、ソファに座って映画を観たり音楽を聞いたりする時間がとても楽しい」と市川さん。奥のテラスではバーベキュー用のコンロを使ってご飯をつくったりもするという。
「仕事から帰ってきて、ソファに座って映画を観たり音楽を聞いたりする時間がとても楽しい」と市川さん。奥のテラスではバーベキュー用のコンロを使ってご飯をつくったりもするという。

この家に引っ越してから約半年。暮らしてみて予想外だったことがあると市川さんはいう。「読書もできるようにというリクエストは出したんですが、1階のスペースは基本、物置きとか倉庫のイメージでした。それがいま、第2リビングみたいなかたちで使われています。たとえば、娘が宿題をし、妻が洗濯物の片付けをし、僕がYシャツにアイロンをかけながら“今度の週末どうする?”みたいな話をしたりとか。家族みんなが滞留する場所になっているんですね」

2階ではみんなで一緒に食事をしたり、話をしたりする。1階ではお互いにバラバラのことをやりながら1カ所に集まっているというのが居心地がいいという。アクティヴィティの点でも1階と2階は対照的な空間になっているようだ。


家形にくりぬかれた壁の部分はルーバーになっている。「ルーバーを青空が見える角度にしてほしい」とリクエストした。
家形にくりぬかれた壁の部分はルーバーになっている。「ルーバーを青空が見える角度にしてほしい」とリクエストした。
テラスに置かれたグリーン。「それまで興味のなかったグリーンですが、この家に越してから興味を持つようになりましたね」
テラスに置かれたグリーン。「それまで興味のなかったグリーンですが、この家に越してから興味を持つようになりましたね」
「風が当たる場所がほしかったので設けてもらった」というテラス空間。外からの視線を避けて右側は壁で閉じられている。
「風が当たる場所がほしかったので設けてもらった」というテラス空間。外からの視線を避けて右側は壁で閉じられている。


手前のリビング側が低く、ダイニング部分の天井が高くて斜めになっていて、シンプルながら空間に動きが感じられる。
手前のリビング側が低く、ダイニング部分の天井が高くて斜めになっていて、シンプルながら空間に動きが感じられる。

外壁は無垢の厚板をラフソーン仕上げにしたものを使用。ざらざらの表面は無塗装で3年程度でグレーに変化する。
外壁は無垢の厚板をラフソーン仕上げにしたものを使用。ざらざらの表面は無塗装で3年程度でグレーに変化する。
市川邸
設計 no.555一級建築士事務所
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 102.41m2