Architecture
気軽に外と行き来できる鍵形の家 外へと開いた
明るい空間で暮らす
東側がオープンな角地での家づくり
東武伊勢崎線の沿線で治療院を経営する引網さん。妻の史恵(ふみえ)さんとともに治療も行っている。敷地はこの治療院と最寄り駅が同じで、かつ、以前と同じ生活圏であったことなどから決めたという。設計を依頼した建築家は治療に訪れて来て知り合ったというI.R.A.の綱川さん。土地を見てもらったときは敷地条件にまず好反応したという。
「“角地でいい場所じゃないですか”ということでしたね」と史恵さん。「公園も近いし、遊歩道のようなレンガ色の道路も気に入られたようでした」
敷地から多くのインスピレーションを得て、早い段階から現状に近い設計案が出来上がったという。東側の道路との間に駐車場・駐輪場を兼ねた中間的なスペースをつくるアイデアもその時にすでに盛り込まれていた。このスペースはコストダウンのために防火サッシュなしでもすむよう道からセットバックするアイデアとともに生まれたものだった。
広くて明るい空間に
夫妻からは駐車場をつくることと2階建てにすること、さらに「なるべくリビングを広くして空間を広く使いたいとお伝えしました」と史恵さん。「あと、明るい空間にしてほしい、吹き抜けも少しほしいともお話ししましたね」
東側の道路に沿って建物の長手方向が延びる引網邸。東には近接する家がないため、1階のリビングの明るさは開口の開け方しだいで十分に確保することができるし、夫妻が希望した吹き抜けを西側に設ければ奥の部分も明るくなる。
しかし、外に対して開けすぎては家のすぐ脇を人が通るためプライバシーの確保が難しい。駐車場などとしても使われる中間的なスペースと道路との間につくられた壁がこのプライバシー確保に効いているが、設計時には少し不安も感じたという。
「東側に設けた開口のひとつから子どもが自由に行ったりできるとも説明を受けていいなと思ったんですが、外から丸見えなんじゃないかなと。実際には外からだと中は暗くてあまり見えないんですが、設計案の説明を受けたときはそこが少し引っかかりました。それで間に植木を植えるようにお願いしたんです」(引網さん)
いろんな用途で使われている東側スペース
道路と平行に沿うのではなく、鍵のようにギザギザな形にした平面に大小の開口が並ぶこの東面はいろんな用途で使われているようだ。道とリビングの間を気軽に行き来できるだけでなく、採光・通風面でも大きく貢献、さらにまた外まで視線が抜けることでリビングの広さ感もアップさせている。
「外と気軽に行き来することができるし、リビングの壁にプロジェクターで映せるので中間のスペースに椅子に置いて開口越しに観たりもしています。その同じ椅子で本を読んだりパソコンをいじったりもしていますね」(引網さん)。外との距離が物理的に近いだけでなく心理的にも外とつながっている感じがするとも。これは以前のマンション暮らしからは予想すらできないものだった。
気軽で気持ちの良い空間
最後にこの家に10カ月ほど暮らしてみての感想をうかがってみた。「植木がすごく好き」という引網さんは植木の様子を見に行くにもすっと出られまたすっと戻ってこられるのがいいという。「一戸建てだと外に出るときは少しちゃんとしないといけないかなと思ってしまいますが、そういうことがまったくなくて、その気軽な感じが住んでみて一番いいなあと思いますね。あとこの春、リビングから見える緑の様相が一気に変わったんですが、四季の変化をとても身近に感じられるようになりましたね」
史恵さんは「とにかく気持ちがいい」という。「リビングが明るいので朝からとても気分よく過ごせます。あと思っていたよりも空間が有効活用できている感じがします。外は駐車場があって自転車もとめられて、植木の手入れもできる。中のスペースも有効に使われていない空間がないです。ソファは窓辺にあるので振り返るとすぐそこが外なんですが、くつろいでテレビを見られるし、コーナーに棚をつくってもらって本や小物も置いてある。さらにいろんな用途・形の窓があるのもいいですね」。お2人のお話からは道路と家の間に中間領域をつくり、さらに平面をずらしながら連ねて鍵のような形にしたことがとても効いているようにうかがえた。
引網邸
設計 I.R.A.
所在地 東京都足立区
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 127.66㎡